『ダブル・ライフ』中国人女性監督・余園園が贈る日本映画!体に触れて心を感じる身体的・心理的アプローチで描くある女性の物語
レンタル夫との二重生活という仮初の暮らしから、自身の新たな感情に気づいてゆく女性を描いた『ダブル・ライフ』。心の解放と蘇生の物語でもある。交錯する心の機微を描き出す繊細な映像美が強い吸引力を放ち、美しい余韻が胸を打つ。
監督は、中国の名門・北京電影学院を卒業後、日本に留学し、立教大学の大学院に進んだ余園園(ヨ・エンエン)。脚本・編集も担う。立教大学大学院の修了制作として作られ、余監督の長編デビュー作となった本作は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022にて国内コンペティション部門最優秀長編作品賞受賞、第35回東京国際映画祭にて特別招待、タリン・ブラックナイト映画祭2022に正式出品、昨年イタリアで開催されたバーリ国際映画祭では監督賞受賞の快挙を果たした。
「人間レンタル業」を描いたヴェルナー・ヘルツォーク監督作品『ファミリーロマンス社』(日本未公開)から着想を得たという本作のテーマについて、監督はこう語っている。
「『レンタル人間』『二重生活』『ふれあい』というテーマの掘り下げは、自分自身をもっとさらけ出したいという、私自身の潜在的欲求に基づいています。北京でも東京でも、心にぽっかり穴が空いたまま日々がいたずらに過ぎてしまい、人と人との間にいつも隔たりを感じています。愛されたい、心の穴を埋めてほしい、と願っているのは主人公の詩織だけではなく、私自身であり、あなた自身でもあるかもしれません。『埋まらない穴』を持っている映画の中の人物も私も、他者と触れ合い、そして互いに満たし合う。映画を通じて、みなさんとのふれあいが生まれることを心から願っています」
さらにはモチーフの一つとなっている「コンテンポラリーダンス」が品格を添え、映画の存在感を一層際立たせている。すべての大人の女性たちへお勧めしたい上質な一作。
余園園 監督インタビュー
――日本語がお上手ですね。なぜ日本に留学しようと思われたのですか?
北京電影学院卒業後、しばらく多国籍企業に勤めていたんです。その頃から、映画製作の夢を実現するために、どこかに留学しようと考えていました。アメリカやヨーロッパは遠いけど、日本だったら近いので、それに邦画も好きでしたので、日本への留学することに決めたんです。留学を決意してからは、月〜金で勤めながら、平日夜と休日、つまり仕事以外の時間のすべてを日本語の勉強に費やしました。その姿を見て、両親は私に日本への留学を許可してくれたように思います。あんな勉強の仕方、もう今はできないでしょうね。
その後、日本に来てからさらに1年間の早稲田大学語学プログラムを経て、東京ビジュアルアーツ専門学校、続けて立教大学大学院に入学し、ようやく映画作りに取り掛かることができました。
――現在も映画宣伝のお仕事をしながら、映画製作をされているとのことですが。
そうですね。普段は会社で宣伝やDCP製作などを行いながら、休日を使って自主映画を製作しています。映画作りにはたくさんの工程があり、たくさんの人が関わりますから、時間も資金も体力も必要で、続けていくのはやはり大変です。でも「映画を作りたい」「映画を通して思いを伝えたい」という情熱に突き動かされてこれまでやってきたので、これからもできる限り、チャレンジし続けていきたいですね。
――余監督にとっての外国語である日本語でデビュー作を作ろうと思ったのはなぜでしょうか?
私は日本に留学してから、あまり中国の知り合いを作っていないので、映画のキャスティングをする際には日本人の方がスムーズだろうと思っていました。また、在日中国人のアイデンティティを描くのは、決して簡単ではないだろうとも思いました。私が最も尊敬する『ライク・サムワン・イン・ラブ』のアッバス・キアロスタミ監督のように、日本で映画を撮られる外国人監督もいらっしゃいますから、国籍や言葉の壁は超えられるだろうと感じています。
――『ダブル・ライフ』にどんな思いを込めましたか? この映画をどんな人に届けたいですか?
やはり今振り返ってみて、この作品はコロナ禍でしか作れない作品だったのかもしれない、と気づいたんです。コロナ禍では、人と人の繋がりがどんどん希薄になっていきます。通常のコミュニケーションが成り立たなくなって、誰かと触れ合いたいという感情がふつふつと湧いてくるのを感じました。だからこそ『ダブル・ライフ』にこのような「触れ合い」に対する思いを強く込めたのだと思います。
この映画はまず周りの人々と自分に届けたいです。みなさんの支えがなければ、この映画はできませんでしたから。そして、たくさん、たくさんの人に届けたいですね。『ダブル・ライフ』を通して、「からだ、こころの触れ合い」の大切さを伝えられたらと思います。
余 園園
Yo Enen
監督・脚本・編集
2015年北京電影学院を卒業。仕事をしながら、独学で日本語を勉強し、2018年来日。早稲田大学で一年間の日本語プログラムを修了後、2019年東京ビジュアルアーツ映画学科(現映像学科)に通い、2020年立教大学大学院に入学。万田邦敏教授の元で演出を学ぶ。大学院修了制作として、初長編『ダブル・ライフ』を制作。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022にてワールドプレミア上映され、国内コンペティション部門で最優秀長編作品賞を受賞。その他、第35回東京国際映画祭にて上映、タリン・ブラックナイト映画祭2022に正式出品、昨年イタリアで開催されたバーリ国際映画祭では監督賞を受賞した。現在、映画宣伝の仕事を務めながら、自主映画を作り続けている。
ストーリー
二人の夫の間を彷徨い 暗闇を抜けたとき 一羽の蝶が蘇る――
一緒に行くはずだったワークショップを夫にキャンセルされた詩織(菊地敦子)は、同僚から紹介された代行業者の淳之介(松岡眞吾)に夫役を依頼。一緒に参加したワークショップで、手と手がふれあうことを通じて相手に心を覗かれているような不思議な体験をする。その後、レンタル夫の淳之介に満足した詩織は、この関係を継続すべく、ついに本当の夫に内緒で小さなアパートを借り、彼と疑似夫婦生活を始めてしまう。
こうして夫とレンタル夫との間を行き来する二重生活を送るうち、詩織は封印したかつての夢や、心の奥底に眠る新たな感情に次第に気づいてゆく……。
『ダブル・ライフ』予告編
『ダブル・ライフ』上映後舞台挨拶@アップリンク吉祥寺
公式サイト
2024年4月19日(金)〜5月2日(木) アップリンク吉祥寺にて上映
Cast
菊地敦子
松岡眞吾 古川博巳 若狭ひろみ
浅田麻衣 川口紗弥加
Staff
監督・脚本・編集:余園園
撮影:小濱匠 照明:村澤慎太郎 録音:西田壮汰 助監督:小林勁太 制作:小林徳行 美術:閻作宇 周暁彤 撮影助手:永原大祐 録音応援:菅谷拓人 日本語協力:伊藤駿 整音:磯沼瑞希 上戸幸輝
カラリスト:潘澤標 音楽:川島陽 ピアノ:川島有希枝 振付:砂連尾理
宣伝デザイン:千葉健太郎 宣伝:よしのまどか 協力:万田邦敏
2022年/日本・中国/DCP/104分/アメリカンビスタ/ステレオ
(C)2022 ENEN FILMS