『パリ・ブレスト 夢をかなえたスイーツ』22歳で冷菓の世界王者となった菓子職人ヤジッド・イシュムラエンの冒険譚
本作は、若き菓子職人ヤジッド・イシュムラエンが自身の物語を綴った自伝の書を映画化したもの。波乱に満ちた少年時代からパティシエ世界王者に上り詰めるまでの冒険譚が描かれている。
監督を務めるのは、SFXアニメーター、アーティスティック・ディレクターなどのキャリアを経たのち、短編『1950 DA』(2015)を監督し、本作が長編監督デビュー作となるセバスチャン・テュラール。主人公ヤジッドには、TikTokで690万人のフォロワーを持つ映像クリエイターであり役者のリアド・ベライシュ。そして、準備期間だけでなく撮影中も、デザートが登場するすべてのシーンを実在のヤジッドが監修している。
フォンダンショコラ、フィンガーフランボワーズ、タルトタタン、キャラメルのフィナンシェ、ショコラ・スフェール、サントノレ……そして伝統的なそれとは見た目が大きく異なるパリ・ブレスト。美しく洗練されたスイーツたちは見ているだけで愉しい。
高級ホテルの厨房ならではの張り詰めた空気感、6時間に及ぶパティスリー世界選手権の臨場感、特に人が最も集中している時の、時間が一瞬止まったような、止まった一瞬が永遠に続くような、あるいは周囲が暗転し自分にだけスポットライトが当たっているかようなあの感覚を、リアルに映像化しているのもまた印象深い。
「パティシエ版ロッキー」と言われるほど熱量の高い本作。主人公ヤジッドの鋼のような精神に触れ、眠っていた情熱の炎を蘇らせてみてはいかがだろうか?
ヤジッド・イシュムラエン
YAZID ICHEMRAHEN
1991年フランスのエペルネ生まれ。パティシエであり実業家としても活躍している。
モロッコ生まれの両親をもつが父親は不在で、母親はアルコール依存症だったため2歳半からホストファミリーに預けられるホストファミリーの息子がパティシエだったことで、お菓子作りと他者から認められることを初めて経験する。8歳で里親のもとを離れ、養護施設で暮らす。14歳の時パティシエとしての見習いを始め、17歳でパリにあるパスカル・カフェ(世界菓子チャンピオン)で働き始める。1年後、モナコにあるジョエル・ロブションの「ル・メトロポール」でスーシェフとして働く。また世界的に有名なシェフであるアラン・デュカスの下で働いた経験をもつ。2014年、22歳の時、フランスチームのリーダーとして参加したGelato World Cup(冷菓世界選手権)で世界チャンピオンとなる。現在、アヴィニョンに自身の店舗を構えているほか、ギリシャ、スイス、カタールなどに店舗をオープンし実業家としても活躍している。ディオール、ルイ・ヴィトン、バルマン、ショーメなどのハイブランドとのコラボレーションなどでも話題となった。現在パリでの店舗を準備している。著書に「Un rêve d'enfant étoilé: Comment la pâtisserie lui a sauvé la vie et l'a éduqué」(星の少年の夢:菓子作りが彼を救った理由)、「Créer pour survivre et vivre pour ne pas sombrer」(生き延びるために創作し、沈まないために生きる)がある。
セバスチャン・テュラール 監督インタビュー
――本作はどのような物語でしょうか?
生きるためにお菓子作りを始めた、ある少年の人生の冒険の物語なんだ。
――この映画はどのようにして生まれたのですか?
プロデューサーであるローレンス・ラスカリーから生まれた。ローレンス・ラスカリーは、「Clique」という番組でヤジッド・イシェムラエンが自身の物語を綴った書籍 「Un rêve d'enfant étoilé: Comment la pâtisserie lui a sauvé la vie et l'a éduqué」(星の少年の夢:菓子作りが彼を救った理由)の紹介をしているのを観たんだ。彼女は圧倒された。ヤジッドの常に上を目指そうとする向上心、自分を超えたいという願望などに非常に感銘を受けた。ヤジッドの物語に共鳴し、彼に連絡を取り、本の権利を購入した。こうしてヤジッドの書籍の映画化権を獲得し、脚本家のセドリック・イドが脚本を書いた。元々は彼が監督するはずだったが、彼は別のプロジェクトを引き受けたので、この美しい物語を私が監督することになった。
――この映画のどこに魅力を感じましたか?
ローレンス・ラスカリーから電話があったとき、私はガンの治療で入院中だった。そのとき私が考えていたのは、早く退院して映画の制作に取りかかることだけだった。この映画が回復のための最高のリハビリだったよ。脚本は素晴らしく、本当に感動した。多くの脚本を読
んだけど、その中でも最高のものだった。最後には少し涙を流したよ。ヤジッドの旅路、キャラクターの執念深さ、成功への願望、そして何もないところからやってきて、何のつながりもないにも関わらず、突き進んで行く姿勢が好きだった。技術的な観点から言えば、今まで撮っていた短編映画から長編映画を撮ることができたのは、私にとって最高の経験だった。とても楽しかったよ。
――ヤジッドとご自身に何か共通点はありますか?
