『スクラッパー』ミュージックビデオ監督出身によるフレッシュでカラフルな社会派映画
『スクラッパー』、母を病気で亡くした12歳の少女ジョージは、自転車泥棒をして、それを中古自転車に転売して生活している。
生きることにはタフではあるが、まだまだ少女で夜は母の残したスマホに残された映像をいつも再生して寂しさを紛らわしている。
そんなジョージの元に父親を名乗るジェイソンが現れる。そこから始まる父娘の物語。
1994年生まれのシャーロット・リーガン監督は、10代からミュージックビデオの監督を務め、200本以上の作品を作ってきた。その経験から、映像の編集のセンスは、ときおりミュージック・ビデオっぽく、音楽とのシンクロが絶妙であり、色彩もカラフルなトーンだ。
いわゆるケン・ローチに代表されるようなイギリスの社会派映画のトーンとは一味違うポップさがあり、精一杯生きるジョージを見ているだけで飽きさせない。
リーガン監督は、撮影現場を「子供たちの楽観的なエネルギーに触発された。彼らのような無邪気さと魔法を撮りたかったのです」と語る。
もちろん最後はハートウォーミングな気持ちにさせてくれるので気持ちをリフレッシュしたい時にお勧めの映画。
シャーロット・リーガン 監督インタビュー
――本作を制作することになった経緯を教えてください。
シャーロット・リーガン監督(以下、シャーロット):これまで、ミュージックビデオ(MV)を100本以上、ショートフィルムを20本以上作ってきましたが、私の作品を評価してくださるBBCの方から、「そろそろ長編映画に挑戦してみては?」というアドバイスをいただきました。ちょうどワーキンクラスを
描いた映画を作りたいと思っていたので、BBCのサポートを受けながら、イギリスの助成金システムを活用してこのプロジェクトを立ち上げました。
――本作は監督自身の経験も含まれているとお聞きしましたが、作品にどの程度反映されているのでしょう。
シャーロット:主人公のジョージー(ローラ・キャンベル)=私、というわけではありませんが、彼女と似たような貧しいコミュニティーで子供時代を過ごしたので、そのときに体験したことや感じたことは、もちろん映画に反映されています。また、この脚本を書き上げるのに4年の歳月を費やしたのですが、その間、父、祖母、おば、そして養母と立て続けに近親者を亡くし、とても辛い思いをしたので、そのときに抱いた悲しい気持ちも作品に入れ込みました。
――脚本上ではキャラクター設定をゆるくしていたとおっしゃいましたが、それはあえてそうしたんでしょうか? またジョージーの補聴器は設定ですか?
シャーロット:これまでMVやショートフィルムを主に作ってきたんですが、アマチュアの若い人たちを起用することが多かったので、彼らを緊張させないために、彼らの個性に合わせてキャラクターをつくるという手法をとってきました。アマチュアの人たちにとって撮影現場は、「安心できる楽しい
場所」であることがすごく大切なんです。キャラクターを無理やり押し付けてしまうと、それがプレッシャーになって、彼らの自然な姿が撮れなくなりますから。だから、今回も同様にキャラクター設定をあえてゆるくしました。何か特別な才能を持ってる子を見つける方がいい結果になると信じてキャストを選びました。また補聴器は設定ではなく、ローラ自身のものです。彼女は私の指示を聞きたくないときはわざと補聴器の電源を落としたりしていました(笑)。
――ジョージーは、母親を亡くして半年足らず。今おっしゃったような葛藤を抱えつつ、違法ではありますが、自転車の部品を巧みな営業トークで売りさばき、なんとか生計を立てている。環境が作り出す人間のポテンシャルってすごいなと思いますが、イギリスには、このような生活を強いられている子供たちが一定数いるのでしょうか?
