『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』「映画は作っただけでは完成しない、人に観られてはじめて完成する」若松孝二

『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』「映画は作っただけでは完成しない、人に観られてはじめて完成する」若松孝二

2024-03-13 11:01:00

アップリンク吉祥寺行われた監督とキャスト総出の舞台挨拶で井上淳一監督は「不思議な舞台挨拶ですね、役名をさんづけでいうのは」という通り、本作は若松孝二監督(井浦新)をはじめ名古屋シネマスコーレ当時支配人の木全純治氏(東出昌大)、そして井上監督(杉田雷麟)自身と実在の人物が描かれている。唯一創作上の人物は映画を撮りたい若者金本法子(芋生 悠)だ。

アップリンク吉祥寺3月15日初日:ライブ演奏+舞台挨拶

 

映画監督若松孝二が、名古屋駅前の近くに映画館名古屋シネマスコーレを1983年(昭和5年)にオープン。名古屋にした理由は「安かったから」だという。

51席の映画館は、現在も運営されており、23年から支配人に就任した坪井篤史氏のツイートは運営の厳しさを連日ポストしている。名古屋のもう一つのミニシアター名古屋シネマテークが閉館し、以下は、同じ場所でナゴヤキネマ・ノイが3月16日にオープンした前日のポストだ。

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坪井篤史
@tsuboiatsushi
·
明日から名古屋の小さな映画館は再び両翼広げます。少し早いですが、ナゴヤキネマ・ノイさん開館おめでとうございます。シネマスコーレも映画文化の灯を消さないように頑張ります。しかし事実、お客様は毎日50名弱しかいません。灯を消さないように、そして明日からノイさんと飛びます。嬉しいです。

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さて、本作を現在TBSで放送されている宮藤官九郎脚本の昭和と現在をタイムマシーンで行き来する『不適切にもほどがある!』の昭和時代だけの青春物語としてノスタルジックに見るか、あるいは、若松孝二の言葉「映画は作っただけでは完成しない、人に観 られてはじめて完成する」という言葉を噛み締め、現在に続く物語として見るかで違ってくるだろう。

現在、本作を上映中の現実の名古屋シネマスコーレは「お客様は毎日50名弱しかいません」なのだ。

この若松孝二物語にパート3があるとしたら井浦新が監督をするとアップリンクとは別の舞台挨拶で宣言したので、ノスタルジックな世界から現実を突き刺す作品を期待したい。

なお、アップリンク吉祥寺では若松孝二が監督した7作品と本作のパート1『止められるか、俺たちを』(監督:白石和彌、脚本:井上淳一)を上映します。

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『ゆけゆけ二度目の処女』(1969年/65分)
監督:若松孝二 
出演:小桜ミミ、秋山未痴汚(道男)
屋上で男達に犯された少女と出会った少年は、夜明けに少女の後を追う。中村義則の独特な詩の世界をアレンジした足立正生の脚本、秋山道男の作曲、快演によって生まれた異色のラブストーリー。


『処女ゲバゲバ』
(1969年/66分)
監督:若松孝二
男女が処刑の儀式のために荒野へと連行されるが、生き延びた男は殺人ゲームに興じるボスたちを逆に皆殺しにしていく。大和屋竺のハードボイルドな世界観の脚本を若松孝二は御殿場の荒野を密室に見立てて演出した。「処女ゲバゲバ」というタイトルは大島渚によって命名。

『性賊/セックスジャック』(1970年/70分)
監督:若松孝二 
出演:秋山未知汚(道男)、笹原茂朱、須藤黙布、山川密
「よど号」事件の7年後を舞台に、第2のハイジャックに向けて潜伏する活動家と、憎悪を抱えながら生きるアナーキーな下層労働者のテロリズムが対比的に描かれる。後に“無印良品”“チェッカーズ”などのプロデューサーとして名をはせる秋山道男が主演。


『天使の恍惚』(1972年/89分)
監督:若松孝二 
出演:吉沢健、横山リエ
米軍基地を襲撃する革命軍・四季協会の十月組は作戦に失敗し組織の再編を迫られる。孤立したメンバーは、爆弾を手に個的な闘いを展開。「無差別テロ」を助長する映画だとして、上映反対運動が巻き起こった過激作。


『水のないプール』(1982年/103分)
監督:若松孝二
出演:内田裕也、MIE、中村れい子
クロロホルムによる性犯罪を通して、都会の狂気を描く大人のメルヘン。内田裕也を主演に、原田芳雄、MIE、沢田研二、タモリ、赤塚不二夫らが意外な役どころで出演している。

『キャタピラー』(2010年/84分)
監督:若松孝二
出演:寺島しのぶ、大西信満
戦争の悲劇は戦場だけではない、戦傷を負った夫とそれを介護する銃後の妻を通して戦争の愚かさを描く。シゲ子を演じた寺島しのぶは、本作の入魂の演技でベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞した。


