『アディクトを待ちながら』悪人が出てこない登場人物みんなを応援したくなる映画

『アディクトを待ちながら』悪人が出てこない登場人物みんなを応援したくなる映画

2024-06-28 18:00:00

この映画には悪人が出てこない。悪人が出てこない映画を作るのは実は大変である。製作の段階はまだしも、映画祭への展開は難しくなる。善意に支えられれば支えられるほど、その傾向は強くなる。
そんな中、この映画は、映画としてしっかりと成立させている。しかも、この映画の素晴らしいところは、見終わった後に、登場人物全てに愛着を覚えてしまい、映画の最後にはみんなを応援したくなている。
登場人物全てに愛着を覚える、つまり、全ての人物を受け入れる。これこそ、この映画の目的であり、監督の狙いであるのだろう。

依存症には、薬物依存症、ギャブル依存症、アルコール依存症、ゲーム依存症、買い物依存症など、様々なものがあり、精神的な病気である。しかし、回復できる病気でもある。しかし、簡単に回復できるわけでもなく、依存から一旦脱却しても、スリップ(依存への回帰)が起こったり、しかも、それが何度も繰り返されることがあったり、そのために、回復が無理な病気であると勝手に考えてしまう風潮がある。

しかし、現実は、回復することは必ずできる病気なのだ。では、社会や、家族、あるいは近くの人々はどうしたら良いか?それは、この映画のタイトル『アディクトを待ちながら』が、示唆するように、待つことが大事だということ。依存という症状は、社会的に影響のある、ある意味で刑事的な犯罪として扱われてしまう薬物依存のようなものもあるが、一般各ご家庭で、悩みを抱えてしまうようなゲーム依存症のようなものもあり、実は身近な問題である。

その解決方法は、簡単ではないかもしれないが、その依存を抱える人の近い人たちは、この映画が示唆するように、「待つ」という心構えを持つことは重要だ。待つことができれば、その依存に陥った人を、孤独の中に置いてきぼりにすることないだろう。それが、回復への道程に必要なことだと思う。

今回、主演した高知さんは、薬物依存を経験していて、こう言った社会的に重要なテーマの役を演ずるにあたり、普通なら力んで演じてしまうところを、飄々と演じていて、依存症になってしまう人は、一般の人とは違った激しい性格の人なんかではなく、人がよく、どこか寂しがりな人が、何らかのきっかけで陥ってしまう、そんな現実を台詞で説明するのではなく、表情や柔らかい動作で表現していて、この高知さんを見れるだけでもこの映画の価値がると言えるだろう。

 

イントロダクション

プロデューサーコメント

依存症問題の支援者として、薬物問題が起きる度に「上映中止」となる現実を腹立たしく見ていました。アルコール、薬物、ギャンブル依存症には、病気という側面があります。逮捕され犯罪者となっても、人生は続き、回復に向き合い社会復帰をしなくてはなりません。そこにはドラマがあります。彼らを「ないもの」として蓋をする風潮に、我々依存症者とその家族は断固として立ち向かいます。これはエンタメを道徳の様に扱おうとする、頭の固い一部勢力に対する宣戦布告です。

プロデューサー:田中紀子(ギャンブル依存症問題を考える会代表)

 

ストーリー

数々のヒット曲を持つ大物ミュージシャン、大和遼が覚醒剤と大麻の所持で逮捕された。人々は驚き、落胆し、大きなニュースとなった。あれから2年。依存症患者らで結成されたゴスペルグループ「リカバリー」が音楽ホールでコンサートを開こうとしていた。そのメンバーには大和の名前があった。あの事件以来、沈黙を守ってきた大和がついにカムバックする。出演の知らせを聞いたコアなファンが続々と会場前に集まった。薬物、ギャンブル、アルコール、買い物、ゲームといった依存症者で構成される依存症ゴスペルグループ「リカバリー」。メンバーたちは互いに支え合い、スリップ(依存性物質に再び手を出すこと)することなくコンサートにこぎつける。しかし、大和は開始時間を過ぎても現れない。逃げたのか?それともスリップ?果たしてコンサートは開催できるのか——。

監督プロフィール

監督・脚本 ナカムラサヤカ

助監督として数々の映画に参加。主に佐々部清監督に師事。『FASHION STORY-Model-』(2012年)で映画監督デビュー。五輪公式映画『東京2020オリンピックside A/side B』ではディレクターの一人として抜擢。また、Amazon『バチェラー・ジャパン』シリーズやABEMA『LOVE CATCHER japan』でクリエイティブチームに参画するなどドラマだけでなく恋リアやドキュメンタリーなど様々なジャンルの演出を手がける。

監督ノート
「ギャンブル依存症」という言葉が日本中に衝撃を与えた2024年の春。偶然にも同年夏に公開となる本作「アディクトを待ちながら」が撮影されたのは、2022年の秋のことでした。

