『ビニールハウス』女性監督イ・ソルヒの時に驚くような力あふれる映像で惹きつける演出力は、新しい才能の誕生を十分知らしめてくれるだろう

『ビニールハウス』女性監督イ・ソルヒの時に驚くような力あふれる映像で惹きつける演出力は、新しい才能の誕生を十分知らしめてくれるだろう

2024-03-13 11:07:00

現代韓国の片隅に根付く、貧困、孤独、介護…希望を持てない現実の韓国社会を一人の女性を通して描く作品が、登場した。

韓国映画「ビニールハウス」は2022年の作品であり才気あふれる、若干29歳のイ・ソルヒが監督を務めた。本作は27回釜山国際映画祭でCGV賞、WATCHA賞、オーロラメディア賞の3冠に輝くともに、主演を務めたキム・ソヒョンが、韓国のアカデミー賞と称される第59回大鐘賞映画祭を始め、韓国主演女優賞他6冠の快挙を成し遂げるなど、作品として高く評価されている。また、スンナム役のアン・ソヨの演技も光っており、彼女は本役で第44回青龍映画賞新人女優賞にノミネートされている。

映画は、キム・ソヒョンが演じる主人公ムンジョンはビニールハウスに暮らしながら、少年院にいる息子の出所を待っている。ムンジョンの夢は、息子と再び一緒に暮らすこと。息子と一緒に住む家に引っ越すための資金を稼ぐために盲目の老人と、重い認知症を患う妻の世話をする訪問介護士として働いている。

韓国では、貧困層の共住環境は悪い。映画「パラサイト」で見られた半地下のような住居よりもさらにひどい状況の中で暮らす人も多いという。その中で、本作品のようなビニールハウスに住み着く人々もいるという。ビニールハウスは、本来は農業の施設である。だが、そこに人が住居として住んでいる。にわかに信じられないことのようだが、実際、ソウル近郊には「ビニールハウス村」や「ビニールハウス地区」と呼ばれる地域があるらしい。そのビニールハウスも映画のように、農地にある農産物栽培用のビニールハウスに人が住み込むんでしまったものから、掘建小屋のようなものに黒や透明のビニールシートをかけたものまでいろいろな種類があるという。映画のビニールハウスは空想の世界ではなく、韓国の一つの現実であることを映画は教えてくれる。

宣伝コピーは、「半地下はまだマシ」、『パラサイト 半地下の家族』では、「半地下」に住む主人公が金持ちの家の家庭教師になる設定だったが、『ビニールハウス』では、主人公ムンジョが家政婦として務める家は決して裕福ではなく、その家の夫は盲目で、妻は認知症という病を抱えており、エンタメ作品だった『パラサイト』と比較するとより社会派の度合いが強い設定である。

本作品の魅力は、主演のキム・ソヨンの見事な演技もさることながら、監督のイ・ソルヒの女性監督ならではの感性が随所に見られ、徹底的に暗い運命の中で生きる絶望の人々を、時に驚くような力あふれる映像で、見る人を最後まで飽きさせないで惹きつける演出力は、新しい才能の誕生を十分知らしめてくれるだろう。

 

イ・ソルヒ 監督インタビュー


ーー韓国の原題は「ビニールハウス」という意味です。映画『バーニング 劇場版』にも出てきましたが、ビニールハウスはこの映画のタイトルになった重要な題材です。この題材がまずあって、そこから物語を紡いでいったのですか?

ビニールハウスは後で着想したもので、まず最初に物語と登場人物たちを構想しました。この映画でご覧いただいたように韓国にはビニールハウスで暮らしている人たちがいますが、彼らは資金がなくて生活に余裕のない人たちだったりします。ビニールハウスで暮らしながらそこから抜け出したいと思っている人物を描くと面白いのでは、と考えました。

ーーこの映画には、とても複雑な登場人物たちの関係が描かれています。登場人物たちは社会の片隅に追いやられている人たちといえるでしょうか。監督はそんな人たちの側から同じ人間として彼らを描いています。監督として登場人物たちに共感しながら、同時に彼らの闇を描き出していますが、それらのバランスをどのようにして保つことができたのでしょう?

韓国の映画祭で上映された時、「なぜあなたの映画に登場する人たちは社会の片隅に追いやられている人ばかりなのか?」と尋ねられて、気がつきました。人々はこのような人たちのことを社会の片隅に追いやられたと思うのだな、と。映画に登場した人たちは、私にとっては身近な人たちです。私の日々の生活と彼らの生活はそれほどかけ離れていません。彼らを社会の片隅に追いやられたとみなす人もいますが、私の最初の方針はむしろ、彼らを社会の片隅に追いやられたとはみなさない、ということでした。

ーー主演のキム・ソヒョンさんは本当に素晴らしかったです。どのようにして参加してもらいましたか? 

韓国ではとても有名なスター女優です。私たちの映画は低予算で、出演してもらうのは無理だと思っていましたから、本当に幸運でした。脚本を読んでいただき、ぜひ参加したい、と言ってもらいました。彼女は脚本の世界に引き込まれて虜になってしまったそうです。おかげでこの映画が誕生しました。

イ・ソルヒ
Lee Sol-hui
監督・脚本・編集
1994年生まれ。成均館大学校で視覚芸術を学んだ後、『パラサイト 半地下の家族』(19)のポン・ジュノ監督や『スキャンダル』(03)のイ・ジェヨン監督らを輩出した名門映画学校、韓国映画アカデミーで映画監督コースを専攻。2021年、『Look-Alike』(短編)が第22回大邱インディペンデント短編映画祭のコンペティション部門に、『Anthill』(短編)が第26回釜山国際映画祭Wide Angle部門にノミネートされ注目される。初の長編映画『ビニールハウス』は、第27回釜山国際映画祭でCGV賞、WATCHA賞、オーロラメディア賞を受賞し、新人監督としては異例の3冠を達成。さらに第44回青龍映画賞、第59回大鐘賞で新人監督賞にノミネートされた。

 

ストーリー

ビニールハウスに暮らすムンジョンの夢は、少年院にいる息子と再び一緒に暮らすこと。引っ越し資金を稼ぐために盲目の老人テガンと、その妻で重い認知症を患うファオクの訪問介護士として働いている。そんなある日、風呂場で突然暴れ出したファオクが、ムンジョンとの揉み合いの最中に床に後頭部を打ちつけ、そのまま息絶えてしまう。ムンジョンは息子との未来を守るため、認知症の自分の母親を連れて来て、ファオクの身代わりに据える。絶望の中で咄嗟に下したこの決断は、さらなる取り返しのつかない悲劇を招き寄せるのだった――。


『ビニールハウス』予告編



公式サイト


2024年3月15日(金) シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー

監督・脚本・編集:イ・ソルヒ
出演:キム・ソヒョン、ヤン・ジェソン、シン・ヨンスク、ウォン・ミウォン、アン・ソヨ
2022年/韓国/韓国語/100 分/カラー/2.39:1/5.1ch 原題:비닐하우스 字幕:大塚毅彦 配給:ミモザフィルムズ 
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