『海燕ホテル・ブルー』(2012年/84分)
監督:若松孝二
出演:片山瞳、地曵豪、井浦新、大西信満 他
ハードボイルド小説の第一人者・船戸与一の異色作『海燕ホテル・ブルー』が、荒野の密室劇に生まれ変わる。現実か幻想か、若松孝二の脳内が爆発するこの作品は、映画関係者や若松マニアに愛されている。

『止められるか、俺たちを』(2018/119分)
監督:白石和彌
脚本:井上淳一
出演者:門脇麦、井浦新
配給:若松プロダクション、スコーレ
時代の先端を駆け抜けろ!これが映画だ!!これが若松プロダクションだ!!
若松プロダクション出身で、日本映画界を代表する監督・ 白石和彌が自ら企画した本作。1969年から71年にかけての若松プロダクションを助監督・吉積めぐみの目を通して描いた青春群像劇


井上淳⼀ 監督コメント


『止められるか、俺たちを』から『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』へ

コロナ禍でミニシアターが危機に陥った時、多くの映画⼈が声を上げた。僕もその⼀⼈だった。

SAVEtheCINEMA、ミニシアター押しかけトーク隊と微⼒ながら活動もした。その時に少なからぬ批判の声を聞いた。「映画の作り⼿ならば、そんな⼀時的な⽀援ではなく、ヒットする映画を作って、お客さんを⼊れることこそが恒常的なミニシアターの⽀援になるんじゃないか」と。その声にいつか応えたい。そう思ってきた。

2022 年2 ⽉19 ⽇、39 周年を迎えたシネマスコーレで⼀本の映画が公開された。『シネマスコーレを解剖する。―コロナなんかぶっ⾶ばせ―』というコロナ禍のシネマスコーレを追ったドキュメンタリーで、苦境を逆に楽しむような⽊全純治⽀配⼈の姿が⽣き⽣きと映し出されていた。そのパンフレットに原稿を頼まれ、最後をこう書いた。

「『⽌められるか、俺たちを』の「2」を作らないかとよく⾔われる。あれに勝る時代はないから不可能だと思っていたが、⽊全さん、シネマスコーレの黎明期をやりませんか。「映画は作っただけでは完成しない、⼈に観られてはじめて完成する」と、⾃分の映画館を作ろうとした映画監督と⽂芸座を辞め故郷に戻っていた映画⻘年がシネマスコーレを作る話です。40周年記念映画として。タイトルは『⽌められるか、⽊全を』です。」

100%冗談のつもりだったが、本当に作ってくださいという声があちらこちらから聞こえてきた。え、それって、⾯⽩いの? 半信半疑で考え出した。

映画監督が映画館を持つなど、まだ誰も考えなかった時代。名古屋という地⽅都市にミニシアターを作った映画監督と⽀配⼈になった映画⻘年の話。レンタルビデオの波が押し寄せ、名画座として開館しても⾚字続き。その苦境をどうやって乗り越え、40年も続けてこられたのか。それを描くことで、ミニシアターとは何かかが⾒えるのではないか。あの批判の声に応えられるのではないか。

しかし、シナリオを書き始めて、⼤きな壁にブチ当たる。ドラマとは「対⽴と葛藤」だが、それが⽊全さんにまったくないのだ。これは⽊全さんに限らず、全国のミニシアターの⽀配⼈に⾔えることだが、みんなどこかユルいのだ(失礼)。そうじゃないと、経済的に常に苦しいミニシアターなどやっていられないのだろう。しかし、シナリオを書くにあたって、これは致命的だ。どこにもドラマがない。ハコを作らずに書き始めたら、30 枚(15分)でシネマスコーレができてしまった。仕⽅なく、僕は「井上淳⼀(18)が歩いてくる。」というト書きを書いた。冷たい汗が背中を伝っていった。

名古屋での浪⼈時代、僕は映画を観に⾏ったシネマスコーレで若松さんに出会い、弟⼦⼊りを志願し、⼤学⼊学と同時に若松プロで助監督をやるようになった。が、まったく使いものにならなかった。⼀作⽬の吉積めぐみ(⾨脇⻨)は志半ばで死んでいく。しかし、どんなに才能がなくても、僕は映画にしがみついて⽣きてきた。その姿はどんなに経済的に苦しくても、映画を上映することを⽌めないミニシアターの姿に重なるかもしれない。

⼀作⽬は死ぬ話だが、今度は⽣きる話だ。僕は覚悟を決めた。本当は仮名にしたかった。しかし、⼀作⽬では全員実名。髙間賢治さんに⾄っては、童貞喪失シーンまで書いている。⾃分だけを仮名にするワケにはいかない。

おかげで、亡くなった⼤切な⼈たちに会えたけれど。これがこの映画の成⽴過程だ。

劇中でも引⽤しているが、新藤兼⼈はこう⾔っている。「⼈は誰でも⼀⽣に⼀度だけ傑作を書くことができる。それは⾃分⾃⾝を書くことだ」と。⾃分を書いて、傑作とは⾔わないまでも、今なお厳しい経営が続くミニシアターの⼀助⾜る映画になっているか。なっていて欲しい。

