『落下の解剖学』映画に関する情報を一切得ずに観ることを強くお勧め!
『落下の解剖学』映画を観るわくわく感、どきどき感、楽しさ、知的興奮、全てに満ち溢れている作品。
去年のカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドール受賞。審査委員長リューベン・オストルンド監督のコメントは「強烈な体験だった」。
これ以上この映画に関する情報を一切得ずに観ることを強くお勧めします!
本作に関する情報を少しでも映画鑑賞前に入れてしまうと面白さが半減、いや、全減します。
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ジュスティーヌ・トリエ 監督インタビュー
――出発点
ある夫婦の関係が崩壊していく様を表現したいと思ったのが始まり。夫婦の身体的、精神的転落を緻密に描くことによって、二人の愛の衰えが浮き彫りになっていくという発想から出発しました。
この夫婦の一人息子は、裁判で家族の過去が徹底的に探られる中で、両親の関係が波乱に満ちていたことを知ります。最初は母親を全面的に信じていた彼も、裁判が進むにつれて疑念を抱くようになり、それをきっかけに彼の人生は一転する。物語は、この変化を追っていきます。私の過去の作品では、子どもたちの存在は背景的な静かな存在だった。でも本作では、物語の中心に子どもの視点を取り入れ、主人公サンドラの視点と並べることで、様々な出来事をバランスよく描き出したいと思いました。
物語の舞台は、この夫婦の自宅から法廷へと移っていきます。場面は長期にわたる尋問の形で展開していく。脚本と撮影技術に対してドキュメンタリー的なアプローチを取ることで、写実的表現を目指しました。でも同時に、物語の複雑さをより深く掘り下げることで、観客から幅広い感情を引き出したいとも思い、それを実現するためにシンプルさを追求しました。音楽を抑え、私のこれまでの作品とは異なる飾り気のない自然なトーンで表現することにしました。
―― 「落ちる」というテーマ
「落ちる」という事象が、モチーフとしてこの映画全体で繰り返されます。冒頭のボールが落ちるシーンではそれを文字通りに表現しました。『MAD MEN マッドメン』(07~15年まで放送されたアメリカのTVドラマシリーズ)のオープニングで男が落下していく場面を見てからずっと、「物体の重さ」の感覚と、「落ちる」という感覚がどのようなものなのかということに関心を持っていました。私の映画では、階段を上り下りするようなショットがしょっちゅう登場するし、何かが落下する時に起こった経緯を明らかにするために、様々なアングルから捉えています。本作では、横のアングルから捉えたいと思い、落下のシンボルとしてボールを使いました。主人公サンドラの犬がそのボールを咥えるのをきっかけに、彼女の物語が2時間半にわたって始まります。
――子をもつ夫婦
子供を持つ夫婦の争いを物語の中心に置くことで、時間を共有することの複雑さを探究しています。こういうテーマが映画で扱われることはあまりないけれど、ギブアンドテイクの関係、信頼、パートナーシップの関係性といった重要な問題を提起していると思う。
売れっ子作家のサンドラ・ヴォイテールと、息子のホームスクーリングをしながら執筆活動をしている教師の夫サミュエルは、役割を逆転させることで伝統的な夫婦の形に挑戦状を叩きつけている。サンドラは自由を求め、自分の意志を通そうとする。しかしそれによって不均衡が生じ、強力でありながらも不確かなこの関係の中で平等とは何を意味するのかを探ることになる。本作が観客に呼びかけるのは、人間関係における平等に対して抱かれがちな固定観念への疑問。そしてその平等が、独断的な欲求や対抗意識によって、いとも簡単に崩れてしまうものなのだということです。この夫婦は、葛藤しながらも自らの理想にしがみつき、理想ではない状況に決して甘んじない。その姿勢は称賛に値すると思う。
2人は口論を通して互いと交渉し、その中でもお互いに対して正直であり続ける。それは、困難に直面しながらも、お互いを深く愛しているということを象徴しています。
―― 脚本作り
アルチュール・アラリと私で執筆作業を分担し、共同で本作の脚本を仕上げたのですが、その過程でヴァンサン・クルセル=ラルースという刑事事件専門弁護士から、非常に貴重な指導を受けました。彼には頻繁に相談して、物語の専門的な部分を正確に表現したり、フランスの法廷で審理が行われる過程をより深く理解したりした。意外にも、フランスの裁判はあまり秩序立っておらず、米国で見られるような組織的なアプローチとはかなり異なっています。でもだからこそ、見せ場重視のアメリカの法廷ドラマとは違うアプローチで、フランス特有の映画にすることができました。また、審理を中断せずに見せるという決断にも自然にたどり着きました。私はポストプロダクションで、編集担当のロラン・セネシャルと一緒に多くの時間をかけ、映画のペースを落としてショットを不完全な状態に保ち、少々不安定で生々しい感覚が残るようにも意識しました。洗練されすぎて、意外性のない作品にはしたくなかったから。この映画を作る中で、新しい喜びを見出せました。
――回想シーン
最初から、回想シーンは使わないと決めていた。必要ないと思ったし、何よりも人の口から発せられる言葉に焦点を当てたいと思った。裁判では真実を掴むのが困難であり、人が発する言葉で埋めなければならない空間がある。音を使うことだけは例外として認めたけど、回想ではない。口論のシーンは、録音された音声がスクリーン上で突然展開し、臨場感を作り出す。それが空間を生み出していく。その方が映像よりもパワフルだと思う。純粋な臨場感を作り出すと同時に、霊的な印象を与えている。
ジュスティーヌ・トリエ
監督・脚本
1978年7月17日フランス、フェカン生まれ。パリの国立高等美術学校を卒業。長編デビュー作は、カンヌ国際映画祭 ACIDに選ばれセザール賞最優秀長編映画賞にノミネートされた『ソルフェリーノの戦い』(13)。長編2作品目は16年カンヌ批評家週間のオープニングとなり、セザール賞で最優秀作品賞、最優秀女優賞を含む5部門にノミネートされた『ヴィクトリア』(16)。長編3作品目の『愛欲のセラピー』(19)はカンヌ国際映画祭コンペティション部門出品となり、本作品で見事カンヌ国際映画祭最高賞のパルムドールを受賞した。
ストーリー
これは事故か、自殺か、殺人か──。
人里離れた雪山の山荘で、男が転落死した。
はじめは事故と思われたが、
次第にベストセラー作家である
妻サンドラに殺人容疑が向けられる。
現場に居合わせたのは、
視覚障がいのある11歳の息子だけ。
証人や検事により、夫婦の秘密や嘘が暴露され、
登場人物の数だけ<真実>が現れるが──。
『落下の解剖学』予告編
公式サイト
2024年2月23日(金・祝) TOHOシネマズ シャンテ、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー
監督:ジュスティーヌ・トリエ
脚本:ジュスティーヌ・トリエ、アルチュール・アラリ
出演:ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール、アントワーヌ・レナルツ
配給:ギャガ
原題:Anatomie d'une chute|2023年|フランス|カラー|ビスタ|5.1chデジタル|152分|字幕翻訳:松﨑広幸|G
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