『決断 運命を変えた3.11母子避難』安孫子亘監督が7年の歳月をかけ〈想定外の事故〉の教訓を詰め込んだ渾身の一作

『決断 運命を変えた3.11母子避難』安孫子亘監督が7年の歳月をかけ〈想定外の事故〉の教訓を詰め込んだ渾身の一作

2024-04-05 14:12:00

非常にユニークな視点で作られた映画である。これまであまり語られることのなかった自主避難という問題を描いたということに意義がある。


 
今回映画で描かれている自主避難をされた人々は南相馬(一部避難区域)、郡山市、福島市、白河市といった避難指示が出された区域外にいた人たちで、自主的な避難、つまり、各人の判断での避難となり、補助や支援の対象とならない。だが、郡山市などは、地域によっては風向き等の状況によって放射線量が高い区域もあったという。2011年当時、放射能の影響を恐れ、福島県以外の人、例えば関東近郊の人が避難したりしていた。実際、当時の菅政権は天皇陛下の避難を考えていたという(天皇陛下の意向として国民が避難していないのにあり得ないと宮内庁側から伝え、政権側が断念したらしい:共同通信2020年12月30日)。
 
避難指示が行われた地域からの避難ではない、この映画に登場する人々は、自身で決断して自主避難という形を選んだ人々だ。当然、この方々の近親者や近隣者で避難をしないことを決断し、残った人もいる。同様に、映画に出てきた人々のいた郡山も福島も白河も、被災時から現在まで生活していらっしゃる人は大勢いる。そういった多くの人たちは、この自主避難を行なった人に対して、共感を持つ人も、あるいは反感を持つ人もいるかもしれない。ただ、あの2011年当時、人々が苦しい決断をせざるを得ないくらい切羽詰まった状況であったことは間違いない。一番問題なのは、こういう決断をせざるを得なかった人たちを追い込んだのは、あの災害であり、ああ言った人たちが好き好んで家族と離れ、故郷を後にしたのではないということを忘れてはいけない。そのことを理解して、自主避難を決断人たちが、どういう人生をこの12年の中でおくったのか、映画は、あの人たちに寄り添う形で描き切っている。
 
この映画を監督・撮影を担当した安孫子亘は、2011年の東日本大震災以降、福島の南会津に活動拠点を設け、ドキュメンタリー映画を製作し続け、『知事抹殺の真実』、『奇跡の小学校の物語』等の秀作を世に出している。こうした活動を続けている安孫子監督だからこそ、時が経って風化していく東日本大震災という災害の中で、行政も全く存在を無視した、自主避難した人たちに寄り添いながら丁寧に描くことができたのではないかと思われる。この映画なければ、自主避難した人の存在について考える機会は得られなかった。そういう意味で、この映画は意義のある作品だといえる。映画の持つ力を改めて示した作品だ。
 
この映画で問いかけているのは、東日本大震災や原発事故を風化させてはいけないということと、あの災害と関係ないと思っている人に「あなたならこういう状況の時、どう決断するのか」という問いかけを行っているのではないだろうか。

安孫子亘 監督

安孫子 亘
監督・映像作家
1959年、北海道小樽市出身。1982年、テレビ番組製作に関わる。日本テレビ「太古の森の物語」 ギャラクシー賞選奨。TBS「ダーウィンに消された男」 日本民間放送連盟賞。テレビ東京「蜃気楼の王国」日本民間放送連盟優秀賞など多数受賞。1995~97年、アフリカ ケニアに移住 野生動物の映像制作。1999年、栃木県那須に拠点を移しドキュメンタリー作品を製作。短編ドキュメンタリー『月ヨノ』(2004年) 世界自然野生生物映画祭出品。短編ドキュメンタリー『SAKURA桜~田の神』(2005年)アメリカ ジャクソホール国際映画祭出品。2011年 長編ドキュメンタリー映画初監督作品『檜枝岐歌舞伎 やるべぇや』~山形国際ドキュメンタリー映画祭2011、『ともにある Cinema with Us』コミュニティシネマ賞。2012年、東日本大震災後、拠点を福島県南会津の下郷町(会津ジイゴ坂学舎)に移す。ドキュメンタリー映画『生きてこそ 会津の語り最後の伝承者 山田登志美』(2013年)、ドキュメンタリー映画『春よこい 熊と蜜蜂とアキオさん』(2015年)、ドキュメンタリー映画 『知事抹殺の真実』(2017年)、2017年度国際映画祭Digital Box Office Awards 正式出品、2017年度35回「日本映画復興会議」日本映画復興奨励賞受賞、2018年度江古田映画祭グランプリ受賞。ドキュメンタリー映画『奇跡の小学校の物語 この学校はなくさない』(2019年)、ドキュメンタリー映画『霧幻鉄道 只見線を300日撮る男』(2021年)2023年KOJIMA映画祭倉敷市長賞(最高賞)。

 

ストーリー

2011年3月11日、東日本大震災 福島原発事故により人生最大の「決断」を迫られたある10家族の証言である。震災前、この家族はどこにでもあるような日常を送っていた。「いってらっしゃい!」子供たちが学校まで競争しながら駆けていく。団地の公園では、幼い子を砂場で遊ばせる若いお母さんたち。休日、キャッチボールをする親子。家庭菜園の収穫を楽しむ母と子。その何気ない平和な時間を3.11が止めた。原発事故により放射能が降り注ぎ、予備知識のまったくなかった人たちにとって、ただ右往左往するしかなかった。的確な指示がないまま、一人一人がかすかな情報を頼りに、最後は自分の身は自分で守る「決断」をするしかなかった。それは円満な家庭の崩壊の始まり。人生最大の「決断」を迫られた瞬間であった。

『決断 運命を変えた3.11母子避難』予告編



公式サイト

 

監督/撮影・安孫子亘
プロデューサー ・ナオミ  
音楽・DAIJI  主題曲・decision(決断)  作曲/演奏・DAIJI
ポスター画・やまなかももこ 
編集協力・池内誠  音声・小俣大治
宣伝美術・内海紗耶華  翻訳・シング麻美  
制作デスク・塩谷奈津紀 クレアリー寛子
編集スタジオ・会津ジイゴ坂スタジオ  
録音スタジオ・Music Studio Polku
製作協力・映画決断製作委員会
企画/製作・ミルフィルム

2024 日本 HD  カラー 90分 ドキュメンタリー