 私は、2020年から公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会の田中代表のもとでギャンブル依存症の当事者や家族の方々に取材を重ね、依存症をテーマにネット配信の連続ドラマを作ってきました。青木さやかさん主演「ミセス・ロスト〜インタベンショニスト・アヤメ〜」、中村優一さん主演「前略 ハルカ様」、増田有華さん主演「嘘つきは〇〇のはじまり」の3本ですが、この制作を通して、今までの依存症のイメージや対処法が如何に間違っていたかを私自身つくづく感じ、また、この問題は日本社会が抱える多くの「生き辛さ」に起因するものであると想いを強くしていきました。

 そもそも私の親族の中にもギャンブル依存症になった人がいます。“仕事をしっかりこなし真面目で親の言う事をよく聞く大人しい人”というイメージのおじさんでしたが、ある時を境にガラッと人間が変わったようになり、お金の問題で親族が分断してしまいました。傷付けられた両親をみていて、なぜ?という疑問と共に悔しくて切なくて私はとにかく怒っていました。そのおじさんに対して。

 その時はまだギャンブル依存症という「病気」であるとはわからなかったのです。きっと私たち親族はたくさんの間違った対応をしたのでしょう。2020年に田中代表に出会って、こんなやり方があるのかとまさに目から鱗でした。そして、おじさんが突然変わった理由がようやくわかりました。人間性の問題ではなく脳の病気だと言う事を。

 私もいわば依存症者の被害者ですが、でも、怒りの気持ちに囚われていても問題を解決する事は出来ません。依存症に苦しむ人々(当事者も関係者も)をこの世から無くしたい。だから映画「アディクトを待ちながら」を作ったのです。
 
 4日間の俳優ワークショップの短編映画制作からスタートしたこの作品に予算がつき、急遽長編版のシナリオを書き、3日間追加撮影をして完成した本作はまさに多くの人々の情熱によって公開までに至りました。

 特に初めて映画製作に取り組み、慣れない中でも懸命に作品を支え奔走してくれた田中紀子プロデューサーには言い尽くせない感謝の想いです。私がやりたかったラストシーンのサプライズ演出(出演者には大和遼が出てくると事前に伝えないこと)も快く許可して頂きました。

 大和遼を演じた高知東生さんの心の底から出るリアルなセリフに一番最初に痺れたのは監督の私です。高知さん、「好きにしてください」という無茶振りにこたえ想像を越える姿を見せてくれてありがとうございました。30人超のワークショップキャストのみなさん、一人一人がきちんと役を深掘りし“役を生きて”くれました。私としては“一人一人が主人公”のつもりで書いたシナリオでもあります。みなさんに出会えてよかった。驚かせてごめんなさいね笑。いつか一緒に仕事をしたいと思っていた橋爪遼くんに今回繋げてくれたのも田中プロデューサーです。遼くん、勇気を出して参加を決意してくれた姿、現場で緊張する姿も全部素敵でした。他にも協力して頂いたキャスト・スタッフ、ロケ場所など関係者のみなさん。素晴らしい仲間に恵まれている事、この上ない幸せです。ありがとうございました。

 最後に、依存症を学び始めてから「助けるものが助かる」という言葉を知りました。助け助けられながら回復を続ける依存症者たち。その姿はきっと現代社会で生き辛さを抱えた人々の助けにもなると思います。本作がたくさんの人々の心に届く事を祈っています。

Tokyo Borderless TVの『ホマレノマ』第59話で、ナカムラサヤカ監督のインタビューが配信されています。

Tokyo Borderless TV

7月5日からUPLINK京都で上映

※7月6日(土)にはナカムラ監督による舞台挨拶を予定

公式サイト:https://www.addict-movie.com

出演

高知東生 橋爪遼 宍戸開 升毅
青木さやか 中村優一 中山夢歩 下田大気 塚本堅一 武藤令子
蒼野ひかり 青柳美冴 荒井千佳(水月静) 伊燈香月 生川春花 大野光一 荻野みかん
唐澤里美 紀那きりこ 久保田メイ
後藤英樹 小西貴大 小松広季 小森敬仁
庄司浩之 竹本結音 田中美弥
樽見弦 つる 手島アリサ ナオミ
西川真生 藤峰みずき 古川時男
松村ひらり 松本晃実 宮部大駿
三輪隆 三輪規子 森本千佳子
安田成穂 山岡竜弘 横山琉斗

スタッフ

監督:ナカムラ サヤカ

プロデューサー : 田中紀子
音楽 : 金谷康佑
撮影 : 岡本和大
録音 : 松島匡
編集 : 細野優理子
VFX : 宮島壮司 藤中修一
ヘア&メイク : 中村洋子
衣裳 : 袴田知世枝
助監督 : 田中惇也
協力プロデューサー : 野村展代
宣伝プロデューサー : 村上知穂
宣伝 : 森恭平、簑島亘司
宣伝デザイン : Ota keigo
予告編 : 白岩大志

配給 : マグネタイズ
配給協力 : ミカタ・エンタテインメント
制作協力 : スパイスクッキー
製作 : ギャンブル依存症問題を考える会
2024年/日本/82分/ビスタ/カラー/5.1ch

予告編