『風が吹くとき』核戦争の脅威を描き、世界的なセンセーションを巻き起こしたイギリス製アニメーション

『風が吹くとき』核戦争の脅威を描き、世界的なセンセーションを巻き起こしたイギリス製アニメーション

2024-07-30 18:00:00

核戦争をテーマにした有名なアニメ作品。多くの人がこの作品を見て色々な影響を受けたという。今年アカデミー賞7部門を受賞した『オッペンハイマー』の監督クリストファー・ノーランもこの作品を見ていたらしい。1980年代のイギリスでは核戦争に対する危機の意識そして恐怖感がものすごく強かったという。それが、この作品を生み出す時代背景になっている。

この作品は、非常に評価された名作であることは間違いない。だが、違った見方をしてみよう。ジムとヒルダは核戦争の被害者なのであろうか?第2次世界大戦も経験し、子供もすでに育て上げた、イギリスの片田舎に暮らす平凡な夫婦。一見、戦争とは関係なそうな夫婦だが、夫のジムは政府の指示、命令には盲信と言えるほど従順であり、逆にヒルダは全くの無関心。

映画の上でのストリーでは、冷戦のバランスが崩れ、ソ連が攻め込んでくるという状況らしいが、イギリスは東西冷戦とは無関係ではなく、西側の主役の一人だ。これは、この夫婦を非難しているのではない、現代人はこれから起こりうるカタストロフィ(惨劇)に対してイノセント(無実)ではいられない。そういう原罪を背負っている。その夫婦が隔絶された空間で、それは閉ざされ、外とは分断された自分たちの空間の中で、徐々に衰弱し、最後はじゃがいもを入れる紙袋に入って、祈りを捧げているところで映画は終わる。

威丈高に核戦争を非難しているのでも、自分たちの悲劇を嘆いているのでもない。夫婦が住む家以外での核戦争の凄惨な被害は写されない。こういう表現の仕方で、核兵器に対する抗議そして人間の尊厳を描いているのは、感心させられる。

この作品が作られた1986年には、アンドレイ・タルコフスキーが遺作となる『サクリファイス』を完成させる。『サクリファイス』も核戦争が勃発した世界を、そして人間はその事態に何ができるのか、救いはありうるのかをテーマにした作品だ。この時期、世界中の人々が真剣に核戦争について考えていたのだろうと思う。

だが、現在の世界情勢は、ウクライナでの戦争、ガザでの戦争、戦略的なく兵器の使用はないかもしれないが戦術的な核兵器の使用のハードルは恐ろしく下がっている。私たちは、もう一度こういった作品を見返し、核兵器というものを考える時期に来ているのかもしれない。次に起こる核戦争には、自分たちが無実だとはいえないことを理解しながら考える必要がある。

1987年アヌシー国際アニメーション映画祭最優秀作品賞受賞
100年後も残したい歴史的名作

アニメーション映画『風が吹くとき』は、1986年に英国で制作され、翌1987年に日本でも劇場公開された。
「スノーマン」や「さむがりやのサンタ」で知られる作家・イラストレーターのレイモンド・ブリッグズが、マンガのようなコマ割りスタイルで描いた同名の原作「風が吹くとき」(あすなろ書房刊)を、自らも長崎に住む親戚を原爆で亡くした日経アメリカ人のジミー・T・ムラカミ(『スノーマン』)が監督。音楽を元ピンクフロイドのロジャー・ウォーターズが手掛け、主題歌「When the Wind Blows」をデヴィッド・ボウイが歌っている。さらに『戦場のメリー・クリスマス』(1983)で生まれたボウイとの友情から、日本語(吹替)版を大島渚監督が担当。
また、主人公の夫婦ジムとヒルダの声を森繁久彌と加藤治子が吹き替えたことでも大きな話題を呼んだ⼀作だ。

 

 

 

ストーリー

イギリスの片田舎で暮らすジムとヒルダの平凡な夫婦。二度の世界大戦をくぐり抜け、子供を育てあげ今は老境に差し掛かった二人。ある日ラジオから、新たな世界戦争が起こり核爆弾が落ちてくる、という知らせを聞く。ジムは政府のパンフレットに従ってシェルターを作り始める。先の戦争体験が去来し、二人は他愛のない愚痴を交わしながら備える…、そして、その時はやってきた。爆弾が炸裂し、凄まじい熱と風が吹きすさぶ。すべてが瓦礫と化した中で、生き延びた二人は再び政府の教えにしたがってシェルターでの生活を始めるのだが…。

 

公式サイト

 

8月2日(金)からUPLINKl吉祥寺UPLINK京都で公開!

原作・脚本:レイモンド・ブリッグズ
監督:ジミー・T・ムラカミ
主題歌:デヴィッド・ボウイ(「When The Wind Blows」)
日本語版監督:大島渚
日本語吹替版キャスト:森繫久彌、加藤治子

配給:チャイルド・フィルム