『わたくしどもは。』静寂な神秘に包まれた佐渡を舞台にした二人の恋人の別れと再会の物語
本作品は、佐渡島の金山跡地を舞台に、この地に眠る無宿人の墓からインスピレーションを得たオリジナルの物語であり、小松菜奈・松田龍平が演じるミドリとアオ、二人の恋人たちの別れと再会を描いたものだ。この二人の別れと再会を軸に、佐渡の持つ神秘性が、見ている私たちを、あの世とこの世の狭間にある神秘の世界へゆっくりとしたテンポの中で誘い込んでいく。
本作品は、主演二人に加え、ミドリを支えるキイ役には大竹しのぶ、金山の館長役に田中泯、ミドリを惑わすムラサキ役に石橋静河、ジェンダーに悩む高校生・透役に歌舞伎界ホープの片岡千之助、その母親役に内田也哉子の豪華な実力者たちが脇を固める。さらに、この俳優陣に負けない存在感を見せてくれるのが、佐渡の風景だ。佐渡は静寂の中に雄大さを有する土地なのかもしれない。佐渡の持つ静寂な雄大さが人々を超越した神秘性に誘い、静寂さが、逆に、この作品のテーマを雄弁に語ってくれるのかもしれない。神秘をリアリティに感じることは、普通できないことだが、佐渡の静寂な雄大さが、神秘にリアリティを感じることができる。この佐渡を舞台にしているからこそ、主演の二人の想いが説得力を持ち、見るものの心を打つのだろう。
この作品を監督した富名哲也監督は、プロデューサーで妻の畠中美奈と立ち上げたテツヤトミナフィルムで、国内外の国際映画祭を足がかりに独自の作家性を築いてきた。2013年の短編『終点、お化け煙突まえ。』(岸井ゆきの主演)は第18回釜山国 際映画祭の短編コンペティション部門に公式出品され、2018年に発表した初長編映画『ブルー・ウインド・ブローズ』は第68回ベルリン国際映画祭ジェネレーション・コンペティション部門に公式出品 。『わたくしどもは。』長編2作目となる。
富名哲也 監督インタビュー
―『わたくしどもは。』の世界観を作るまでの経緯を教えてください。
私とプロデューサーで妻の畠中は、2017年に初長編作『ブルー・ウインド・ブローズ』を新潟県佐渡島で撮影しました。佐渡金山はその撮影後に初めて訪れたのですが、傍にひっそり佇む無宿人の墓から無宿人という存在を知り、この映画がスタートした気がします。何かしらの理由で戸籍を奪われた無宿人たちは、江戸時代に内地から佐渡に連れてこられ鉱山での過酷な労働の中、その多くは数年で亡くなってしまったそうです。直接的に彼等のことを描かないにしても、インスピレーションはそこで湧いたのです。
―映画の冒頭、ミドリ(小松菜奈)とアオ(松田龍平)の心中を匂わすエピソードが登場するのも、歴史からの引用ですか?
相川地区に伝わる相川音頭は、幕末の天保の改革で禁じられるまでは、心中口説き節だったことは知られています。近松門左衛門の人形浄瑠璃「心中天の網島」などが大阪で上演されて、関西で男女心中が流行り、それから佐渡でも心中事件が流行ったといいます。当時、心中は重罪でした。為政者としては後追いを断つために、ときには心中した者を野ざらしにして墓を作らせなかったりしたそうです。そういった背景が何かしら物語に影響したのではと思います。主人公の二人は何らかの理由で現世では結ばれることが出来なかったという設定で、その後、登場するムラサキ(石橋静河)はアオのかつてのパートナーという人物設定にしています。佐渡の歴史的背景の影響もありますが、何よりこの映画のストーリーに関係しているのは、私たち夫婦のことなのかもしれません。私と畠中は、プライベートでも仕事でもいつも時間を共にしています。ロケハンの移動中などで、死んだらまた一緒になるのか、死ぬなら一緒のタイミングが良いなど、たわいも無い会話をよくすることがあって、そのことが何よりダイレクトな影響を与えているのだと思います。
―金山の施設内でミドリは目覚めますが、彼女を助けるキイ(大竹しのぶ)ほか、館長などのいる世界観はどういう設定になっているのでしょうか?