いくつかはね。何年もの間、一生懸命働いたのになぜ自分にチャンスが与えられないのか不思議に思っていた。
私は6本の脚本を書いてきたけど、初めて監督するのは自分の脚本ではなかった。だけどチャンスが巡ってきたときにそれをつかみ、懸命に働かなければならないよね。それがヤジッドに自分を見た理由でもあるんだ。私の映画界での道は、彼のパティシエとしての道に似ている。私はすぐに自分の人生との類似点を見出した。成功したいという彼の願望に自分を重ね合わせたよ。
――ヤジッドはこの映画を観ましたか?
もちろん。彼に映画を見せなければならない日、プレッシャーがどんどんのしかかってくるのを感じた。彼の人生を語るチャンスを私に与えてくれたのだから、彼に満足してもらいたかった。映画が終わり照明が戻ると、彼は立ち上がって私を抱きしめた。とても感動的だったよ。彼は私に感謝し、「裏切らなかったね」と言った。
その後、私たちは一緒に昼食をとったが、彼は映画のことを話し出すと止まらなかった。彼は、実生活で経験したあるシーンがよみがえったような印象を受けたと話してくれたんだ。
セバスチャン・テュラール
SEBASTIEN TULARD
監督
SFXアニメーターとしてキャリアをスタート。その後、アーティスティック・ディレクターを経てダニー・ブーン、フィリップ・ラショー、ニコラ・ベナムー監督などの撮影現場にてアシスタント・ディレクターを務める。2015年に短編映画『1950 DA』を監督し、ヒューストンのNASA 映画祭で最優秀賞を受賞し、ロサンゼルスのハリウッド短編映画祭で最優秀外国映画賞を受賞した。キム・シャピロン監督の「Guyane」、フランク・ガスタンビド監督の「Validé」、ロマン・ガヴラス監督の「Le Monde est à Toi」、中村彩、ニーニョ、MCソラールといったアーティストのミュージックビデオなどを担当した。イメージ、装飾、スタイリングのトライアングルという独自の芸術的方向性を追求している。
ストーリー
育児放棄の母親の下、過酷な環境で過ごしている少年ヤジッドにとって唯一の楽しみは、フォスターファミリー(里親)の家で、団欒しながら食べる手作りのスイーツ。いつしか自らが最高のパティシエになることを夢みるようになっていた。やがて、児童養護施設で暮らしはじめたヤジッドは、敷居の高いパリの高級レストランに、機転を効かせた作戦で、見習いとして雇ってもらうチャンスを10代で掴み取る。毎日180キロ離れた田舎町エペルネからパリへ長距離通勤し、時に野宿をしながらも必死に学び続け、活躍の場を広げていく。偉大なパティシエたちに従事し、厳しくも愛のある先輩や心を許せる親友に囲まれ、夢に向かって充実した日々を過ごすヤジッド。ところがそんな彼に嫉妬する同僚の策略で、突然仕事を失うことに。失意のどん底から持ち前の情熱でパティスリー世界選手権への切符をようやく手に入れるが……。
『パリ・ブレスト 夢をかなえたスイーツ』予告編
公式サイト
2024年3月29日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA、アップリンク京都、ほか全国順次ロードショー
Cast
ヤジッド(6歳):マーウェン・アムスケール
ヤジッド(16~24歳):リアド・ベライシュ
サミア:ルブナ・アビダル
シモーヌ:クリスティーヌ・シティ
パスカル:パトリック・ダスマサオ
マシュー:フェニックス・ブロサール
アルバン:アニ・マンスール
サトミ:源利華
ジュリアン:エステバン
マニュ:ディコシュ
ブシャール:パスカル・レジテミュス
Staff
監督:セバスチャン・テュラール
脚本:セドリック・イド
プロデューサー:ローレンス・ラスカリー
共同プロデューサー:ジャメル・ドゥブーズ、トマ・ヴェルアエジュ
撮影:ピエール・デジョン
音声:マリアンヌ・ルシー・モロー
ミックス:ジャン=ポール・ウリエー
音楽:ブリス・ダヴォリ
編集:マリエル・バビネ
セッティング:アン・チャクラヴァティ
衣装:ポリーヌ・バーランド
キャスティング:DEZ EPANE
プロダクション・マネージャー:ミカエル・エルモジーニ
ロケーション・マネージャー:ヤシーヌ・ベナーラ
2023年/フランス/フランス語/110分/5.1ch/スコープサイズ/カラー/PG12
原題:A La Belle Etoile
字幕:手束紀子 配給:ハーク 配給協力:FLICKK
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ、日本スイーツ協会
© DACP-Kiss Films-Atelier de Production-France 2 Cinéma
hark3.com/parisbrest