『ボレロ 永遠の旋律』ラヴェル好きのクラシックファンに捧ぐ、あの「ボレロ」が誕生するまでの物語
ボレロは名曲であるのは間違いない。黒澤明が『羅生門』を撮影した時、黒澤明はこのボレロに極めて似ている曲が使われている。これは早坂文雄が作曲した曲でボレロの曲ではないとしているが、脚本を書いているときに頭の中で「ボレロ」のリズムが浮かんだということだ。
それほど、影響力の強い曲であることは間違いなく、映画の冒頭で、現代の音楽シーンで、さまざまな形で演奏されるシーンがでてくるが、まさに、ボレロが人々に愛され、人々に大きな影響を与えた名曲に他ならないことを示しているのだろう。
「ボレロ」は、人々から非常に愛された曲であり、ラヴェルの作品の中でも有名な曲であることは間違いないが、ラヴェルにとって、複雑な思いを抱いていた曲である。そのあたりを映画は見事に描き切っている。
「ボレロ」以前にラヴェルは偉大な作曲家でありオーケストレーションの天才であり、スイスの時計職人と評されるくらい精緻な曲作りをする、すでに時代を代表する作曲家の一人になっていた。映画の中にもあるアメリカで演奏ツアーのなかで、『ラプソディ・イン・ブルー』のガーシュインがラヴェルに教えをこうてきた時、ラヴェルは「すでに一流のガーシュインなのだから二流のラヴェルになる必要はない」と言えるくらい、偉大な作曲家だった。
そうした名声を得ていた偉大な作曲家が苦しみながらこの「ボレロ」を生み出す経緯を大河ドラマのように描いたのがこの作品だ。
この曲を依頼したイダ・ルビンシュテインはロシア出身のバレリーナで、多くの芸術家のパトロンだったという。1920年代は、ロシア革命の混乱によって多くのロシアの人々がパリに流れてきていて、パリの文化芸術シーンを彩っていた。映画監督のサシャ・ギトリなどもその一人だ。この映画の脇役たちにも深いドラマがある。その辺も、この映画をきっかけに調べても面白いかもしれない。
この映画で、ラヴェルの自宅として撮影された家は、実際の実家の建物であり、現在は「モーリス・ラヴェル博物館」としてガイド付き見学のみの完全事前予約制で見学も可能なようだ。この家の庭園は、ラヴェルが生きていた時代の状態を保っているという。ここで、実際に「ボレロ」は作られたという。
とにかく、ラヴェル好きな音楽ファンは見逃してはならない映画だ。最後の大団円はもちろん、ラヴェルの「ボレロ」であり、自宅では味わえない大迫力音楽を映画館の音響で聴いていただければ幸いである。
アンヌ・フォンテーヌ監督略歴
1959年7月15日、ルクセンブルク生まれ。1980年代に女優としていくつかの作品に出演したのち、『Les Histoires d’amour finissent mal… en général』(93)で監督デビュー、ジャン・ヴィゴ賞を受賞した。ヴェネチア国際映画祭で金オデッラ賞を受賞した『ドライ・クリーニング』(97)、ココ・シャネルの半生絵を描きアカデミー賞衣裳デザイン賞にノミネートされた『ココ・アヴァン・シャネル』ほか、その他の主な監督作品にはナオミ・ワッツとロビン・ライトを主演に迎えた『美しい絵の崩壊』(13)、『ボヴァリー夫人とパン屋』(14)、『夜明けの祈り』(16)などがある。
イントロダクション
音楽史上最も成功した名曲は、ラヴェル本人が最も憎んでいた曲だった――
天才の魂を奪った「魔の名曲」の誕生を描いた本格的音楽映画!
スネアドラムのリズムに導かれ、わずか2種類の旋律が楽器を替えて繰り返されるという、斬新かつシンプルな構成が聴衆の五感を虜にし、17分間にわたり楽曲を貫くクレッシェンドが、カタルシスに満ちた壮大なフィナーレへと誘う名曲「ボレロ」。この音楽史上において最も成功したベスト&ロングセラー曲は、それを生み出した作曲家モーリス・ラヴェル本人が最も憎んでいた曲だったのだ──。本作は、天才作曲家の魂を奪った魔の名曲が誕生するまでとともに、痛みに満ちたその人生も描き出す。
監督は『ドライ・クリーニング』でヴェネチア国際映画祭の金オゼッラ賞に輝き、『ココ・アヴァン・シャネル』や『夜明けの祈り』でセザール賞にノミネートされたフランスを代表する実力派アンヌ・フォンテーヌ。主人公ラヴェルを演じるのは、主演作『黒いスーツを着た男』(12)でアラン・ドロンの再来とフランスメディアに絶賛され旋風を巻き起こしたラファエル・ペルソナ。心身ともに繊細なラヴェルがその才能と人生を振り絞って音楽を生み出す姿を、青い炎のごとく表現した。ラヴェルの生涯にわたってのミューズにして魅惑的なミシアには『ベル・エポックでもう一度』でセザール賞主演女優賞にノミネートされたドリヤ・ティリエ。イダには自身もダンサーとしても活躍、『バルバラ ~セーヌの黒いバラ~』でセザール賞主演女優賞を受賞したジャンヌ・バリバール。また、ミシアの弟でラヴェルを温かく支え続けるシパに、『ダリダ~あまい囁き~』のヴァンサン・ペレーズが扮している。ブリュッセル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏による「ボレロ」に加え、「亡き王女のためのパヴァーヌ」「道化師の朝の歌」などの名曲を、ヨーロッパを代表するピアニストの一人であるアレクサンドル・タローが披露。ラヴェルの今なお輝く多彩な音楽が観る者を魅了するだけでなく、タローは出演も果たした。さらに、元パリ・オペラ座のエトワール、フランソワ・アリュが、生命力が爆発するような跳躍で踊るエンディングの「ボレロ」も見逃せない。
ストーリー
終わらないリズム、陶酔の17分
最高傑作「ボレロ」はいかにして生まれたのか?
1928年<狂乱の時代>のパリ。深刻なスランプに苦しむモーリス・ラヴェルは、ダンサーのイダ・ルビンシュタインからバレエの音楽を依頼されたが、一音もかけずにいた。失った閃きを追い求めるかのように、過ぎ去った人生のページをめくる。戦争の痛み、叶わない美しい愛、最愛の母との別れ。引き裂かれた魂に深く潜り、すべてを注ぎ込んで傑作「ボレロ」を作り上げるが──
8月9日からUPLINK吉祥寺他で公開
予告編
【作品概要】
監督:アンヌ・フォンテーヌ『ココ・アヴァン・シャネル』『夜明けの祈り』 出演:ラファエル・ペルソナ、ドリヤ・ティリエ、ジャンヌ・バリバール、ヴァンサン・ペレーズ、エマニュエル・ドゥヴォス
原題:BOLERO/121分/フランス/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/字幕翻訳:松岡葉子/映倫G
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