『ゆるし』子供が持つ親への愛と自由への葛藤する苦しみを観客に伝えたい

『ゆるし』子供が持つ親への愛と自由への葛藤する苦しみを観客に伝えたい

2024-03-19 11:45:00

『ゆるし』は、立教大学で映画を学び、三池崇史組にアシスタントとして参加したりと映画を作る道を選び、現在は漫画編集者として働いている23歳の平田うらら監督のデビュー作である。

平田うらら監督自身、就職活動が上手くいかない時に、OB訪問をした先輩から「神様のおかげでこの会社に受かった」と聞き、当時世間知らずでお嬢様だったという平田監督は、これがきっかけである宗教にはまったという。

彼女自身はその宗教から抜け出すことができたのだが、当時友人だったその宗教の信者が自殺をし、その遺書の内容を知ることになった平田監督。その遺書には、「ただ、私を愛してほしかった。神様ではなく私を見てほしかった」と書かれていた。

友人を救うことができなかった気持ちを映画のタイトルに込め、宗教二世の問題を映画で描こうと決め、約300人の宗教2世に取材をして、それを脚本に落とし込んで本作を作り上げた。

宗教2世の問題は、信仰の自由はあるが、親が子供の人格、人権を認めずに、物心つかない子供の時期から親の宗教を押し付けることに問題がある。監督は、子供が持つ親への愛と自由への葛藤する苦しみを観客に伝えたくて本作を制作したという。
初日の舞台挨拶では、平田うらら監督は満席の観客に向けて次のように語った。

「今、宗教二世の問題は社会に浸透している問題だと思います。ですがこれから宗教2世の問題は風化と戦っていかなくてはなりません。私が伝えたいのはこの映画を見て、宗教二世の苦しみの事態を見て欲しいという想いがありました。 本作は親に刺されそうになるシーンなど、リアルに取材した事実を入れております、フィクションではありますが、すべてのシーンに嘘がないんです。あれが起こっているんです。 
メディアでは献金の問題を取り上げることが多いですが、その裏にある親への愛と自由への葛藤する苦しみを皆さんにお伝えしたいと思って製作しました。 また本作は親子の問題を中心に描いていますが、学校の対応や祖父母の対応を入れてます。それは宗教二世の問題を家庭の問題にしてはいけない、社会の問題として多角的な視点から語れるようになれば良いと思いました。 
それを語れるような人が増えることが、社会で宗教二世の問題を風化させずに減らしていくことに繋がると思っています。
そのため鈴木エイトさんをゲストで迎えたりと、宗教二世の問題を知って頂く機会を設けております。映画の感想や宗教二世へ思ったことなど是非、皆さまSNSで発信してください。宗教二世の問題を風化させないためにも皆さまの声が必要です。宜しくお願いいたします」

新興宗教にハマった経験のある22歳の女性漫画編集者が宗教2世の苦しみを映画で描いたわけ AERAdot.

「神様のおかげでこの会社に」OB訪問で出会った信者…「一歩間違ったら誰でも」新興宗教勧誘の罠 FRIDAYDIGITAL

初日舞台挨拶

ゲスト:鈴木エイト氏 アフタートーク

ゲスト:夏野なな(宗教3世/スノードロップ代表)

 

平田うらら 監督(主演)コメント



本作は、宗教二世である、私の友人が残した遺書に感化されて生まれました。
彼女とは、私が入信していた新興宗教で出会いました。私は元々、自ら入信した宗教一世です。
私が入信したきっかけは、就職活動のOB訪問で出会った方が新興宗教の信者だったことです。

当時、就職活動で落ち続け、自信を無くしていた私にとって、不安を取り除き自信を与えてくれるその方が救いでした。彼女が信者だった新興宗教の集会に参加するようになり、やがて、私を必要としてくれて、愛してくれるその団体が居場所になっていきました。

ただ、しばらくするとその団体は、彼氏や友達と別れることを強要してきました。私がそれを嫌がると集会に参加させないなど仲間外れにしました。私は一度信じてそこが居場所になっていたので、違和感があっても、居場所を失うことが怖くて脱会できませんでした。

さらに家族が新興宗教にはまっておかしくなっていく私を諦めずに支えてくれました。また、家族に説得され、プロテスタントの牧師の話を聞くようになりました。私の信じていた新興宗教は、信者以外を皆サタン側とみなす。しかしプロテスタントは信者以外を隣人と見なして愛を注いでいました。牧師さんと会話を重ねるうちに、洗脳が徐々に覚めて、新興宗教から脱会できました。脱会後は、プロテスタントの信者となり、自由で楽しい生活を送っておりました。

