『オスカー・ピーターソン』ジャズ史上最も偉大なピアニストのひとりオスカーがもっと好きになる映画

2024-01-30 16:14:00

「この人を聴かないとダメだ！」とビリー・ジョエルに言わしめた、ジャズ史上最も偉大で、多大な影響を与えたピアニストのひとり、オスカー・ピーターソン。

聴く者に高揚感を与える軽やかな音色とハーモニー、そして誰もが釘付けになる超絶技巧！　彼は若い頃から頭角を現し、ニューヨークでの大成功を収めて以来、常にツアーで全世界中を飛び回り（来日公演も果たし）、生涯を通して走り続け、進化し続けた。ついには、若き日のオスカーを打ちのめしたただ一人のピアニスト、左右の手で異なるリズムと異なるメロディーを奏でる技巧の持ち主であった盲目の巨匠アートテイタムまでも超える存在となり、かのルイ・アームストロングには「4本の手を持つ男」と呼ばれるまでになった。

しかし、一流ピアニストとしてのオスカーの華やかな人生の裏には、黒人であることで長きにわたり被ってきた人種差別の苦しみがあった。黒人というだけで、自分がコンサートをするホテルであっても泊めてもらえず、トイレさえ白人と一緒のものを使えなかった。そんな今では信じられないような時代を乗り越えて、1962年に彼が作曲した「自由への賛歌」は、その後の公民権運動の賛歌となり、人々を解放へと導いていく。

監督を務めるのは、映画プロデューサー、作家、マーケティング担当重役、芸術慈善家でもあるカナダ出身のバリー・アヴリッチ。オスカー・ピーターソン生誕100周年を来年に控え、改めて、彼の音楽と人生を深掘りするドキュメンタリーを完成させた。

本作では、差別との闘い、三度の離婚、68歳で患った脳梗塞とそこからの復活、家族との絆を示すエピソードについて、本人のインタビューを多数収録。さらに、ビリー・ジョエル、クインシー・ジョーンズ、ラムゼイ・ルイス、ハービー・ハンコック、ブランフォード・マルサリス、ジョン・バティステなど、ジャンルのさまざまな著名アーティストら、そして妻や娘の肉声も加わり、オスカーの人生全体がさまざまな角度からより立体的に描かれる。

やはり一流の人は何かが違う。才能なのか努力なのか、オーラなのか人格なのか、運なのか徳なのか……？　その理由が知りたければ、そのエッセンスに触れたければ、答えは本作の至るところに散りばめられている。一流なのは「その人」であって、「音楽」だけじゃないことがよくわかる。

オスカー・ピーターソン
Oscar Peterson
1925年8月15日 - 2007年12月23日（82歳没）。カナダ、ケベック州モントリオール出身のジャズピアニスト、作曲家。モントリオール黒人コミュニティーで幼少の頃よりクラシック音楽を学び育つ。アメリカ人ではない出自にもかかわらず、ジャズの歴史に刻まれる代表的なミュージシャンに挙げられる。故郷カナダでは英雄であり、新１ドルコインの肖像にもなる。2025年には生誕100年を迎える。

Quiet Nights Of Quiet Stars (Corcovado)　ー「WE GET REQUESTS（プリーズ・リクエスト）」より

＊ WE GET REQUESTS（プリーズ・リクエスト）：日本で最も有名なオスカーのアルバム。録音状態が素晴らしく、スピーカーなどをテストする際はこのアルバムを使うオーディオマニアも多いという。

バリー・アヴリッチ監督

バリー・マイケル・アヴリッチ
Barry Avrich
監督
1963年生まれ。プロデューサー兼ディレクター。北米最大のノン・スクリプト・コンテンツ・プロデューサーのひとつであるメルバー・エンタテインメント・グループの創造力として活躍の場を広げる。『Made You Look』、『The Last Mogul』、『Prosecuting Evil』、『David Foster』など、60本以上のドキュメンタリーや映像作品を制作・監督し、国際的にも高い評価を得てきた。また、クリストファー・プラマー主演の『テンペスト』やコルム・フェオア主演の『キング・リアー』など、ブロードウェイやシェイクスピア作品の舞台化・映画化をプロデュースし、21以上の賞を受賞している。現在、『The Talented Mr.Rosenberg』、『Born Hungry』、『The Palm Beach Diaries』、『Without Precedent』を製作中。