『ミルクの中のイワナ』炭鉱のカナリアともいえるイワナを描いたサイエンス・ドキュメンタリー

『ミルクの中のイワナ』炭鉱のカナリアともいえるイワナを描いたサイエンス・ドキュメンタリー

2024-04-01 23:50:00

『ミルクの中のイワナ』不思議なタイトルだ。「状況証拠というものは、ときにすこぶる的確なものだよ。詩人ソローじゃないが、ミルクの中からイワナをさがしだすようにね」というフレーズが、小説『シャーロック・ホームズの冒険』で使われており、「ミルクの中のイワナ ( A Trout in the Milk)」=「状況証拠しかないが、問題が存在することは、明白である」という意味なのだという。

また、「炭鉱のカナリア」という言葉がある。炭鉱で有毒ガスが発生した際に、人間よりも先にカナリアが察知して鳴き声が止むことから、危機を知らせる前兆を指す慣用句の1つだ。

坂本麻人監督の『ミルクの中のイワナ』で描かれるイワナは、炭鉱のカナリアとも言える。

イワナの種を守るため正解とはなんだろうか。養殖して放流すればいいのか。多様性を維持するには、それぞれの川のイワナの遺伝子を活かさないといけないらしい。釣ったイワナは食した方がいいのか、リリースした方がいいのか。業業組合と釣り人。川を守る人の高齢化の問題。希少種を限定期間だけ釣るのが生態系を守ることになるのか。そして、イワナは魚ではなく獣に近い、とインタビューで答える専門家がいる。

謎が多く、神秘の魚といわれるイワナ。その生態系がいま危機に直面している。
SDGsや生物多様性が声高に叫ばれる昨今、「種を守る」とはどういうことか、地域社会と環境をいかに保全するべきか。

研究者や漁業関係者、釣り人など立場を異にする12人の証言から浮き彫りになるのは、炭鉱のカナリアであるイワナを通して見えてくる未来の地球の姿である。深山幽谷の美しい映像と音楽に癒されながら、人間と自然の普遍的テーマが胸をうつ、全人類必見のサイエンス・ドキュメンタリー。


ドミニク・チェン氏(Ferment Media Research)コメント

イワナという生物の不思議さから立ち上がる生態系の魅力が、ひとりひとりのインタビュイーの熱とともに伝わってくる。現代日本における河川環境保全という一筋縄で解決できない「厄介な問題」を巡る、かれら当事者たちそれぞれの向き合い方が紐解かれることによって、「誰も悪者にしない」という坂本麻人監督の複雑さを抱きしめる哲学が体に浸透してくる。そして、作中の森田健太郎先生の「イワナの生き様を守りたい」という言葉は、わたしたち人間の生き様もまた、イワナや川や山との関わり方に懸かっているのだという事実を指し示している。『ミルクの中のイワナ』は、自然と人間の世界を二項対立で切り分けず、一つの絡まり合いとして捉えるための認識を醸成するだろう。

 

坂本麻人 監督コメント


私たち釣り人も漁協組合も人新生と呼ばれる現代社会の変容とともに、自然や魚との共生観も変化していく中、私たちは、魚との新しい関わり方を模索しなければならない瀬戸際に立たされていると思います。私たちは、何を道しるべに自然や魚と関わり続けていけるのか。また漁協組合員や研究者の方々と、どのように手を取り合うことができるのか。自然や動物との関わりが薄い現代だからこそ、魚や自然との関わりが今の私たちにとって、これからの多様な社会で生きていくための重要な手がかりになると思っています。これまでに大切にされてきた文化や歴史を通じて、各地域ならではの魚との関わり方を見直し、手を取り合って関わり続けながら魚たちを守っていくためのイントロダクションになると考えています。

坂本 麻人
Asato Sakamoto
ドキュメンタリー作家・映画監督
大阪生まれ。東京在住。ドキュメンタリー映像作家。2023年公開のドキュメンタリー映画『ミルクの中のイワナ』の監督・プロデューサーとして活動。過去には、岩手県・遠野市を舞台に死生観をテーマにした映像作品『DIALOGUE WITH ANIMA』を監督し、またカルチュラル・スタディーズツアー「遠野巡灯篭木(トオノメグリトロゲ)」の総合演出、プロデューサーとして活動。その他、アーティスト長谷川 愛の映像作品『Shared Baby』(森美術館「未来と芸術」展 出品)や市原えつこ『未来 SUSHI 研究者は語る』(森美術館「六本木クロッシング2022」展 出品)などの監督・監修を担当。2022年に東急株式会社と共催した展覧会『END展』のクリエイティブディレクターを手がけている。THE LIGHT SOURCE 主宰。一般社団法人 Whole Universe 代表理事。

 

 

『ミルクの中のイワナ』予告編

 

公式サイト

 

2024年4月5日(金) アップリンク吉祥寺アップリンク京都(1週間限定公開)、ほか全国順次ロードショー

 

Cast
中村 智幸(国立研究開発法人 水産技術研究所)
森田 健太郎(東京大学大気海洋研究所 教授)
芳山 拓(神奈川県水産技術センター 技師)
佐藤 拓哉(京都大学生態研究センター 准教授)
山中 裕樹(龍谷大学先端理工学部 准教授)
徳田 幸憲(高原川漁業協同組合 参事)
菊地 勇(役内・雄物川漁業協同組合 代表理事組合長)
西村 成弘(株式会社フィッシュパス 代表取締役)
戸門 秀雄(郷土料理ともん)
戸門 剛(郷土料理ともん)
佐藤 成史(ライター、フォトグラファー)
宮沢 和史(音楽家)

Staff
監督:坂本 麻人 | 音楽: DAISUKE TANABE , YOSI HORIKAWA
企画・制作:THE LIGHT SOURCE | 配給:一般社団法人 Whole Universe
協賛:SOUTH2 WEST8 | Foxfire | 株式会社TIEMCO | 株式会社フィッシュパス | つりチケ | OMデジタルソリューションンズ株式会社 | OM SYSTEM | NPO法人シュマリナイ湖ワールドセンター
協力:矢口プロダクション | 法律事務所ZeLo・外国法共同事業 | RIVER-WALK | 週刊つりニュース | SAKANA BOOKS | 全国内水面漁業協同組合連合会
推薦:水産庁

英題:A TROUT IN THE MILK | 2024年制作  | 日本 | 日本語 | 70分 | カラー | 16 x 9 | DCP