この映画はシネマスコーレという場に引き寄せられた、映画に⼈⽣をジャックされた⼈たちの⻘春群像劇だ。

この映画は僕の物語であると同時に、あなたの物語でもある。届け。

井上淳⼀
企画・脚本・監督
脚本家・映画監督。1965年愛知県出⾝。早稲⽥⼤学卒。⼤学在学中より若松孝⼆監督に師事し、若松プロダクションにて助監督を勤める。90年、『パンツの⽳・ムケそでムケないイチゴたち』で監督デビュー。その後、監督としての才能に絶望し、脚本家に。2013年、『戦争と⼀⼈の⼥』で監督再デビュー。数多くの海外映画祭に招待される。16年、福島で苦悩しながら農業を続ける男性を追ったドキュメンタリー『⼤地を受け継ぐ』を監督。フィクション、ノンフィクション、監督、脚本に関わらず、幅広い活動を続けている。19年には、『誰がために憲法はある』を監督。同作で第25回平和・協同ジャーナリスト基⾦賞奨励賞を受賞。『REVOLUTION+1』(22/脚本)『福⽥村事件』(23/脚本・プロデュース)と公開作品が続いている。本作は『戦争と⼀⼈の⼥』(12)以来、11年ぶりの⻑篇劇映画監督作品となる。主な脚本作品、『男たちの⼤和』(05/佐藤純彌監督)『パートナーズ』(10/下村優監督)『アジアの純真』(11/⽚嶋⼀貴監督)『あいときぼうのまち』(14/菅乃廣監督)『⽌められるか、俺たちを』(18/⽩⽯和彌監督)ほか。主な監督作品、『いきもののきろく』(14)ほか。

 

ストーリー

1980 年代。若松孝二が名古屋に作ったミニシアター。
映画と映画館に吸い寄せられた若者たちの⻘春群像。応援歌。

 映画を武器に激動の時代を走り抜ける若者たちを描いた『止められるか、俺たちを』から 10 年後。 1980 年代。時代も人も変わった。シラケ世代と言われ、熱くなることがカッコ悪いと思われていた時代。ビデオが普及し始め、映画館から人々の足が遠のき始めた時代。それに逆行するように、若松孝二は名古屋にミニシアターを作る。その名はシネマスコーレ。ラテン語で「映画の学校」。支配人に抜擢されたのは、結婚を機に東京の文芸坐を辞め、「これからはビデオの時代」と地元名古屋でビデオカメラのセールスマンをやっていた木全純治だった。木全は若松に振り回されながらも、持ち前の明るさで経済的危機を乗り越えていく。 そこに吸い寄せられる若者たち。まだ女性監督のほとんどいなかった時代。金本法子は「自分には撮りたいものなんか何もない」と言いながら、映画から離れられない。田舎の映画青年だった井上淳一もまた映画監督になりたい一心で若松プロの門を叩く。己れの才能のなさを嫌でも自覚させられる日々。それでも、映画を諦め切れない。救いは、木全が度々口にする「これから、これから」という言葉。 今がダメでも次がある。涙だけじゃない。そこには笑いがある。絶望だけじゃない。希望がある。この映画は僕の、私の物語であると同時に、あなたの物語でもある。これはあなたの青春の物語だ。


『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』予告編


公式サイト 

 

2024年3月15日(金) テアトル新宿、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー

 

Cast
井浦 新 東出昌⼤ 芋⽣ 悠 杉⽥雷麟
コムアイ ⽥中俊介 向⾥祐⾹ 成⽥ 浬 吉岡睦雄
⼤⻄信満 タモト清嵐 ⼭崎⻯太郎 ⽥中偉登 髙橋雄祐 碧⽊愛莉 笹岡ひなり
有森也実 ⽥中要次 ⽥⼝トモロヲ ⾨脇 ⻨ ⽥中麗奈 ⽵中直⼈

Staff
脚本・監督:井上淳⼀
企画:⽊全純治 尾崎宗⼦ 井上淳⼀ プロデューサー:⽚嶋⼀貴 ⽊全純治
⾳楽:宮⽥岳 撮影:蔦井孝洋 照明:⽯⽥健司 録⾳:⾅井勝 ⾳響効果:勝亦さくら
美術:原⽥恭明 装飾:寺尾淳 ⾐装:橋⽖⾥佳 鈴⽊沙季 ヘアメイク:清⽔美穂
編集:蛭⽥智⼦ 助監督:⼩原直樹 製作担当:伊藤成⼈ 演出応援:村⾕嘉則
製作:若松プロダクション シネマスコーレ 製作プロダクション:ドッグシュガー
配給:若松プロダクション スコーレ株式会社

2023年/⽇本/カラー/DCP/5.1ch/ビスタ/119分
©若松プロダクション