『コットンテール』イギリスの湖水地へ向かうロードムービーであり、心の距離を縮めることができない、親子の物語でもある

『コットンテール』イギリスの湖水地へ向かうロードムービーであり、心の距離を縮めることができない、親子の物語でもある

2024-02-26 16:53:00

『コットンテール』は、オックスフォード大学と早稲田大学で日本映画を学び、映画評論家・歴史家の故ドナルド・リチー氏の指導を受けたパトリック・ディキンソン監督のデビュー作で「母の介護と死」という監督自身の経験を元にした物語だ。

一人の女性、明子(木村多江)が亡くなった。
夫・兼三郎(リリー・フランキー)と息子・慧(錦戸亮)、どちらの喪失感が勝るわけでもなく劣るわけでもないのだが、息子の慧には、何か思うものがずっとあった。それは、「俺も、父さんの世界に入れて欲しかった」という言葉に表れる。

映画は、亡き妻の願いを叶えるために東京からイギリスの湖水地へ向かうロードムービーであり、心の距離を縮めることができない、親子の物語でもある。

監督の経験から生まれた物語、リリーは舞台挨拶で「たぶん錦戸くんが演じる慧は、監督の分身だと思う」と言う。

そのディキンソン監督はこう言っている。
「溝口健二、大島渚、伊丹十三、小津安二郎、ドナルド・リチーが私を導いてくれた古典的な日本映画は、今となっては私の中に深く刻み込まれており、この映画で何らかの形で敬意を表することができたと思います」。

 

パトリック・ディキンソン 監督インタビュー


――初監督の場合、外国語で映画を監督するというのは珍しいことですが、なぜ日本語でデビューしようと思ったのですか?

私は多くの映画をフランス語、ドイツ語、日本語で見て育ったので、「外国語映画」と「英語映画」の区別が完全につくようになったのは、ずっと後になってからです。私は日本語を話しますが、俳優と私は、台詞よりもアクションを通して感情を表現することに努めました。『コットンテール』は、言葉だけでなく、より深いものを表現しようとする私の試みです。

日本で映画を撮りたいと思ったのは、英国で育ったのと同様に、日本が私の大人への旅の一部だったからです。東京に住んでいた私は、映画評論家で作家のドナルド・リチーと親しくなり、彼から日本映画の手ほどきを受け、溝口健二についての卒論を指導してもらいました。

それが、日本語の短編映画「USAGI-SAN」につながりました。私が育った場所と、私が住み慣れた東京の、両方の人々は、多くの点で同じような寡黙な特徴を持っています。私にとっては、このようないわゆる「外国」の文化や言語は、私たちが信じ込まされているよりもずっと、外国的なものではないということを言いたかったのです。

もちろん、登場人物が「異国」の地を旅する英語映画にはもう飽き飽きしたからというのもあります。それで代わりに、日本の家族をイギリスに連れてきて、それを見たいと思ったのです。日本人の目から見たイギリス文化を。

――『万引き家族』のリリー・フランキーから『ベルファスト』のキアラン・ハインズまで、この映画のために集められたキャスが印象的でした。キャスティングのプロセスはいかがでしたか?

私はしばらくの間、信じられないほど才能のあるリリー・フランキーと仕事をしたいと思っていましたが、まさかその機会が得られるとは思っていませんでした。驚いたことに、彼は脚本をとても気に入っていて、一緒に仕事をするのが素晴らしかったです。彼のキャラクターを開発し、深めるために緊密に協力しました。

橋口亮輔監督の『ぐるりのこと。』で、リリーさんは日本の名優、木村多江さんと共演していました。 これは、私が『コットンテール』に求めていた夫婦の関係そのものであり、多江さんが明子役を引き受けてくれたときは感激しました。

英語圏の役を演じるにあたり、私のプロデューサーであるガブリエル・タナは、ジョン役に素晴らしいキアラン・ハインズを提案し、さらに彼女は、キアランの娘であるイーファ・ハインズとも仕事をすることを思いつきました。演技の才能に恵まれた実際の父娘デュオで、家族に命を吹き込む完璧な方法でした。

――アルツハイマーは『ファーザー』や『アリスのままで』など、最近の映画で頻繁に題材にされています。デビュー作でこのようなテーマを扱うことにプレッシャーは感じませんでしたか?