そんなある日、当時私と同じ団体にいた宗教二世の友達が自ら命を絶ったことを知りました。その子が遺書を残していて、私は人づてにその遺書の内容を聞きました。そこには、信仰ではなく、ありのままの自分を親に愛して欲しかったと書いてあったそうです。

彼女の死を知った時、耐えられない弱い想いにかられ、救えなかったことに言い訳をしました。脱会後、団体のおかしさに気づいても連絡を取らなかったのは、立場的に取れなかったからだ。脱会した私は、その団体にとってはサタン。そんな私が連絡したら、彼女に迷惑がかかる。だからできなかった。私は自分だけ脱会して、のうのうと生きていたことを必死に肯定しました。

彼女を救えたかもしれない。その後悔が消えることはなく、やがて、どんなことも彼女を救えなかった理由にはならないと思い知りました。団体の教えがどうであれ、命より尊いものは無い。私が彼女を救えなかったことに、何の言い訳もできない。そう考えた時、私にできることは、彼女の想いを伝えていくことだと思いました。

いつか宗教二世の問題が形骸化する時がくる。当事者がどれだけ辛い思いをしたのかは忘れられ、「2022年には宗教二世問題が露呈した」とだけ教科書に書かれる時代が来るでしょう。でも、絶対に風化させてはいけないのは、その問題の中で生きてきた、人の痛みと想いです。彼女の遺書に綴られた想いこそ、忘れられてはいけないと思いました。

この痛みと想いだけは後世に伝えて、二度と彼女のような想いをする人が生まれないようにする。これが、脱会できて、今生きられている私にできることだと思いました。そして、大学で映画を学んでいた私は、彼女の想いを映画にして伝えていくと決めました。

「ゆるし」はフィクションであり、決して彼女の遺書をそのまま物語にしているわけではありません。ご親族の気持ちも考え、彼女とはまったく関係ない主人公像にしています。それでも彼女の痛みと想いを届けること。この軸だけは曲げず、物語を作りました。

この映画で宗教二世の方の想いが伝わることを、そして宗教二世の方が苦しまない世になることを、切に願っております。

平田うらら(松田すず役)
監督・主演 
2001生まれ。立教大学現代心理学部映像身体学科卒業。
大学時代に篠崎誠監督のもとで映画を学び、本作を大学在学中に初監督し主演も務めた。卒業後は映画のスタッフとして活動した後、現在は漫画の編集者として働く傍ら、映画製作を行なっている。主な参加作品に、『怪物の木こり』(23/三池崇史監督)制作部、huluオリジナルシリーズ「臨床犯罪学者火村英生の推理2019」制作部、毎日放送ドラマ特区「カカフカカ-こじらせ大人のシェアハウス-」制作部などがある。

 

ストーリー

お母さん、自由は罪ですか?
安心、自由、愛、全てを奪われ“神の子”にされた少女の、残酷で壮絶な人生。
「光の塔」の信者である母・恵から厳しい宗教教育を受けてきたすずは、教えに反することをすると鞭で打たれるなど虐待を受けてきた。

ある日、すずは学校で献金袋を盗まれ、お金を借りるために祖母の紀子に会いに行く。そこで虐待の事実を知った紀子と祖父の勝男は、お金を貸す代わりにすずを保護する。すずは、紀子と勝男から愛されて暮らすことで、「世の人はサタンにそめられている」という教えを疑い始める。しかし教えに疑問をもてば、サタンに堕ちる。それは、すずにとって、母との永遠の決別を意味していた。

一方で、すずは紀子や勝男の話を通して入信する前の母の姿を知る。優しかった母はなぜ変わってしまったのか。自由を手放してまで求めた「ゆるし」とは。恵の知られざる姿を知ったとき、すずの運命が狂いだす。

 

『ゆるし』予告編


公式サイト

 

2024年3月22日(金) アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー

 

Cast
平田うらら/安藤奈々子
中村ひろみ/唐芊/大月伸昭/青山心夏/成田マイケル理希/山本浩貴/進藤沙也佳
川瀬知佐子/目黒陽都/七波菜々子

Staff
脚本・監督:平田うらら
エグゼクティブプロデューサー:片渕昭彦/ラインプロデューサー:平岡友哉
撮影:宮原廣一郎/照明:長濱光玲/録音:鴨志田知花/美術:斉藤野乃/助監督:石田陸
ヘアメイク:廣滝華保/編集:渡部昭葉/音響監修:飯嶋慶太郎/宣伝協力:倉田雄一朗
製作:『ゆるし』製作委員会
特別協力:宗教2世、3世の皆様/篠崎誠監督
配給:ユーラフィルムズ

2023/60分/カラー/日本/ワイド/5.1ch/DCP