『ハピネス 』吉祥寺の街を美しく描いてくれた良作

『ハピネス 』吉祥寺の街を美しく描いてくれた良作

2024-05-14 16:41:00

この映画は、UPLINK吉祥寺がある吉祥寺という街とは切っても切れない関係にある映画だ。映画の中で主人公の二人が住んでいるのは杉並区の荻窪周辺であり、デートの場所として選んでくれたのが吉祥寺だ。

なぜ吉祥寺なのか?
主人公の女子高生である由茉が自分らしく生きるために選んだロリータファッション、他の街では奇異な目でも見られても、吉祥寺なら受容されるだろう。実際、映画の中で雪夫と由茉が通う高校は制服だったが、吉祥寺にある明星学園(三鷹市にある私立の学校)なら、好みのファッションで学校に通ってもウェルカムだ。そのくらい吉祥寺という街は、自分らしく生きたいと思える人々を応援する街なのだ。

映画の中では、冒頭の喫茶店が、南口駅前の名店「ゆりあぺむぺる」。独特なアンティークな雰囲気に溢れ、コーヒーをはじめクリームソーダも有名だ。映画の世界観を店のインテリアを見せることで、冒頭から説得力を持って観客の方々を映画の世界に引き込む重要な役割を担っている。ただ、このお店では、由茉が好きなアールグレイ(ストレート)はなく、アレンジティーのアールグレイフラワーというメニューがある。

なお、喫茶店に掲げられた絵画は、吉祥寺の隣の駅井の頭公園駅前にあった伝説の喫茶店「宵待草」(現在は閉店)のオーナーが所有するものを借りてきたという。そして、デートをする公園は、言わずもがなの井の頭恩賜公園だ。井の頭公園をこんなに美しく、魅力的に描いた映画作品はなかったと思う。そういう点からも、吉祥寺を地元にする私たちは、映画監督やスタッフさん、そして出演者の皆様に感謝申し上げなければいけないところだ。

吉祥寺が魅力的に映るためには、実は仕掛けがある。屋外を魅力的にさせるための工夫が、由茉の部屋のインテリアにある。この部屋こそ、夢の始まりになりうるパワーを内包している。この夢の始まりの予感に満ちた部屋があるからこそ、吉祥寺が夢を実現する街として、より輝きを増すことになったのだろう。

今回の作品を語る時、ストーリーについては当然嶽本野ばらさんが原作であり、演出は篠原監督、出演者も素晴らしく、映画の完成度の高さは言うまでもないが、美術スタッフの皆さんが素晴らしい仕事をしている。美術はセット、小道具…全てが高いレベルで映画を支え、また、メインの衣装である由茉のロリータファッションも、嫌味になるどころか、大きな説得力を持たせているのは、衣装の選定と、衣装のイメージを壊さずに、しかし、高校生のジェネレーションが持つ魅力を崩さずに保つことができたヘアメイクの技術だろう。映画を志す人にとっては色々な意味で勉強になる作品だ。

 

篠原哲雄 監督コメント


「ハピネス」はネタバレをしてはならない作品である。17歳の人生に起きてしまう運命的な出来事。寄り添う家族や友人がそれをどう受け止め、懸命に振舞うか?その自然で人間的な営みを日常の出来事として丁寧に掬って描いていくこと。これらを演出の命題として取り組んだ。もう一つ、人には大切にしている特別なものがそれぞれある。夢を果たすために後悔なく行動すること。窪塚愛流、蒔田彩珠の一見贅沢な振る舞いが実は慎ましさに満ちている。その切実さこそが「ハピネス」の根幹なんだと思う。

篠原哲雄
監督
1962年2月9日生まれ。東京都出身。助監督や自主制作で経験を積んだ後に、1993年に爆笑問題の太田光主演の中編『草の上の仕事』(93)で注目を集め、山崎まさよし主演の初長編映画『月とキャベツ』(96)がヒット。その後も山崎とはオムニバス映画『Jam Films』の「けん玉」(02)、BUNGOシネマにて太宰治原作の「グッドバイ」、『影踏み』(19)、そして本作でタッグを組んでいる。2018年の『花戦さ』で第41回日本アカデミー賞優秀監督賞を獲得した。主な映画作品として『はつ恋』(00)、『深呼吸の必要』(04)、『天国の本屋~恋火』(04)、『真夏のオリオン』(09)、『花戦さ』(17)、『犬部!』(21)などがある。公開待機作に『本を綴る』(24)がある。

 

ストーリー

好きなお洋服を着て、好きなものを食べて、大好きな人と一緒にいたい

出会いは、高校の美術室。

好きな作家の画集を見て、好きな本の話をする…。そんな雪夫と由茉の平凡な日々は、「私ね、あと1週間で死んじゃうの」という由茉の突然の告白によって一変する。その言葉に雪夫の心は乱れ、気持ちが追いつかずにいたが、彼女はすでに自分の運命を受け止め、残りの人生を精いっぱい生きると決めているようだった。そんな思いを受け止めた雪夫は、彼女との残り少ない日々に寄り添う決意をする。

由茉にはやりたいことがたくさんあった。

今まで人目を気にしてできなかったファッションに挑戦することや、日本一のカレーを食べに行くこと。そして何よりも残り少ない日々をふたりで一緒に過ごし、最期の瞬間までお互いのぬくもりを感じ合うこと。

そんな“奇跡的な日々”を過ごした2人は、間違いなく“ハピネス”だった──。



『ハピネス 』予告編


公式サイト

 

2024年5月17日(金) 新宿ピカデリー、渋谷HUMAXシネマ、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー

 

Cast
窪塚愛流 蒔田彩珠
橋本 愛 山崎まさよし 吉田 羊

Staff
原作:嶽本野ばら「ハピネス」(小学館文庫刊)
監督:篠原哲雄 脚本:川﨑いづみ
撮影:鶴崎直樹 照明:金子秀樹 美術:丸尾知行 装飾:山本直輝 録音:田中靖志
編集:高橋敦史 スクリプター:田中小鈴 音響効果:齋藤昌利
メイク:中山麻美 スタイリスト:宮本まさ江 助監督:躰中洋蔵 制作担当:曽根 晋
音楽:G E N 音楽プロデューサー:長崎行男 VFXプロデューサー:岡野正広
プロデューサー:鈴木 光 原田誠也 榊田茂樹 ラインプロデューサー:宮下直也
製作:河野 聡 沢辺伸政 中村直樹 鈴木 光 小林栄太朗 家頭義輝
主題歌:三月のパンタシア 「僕らの幸福論」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
制作プロダクション:光和インターナショナル
配給:バンダイナムコフィルムワークス

© 嶽本野ばら/小学館/「ハピネス」製作委員