シャーロット:たくさんいると思います。親がいない子供もいますが、親がいてもその役割をしていない、子供の面倒をちゃんと見ていない、というケースもあります。ジョージーの場合、父親のジェイソンがいますが、その両方にあてはまりますよ。ジョージーが生まれた当時、大人になりきれてなかったジョイソンは、親になる準備ができておらず、家族を置いて出て行ってしまった。その後、母親が病気で他界し、独りぼっちになってしまったジョージーは、生き延びるための手段を考えなければならないわけです。本作では、自転車を盗んで闇業者に売るという場面が描かれていますが、私としては、ポジティブに描いたシーンなんです。自転車泥棒は、悪いことではありますが、状況が変われば立ち直れるチャンスがある…。なかには麻薬の売人になってしまう子もいますから。
――あなたのキャリアについて聞きたいのですが、これまでMVやショートムービー、ドキュメンタリーなどを経験し、本作の制作にたどり着いたわけですが、子供のころから「映画監督になりたい」という夢はあったのでしょうか?
シャーロット:映画監督になろうなんて全く思っていなかったです。仲の良い友だちがMVを作りたいということで、私が駆り出されたのですが、今から思えば、そこが運命の分岐点でした。映像のスキルもなかったし、学校でも成績も良くなかったし、集中力も全くない子供だったので、本当に救
われた感じです。結果、そのMV制作がきっかけとなって映画業界に入ったわけですが、ある意味、夢の世界にいるような…今は本当に幸せな気持ちでいっぱいです。
イントロダクション
本作は、カラフルなビジュアルセンスと優しくもエモーショナルな親子のドラマが評判を呼び、サンダンス映画祭2023ワールドシネマドラマ部門にて審査員大賞を受賞、英国アカデミー 賞 2024 では『関心領域』『哀れなるものたち』『ナポレオン』と共に英国作品賞にノミネート を果たし、米アカデミー賞の前哨戦の一つであるナショナル・ボード・オブ・レビューではインディペンデント映画トップ 10 に選出された。
手掛けたのは、マイケル・ファスベンダーの制作会社 DMC フィルムズに才能を見出され、本 作が⻑編デビューとなる 1994 年生まれの新鋭シャーロット・リーガン。10 代の頃から MV の監督を務め、これまでに 200 本以上を手掛けてきた若き逸材だ。主演のジョージー役に、 リーガン監督が白羽の矢を立て抜てきしたローラ・キャンベル。本作でスクリーンデビューを果 たし、たくましさと可憐さが共存した絶妙な演技で多くの映画人の心を奪い、英国インディペ ンデント映画賞ほか複数の俳優賞にノミネートされた。さらに、一人娘ジョージーと親子関係 を構築しようとする不器用な父親ジェイソンに扮するのは、『逆転のトライアングル』『アイアン クロー』など話題作への出演が立て続くハリス・ディキンソン。次世代の英国俳優として期待 を寄せられている彼が新境地をひらいている。
ストーリー
母との思い出が詰まった居場所を守るため、アパートで独り暮らしをしている12歳の少女ジョージー。生前に母からもらった大切なユニフォームをさながら戦闘着のごとく身にまとい、大人顔負けの話術と図太さで近隣住人やソーシャルワーカーの介入や詮索をかわし、親友のアリと自転車を盗み日銭を稼ぎながらたくましく生き抜いていた。
そんな彼女のもとにある日突然、父だと名乗る金髪の男ジェイソンが現れる。母を捨てて育児から逃げた父を許せず、拒絶するジョージー。信頼関係ゼロのふたりが見つけたものとは……。
予告編
監督・脚本:シャーロット・リーガン 出演:ローラ・キャンベル、ハリス・ディキンソン
2023 年/イギリス/英語/84 分/スコープ/5.1ch//PG12/原題:SCRAPPER/日本語字幕:北村広子 提供:キングレコード/配給:ブロードメディア/配給協力:フリック
© Scrapper Films Limited, British Broadcasting Corporation and the The British Film Institute 2022