『大いなる不在』森山未來、藤竜也の圧倒的演技が際立つヒューマンドラマ
本作品の題名について考えてみよう。最初に『大いなる…』がついている。単純に長い不在ではない。
この『大いなる』と聞くと、フランスの巨匠ジャン・ルノアールの『大いなる幻影』が頭に浮かぶが、この英語題名がGrate Illusionであり、本作品『大いなる不在』の英語題名はGrate Absenceである。
すると、この大いなるは、大きい、偉大、重大、素晴らしいという日本語訳となり、否定的な意味の大きいではなく、肯定的、あるいは尊敬を込めた大きなということになるであろう。その大きく偉大な不在というのは何を意味するのか?これを探すのがこの映画のテーマなのかもしれない。
映画のあらすじは以下の通りだ。
小さい頃に自分と母を捨てた父が、警察に捕まった。
連絡を受けた卓(たかし)が、妻の夕希と共に久々に九州の父の元を訪ねると、
父は認知症で別人のようであり、父が再婚した義母は行方不明になっていた。
卓は、父と義母の生活を調べ始めるが――。
映画の題名である『大いなる不在』すなわち偉大な不在の骨幹にあるのは、この主人公を捨てた父の陽二を演じた藤竜也だ。藤竜也はこの演技でサンセバスチャン国際映画祭で主演俳優賞を受賞している。
藤は、以前に妻子を捨て、今では認知症となったが、依然として知の権威者たる父を、素晴らしい説得力を持って演じている。藤だけでなく、父を支えた主人公には義母にあたる直美を演じた原日出子の演技も秀逸だ。
この二人を追いかけ、父という存在を探っていくのが森山未來演じる卓だ。
卓は、自分と自分の母親を捨てた陽二がなぜ捨てたかを探っていくのではなく、卓にとっての父という存在は何かを探っていく、哲学的な問いかけを繊細な感覚で問い続ける森山の姿は感動を呼ぶ。
この映画は、見る人がそれぞれの『大いなる不在』の“大いなる”を映画の中に、そして自分の中に探し求める必要があるのではないか。そういった非常に困難な命題を見る側に求める映画であり、国内外で高い評価を得た本作を劇場で確かめてほしい。
イントロダクション
初監督作『コンプリシティ/優しい共犯』に続き、長編監督2作目にして世界の映画祭で受賞、絶賛評を博し、その勢いが止まらない。第48回トロント国際映画祭プラットフォーム・コンペティション部門にてワールドプレミアを飾り、第71回サン・セバスティアン国際映画祭のコンペティション部門オフィシャルセレクションに選出。
日本人初となる最優秀俳優賞を藤竜也が受賞するという快挙を成し遂げ、サン・セバスティアンの文化財団が最も卓越した作品に与えるアテネオ・ギプスコアノ賞も受賞。アメリカ最古の国際映画祭である第67回サンフランシスコ国際映画祭では最高賞にあたるグローバル・ビジョンアワードを受賞している。
主人公の卓(たかし)を演じるのは森山未來。手探りで「父」という謎を探っていく息子の心情を、細やかな表情の陰影で表していく。父親の陽二には、近浦監督とは3度目のタッグとなる藤竜也。
会うたびに別人のような表情を見せる陽二の姿を驚異的なリアルさで体現する圧巻の演技を見せる。さらに、卓の妻の夕希に真木よう子、義母の直美に原日出子と、幾重にも重なる感情を加える実力派俳優が物語を彩っていく。
ストーリー
卓(森山未來)は、ある日、小さい頃に自分と母を捨てた父(藤竜也)が警察に捕まったという連絡を受ける。
妻(真木よう子)と共に久々に九州の父の元を訪ねると、父は認知症で別人のようであり、父が再婚した義理の母(原日出子)は行方不明になっていた。卓は、父と義母の生活を調べ始めるが——。
『大いなる不在』予告編
2024年7月12日(金) TOHOシネマズシャンテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー
監督:近浦啓
出演:森山未來、真木よう子、原日出子、藤竜也
配給:GAGA
(2023年/日本/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/133分)