もちろん状況は多少異なりますが、この話は私の家族に関する実体験に基づいています。私が日本に住んでいたとき、母が末期の病気であることが分かりました。両親は離婚していたので、母の精神状態は急速に悪化し、私と妹が世話をすることになったのです。母の世話に費やした数年間は、母が経験した苦痛を目の当たりにしなければならなかったので、私の心に消えない傷を残しました。母は助かりませんでしたが、その経験を他の人たちと分かち合いたいという強い決意が芽生え、最初は短編「USAGI-SAN」、次に長編『コットンテール』を発表しました。

それらは、私と父が彼女を適切に世話できなかったこと、そしてその後私たち二人の間に生じた傷と罪悪感のパンドラの箱に対する私の非常に個人的な反応でした。 そして、これらすべては母の病気と死によって引き起こされましたが、後になって、この辛い出来事がどういうわけか父と私に和解をもたらしたのだと理解しました。 私がこの映画を通して最終的に伝えたかったのは、この父と息子の最終的な接近です。

パトリック・ディキンソン
Patrick Dickinson
監督
イギリス・アイルランド出身。作家・監督。オックスフォード大学と早稲田大学で日本映画を学び、映画評論家・歴史家の故ドナルド・リチー氏の指導を受ける。2011年「SOON」、2012年「FATHER」、卒業制作「USAGI-SAN」(13)を含む、数多くの短編映画を撮影し、BAFTA US Special Jury Awardを受賞。世界30の映画祭で上映され、ヨーロッパで唯一の学生エミー賞(ドラマ部門)を受賞した。
2014年、京都フィルムメーカーズラボに参加し、東映京都撮影所と日本の短編映画「OKYO MONOGATARI」を監督。その後、BBCやNetflixでテレビシリーズのプロデューサー、エグゼクティブ・プロデューサーを務める。
『コットンテール』は、日本とイギリス両国での、監督自身の物語に動機づけされた作品で、長編監督デビュー作となる。

 

ストーリー

東京からイギリスの湖水地方へ、亡き妻の願いを叶えるための旅

60代の作家、大島兼三郎の最愛の妻、明子が、闘病生活の末に息を引き取った。埋めようのない喪失感に打ちひしがれた兼三郎は、生前の明子が寺の住職に託した一通の手紙を受け取る。そこには明子が愛したイギリスのウィンダミア湖に、遺灰をまいてほしいという最後の願いが記されていた。兼三郎は遺言を叶えるために、長らく疎遠だった息子の慧とその妻さつき、4歳の孫エミとともにイギリスへ旅立つ。しかし互いにわだかまりを抱えた兼三郎と慧は事あるごとに衝突し、単身ロンドンから湖水地方に向かった兼三郎は、その途中で道標を失ってしまい……。

 

『コットンテール』予告編


公式サイト

 

2024年3月1日(金) 新宿ピカデリー、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー

 

監督・脚本:パトリック・ディキンソン
出演:リリー・フランキー 錦戸亮 木村多江 高梨臨 / 恒松祐里 工藤孝生 / イーファ・ハインズ and キアラン・ハインズ   
製作プロダクション:マグノリア・マエ・フィルムズ、オフィス・シロウズ
製作総指揮:ガブリエル・タナ
プロデューサー:押田興将、キャロリン・マークス・ブラックウッド、エレーヌ・テオドリー

2022年/イギリス・日本/日本語・英語/94分/2:39:1/カラー/原題:COTTONTAIL

配給:ロングライド
©️2022 Magnolia Mae/ Office Shirous