過去の記憶が無い人たち、名前の無い人たちに関しては、死んでから成仏するまでの49日間の時間軸に漂っている人としています。その意味で、本作の主題は"生まれ変わり“。映画に度々登場する佐渡金山の頂上がV字に削られた〈道遊の割戸〉をあの世とこの世を結ぶ通り道として見立てています。その期間を過ぎても留まり彷徨っている魂たちもいます。ただ、私の方で定めた設定はありますが、観客の方に自由に解釈してもらえればと思っています。というのも、小松さんにも、松田さんにも細かな設定をお伝えしていません。物語のキャラクターを演じてもらうというより、ふたりがただそこにいるという存在を映像に刻印したいというのがありました。そのことは撮影前におふたりにはお伝えしました。
富名哲也
TETSUYA TOMINA
監督・脚本
北海道釧路出身。英国ロンドン・フィルム・スクールで映画を学ぶ。2013年、短編『終点、お化け煙突まえ。』(岸井ゆきの主演)は、第18回釜山国際映画祭の短編コンペティション部門に選出。2015年、企画「ブルー・ウインド・ブローズ」が釜山国際映画祭のASIAN CINEMA FUNDにて助成金を獲得。2018年、長編初監督作品『ブルー・ウインド・ブローズ』は第68回ベルリン国際映画祭ジェネレーション・コンペティション部門とBerlinale Goes Kiezに選出。ウクライナの映画祭で撮影賞、バングラデシュでは作品賞を受賞。長編企画「わたくしどもは。」は、ベネチア国際映画祭が実施する新鋭監督を支援するプロジェクト、Biennale College Cinemaに選出される。同企画は、TIFFCOM TOKYO-GAP FINANCING MARKET、Hong Kong-Asia Film Financing Forumなどの企画マーケットにも選出。長編第二作『わたくしどもは。』は、香港国際映画祭INDUSTRY傘下のHKIFF COLLECTIONとワールドセールス契約を結ぶ。2023年10月、同作は第36回東京国際映画祭コンペティション部門にてワールドプレミアを迎えた。
ストーリー
名前も、過去も覚えていない女(小松菜奈)の目が覚める。
舞台は佐渡島。鉱山で清掃の仕事をするキイ(大竹しのぶ)は施設内で倒れている彼女を発見し、家へ連れて帰る。女は、キイと暮らす少女たちにミドリと名付けられる。キイは館長(田中泯)の許可を貰い、ミドリも清掃の職を得る。ミドリは猫の気配に導かれ、構内で暮らす男、アオ(松田龍平)と出会う。彼もまた、過去の記憶がないという。
言葉を重ねながら、ふたりは何かに導かれるように、寺の山門で待ち合わせては時を過ごすようになる。そんなある日、アオとの親密さを漂わせるムラサキ(石橋静河)と遭遇し、ミドリは心乱される。
『わたくしどもは。』予告編
公式サイト
2024年5月31日(金) 新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺、アップリンク京都、ほか全国順次ロードショー
Cast
小松菜奈 松田龍平
片岡千之助 石橋静河 内田也哉子 森山開次 辰巳満次郎 / 田中泯
大竹しのぶ
音楽:野田洋次郎
Staff
監督・脚本・編集:富名哲也
企画・プロデュース・キャスティング:畠中美奈
撮影:宮津将 照明:渡辺隆 サウンドデザイン:鶴巻仁 衣裳:田中洋介 ヘアメイク:楮山理恵 特殊メイクアップ監修:林伸太郎 サウンドエディター:松浦大樹
助監督:浅井一仁 制作担当:呉羽文彦 宣伝プロデューサー:伊藤敦子
特別協賛:ナミックス
協賛:新潟日報社 今泉テント 新潟クボタ サンフロンティア不動産 ジー・オー・ピー 新潟放送 エフエムラジオ新潟
2023年/日本/101分/カラー/スタンダード/5.1ch 映倫:G
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業) 独立行政法人日本芸術文化振興会
World sales:HKIFF COLLECTION
配給協力:ハピネットファントム・スタジオ
製作・配給:テツヤトミナフィルム
©2023 テツヤトミナフィルム