死に物狂いで生き切ったボクサー人生物語『生きててよかった』 プロボクサーの資格を持つ木幡竜主演で描く日本版『ロッキー』
“生の死闘”を目撃するような、なんとも言えない後味の悪さ。汗と血迸る生々しい闘い、その痛々しさと憂鬱が、観る者の感情を面白いほど揺さぶってくる。生を渇仰しさまよう愚直な男の生き様が「生きるとは何か?」を問いかけてくる。
闘うことでしか生きる価値を見出せない元ボクサーの主人公・創太を演じたのは、自身もプロボクサーの経歴を持つ木幡竜。プロボクサー、サラリーマンを経て一念発起で俳優を志し、中国映画『南京!南京!』に出演。単身中国に渡り、アンドリュー・ラウ監督の『レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳』でドニー・イェンと死闘を繰り広げる悪玉のトップを演じ、その後日本でもドラマ「アバランチ」で注目を集めた、逆輸入俳優だ。珍しい経歴を武器に、過酷な減量とトレーニングによる体脂肪率3%という鋼のような肉体と、ボクシング&総合格闘技の本格アクションによって、本作ではついに映画初主演を果たす。
監督・脚本を手がけたのは、『くそガキの告白』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭で審査員特別賞ほか4冠を獲得し、テレビドラマ、CMなどの監督としても知られる鈴木太一。さらに『ベイビーわるきゅーれ』の園村健介がアクション監督を務める。
相手役のスタントに本気の攻撃を要請するほど気合を込めた、そしておそらく木幡の俳優人生をかけた本格アクションは、どこまでも規格外である。
ストーリー
相手にがむしゃらに向かって行くファイトスタイルで人気を博したプロボクサー・楠木創太(木幡竜)。
だがある日、長年の闘いが体を蝕み、ドクターストップによって強制的に引退を迫られる。
引退を機に幼馴染で恋人の幸子(鎌滝恵利)と結婚し、新しい生活をスタートさせるが、ボクシングジムの会長(火野正平)の口利きで雇ってもらった会社では成果が出せず、社会では全く役に立たないという厳しい現実を痛感させられる。悶々とした日々を過ごすある日、創太のファンだと名乗る新堂(栁俊太郎)という謎の男から大金を賭けて戦う、欲望うずめく地下格闘技へのオファーを受ける……。
当初乗り気でなかった創太だったが、働き始めた工事現場で理不尽な扱いを受けて同僚を殴ってしまったことから、忘れかけていたボクサー時代の興奮が蘇り、アドレナリンが沸き立っていく。まるで空っぽの自分を埋めるように、そのまま地下格闘技場へと足を運ぶのだった。
そこはルールのない格闘技場。なんでもありの闘いに金を賭けて楽しむ観客たち。新堂に煽られ、母(銀粉蝶)がやっとの思いで捻出した結婚資金を全部自分に賭けて闘いに挑む創太だったが、結果は惨敗。茫然自失して家に戻った創太を待っていた幸子は、ドクターストップがかかっているにも関わらずボロボロになった創太を責めるが、そこで幸子が創太の試合中に他の男と逢瀬を重ねていた事実を知る。殴られ続ける創太の姿を見ることができなかった幸子は、その恐怖を払拭するかのように他の男に逃げていたのだ。壊れゆく二人の関係。夫婦生活が解消された時、同じく幼馴染だった健児(今野浩喜)は創太を激しく非難する。「幸子を幸せにできるのは創太だけなのだ」と。
幸子を守るために強くなりたい―子供の頃、「ロッキー」を見てボクサーを目指した創太と、俳優を目指した健児。健児もまた、俳優としてくすぶっている自分に嫌気がさしていた。
どうしても闘うことから逃れられない、勝ちたいという創太の執念に感化され、健児は地下格闘技で闘う創太に力を貸すことになるのだった……。
地下格闘技で勝つことに取り憑かれていく創太とそれを後押しする健児。その狭間で揺れ動く幸子。闘うことに取り憑かれた男の狂気と愚直なまでの生き様は果たしてハッピーエンドとなるのか、バッドエンドとなるのか。今、再び闘いのゴングが鳴る――。
映画『生きててよかった』特別クレイジー対談
主演俳優・木幡竜×アクション監督・園村健介
■荒々しくリアルな格闘アクションの誕生
園村:アクションを作る上で意識したのは“カッコ悪くも面白い”です。目指したのは、見ていてワクワクして感情移入しやすいカッコ悪さ。ストーリーが進む中でそのカッコ悪さが洗練され、感情的にもどんどん上がっていく。決め決めにならず荒々しく、そんな狙いを持って臨みました。
木幡:地下格闘技場面は、その場で戦っているかのようなストリートファイトに見えるかもしれませんが、園村さんのアクションはカメラアングルも映り込む角度も含めてすべてミリ単位で決まっている。アドリブを入れる余地はありません。練習を重ねる中で僕のアイデアを採用していただくこともありましたが、基本的にはすべて園村さんに言われた通りにやっています。
園村:木幡さんから出るアイデアというのも、実際に人と拳を交えて戦ったことがある人でなければ出てこないようなものばかりでした。練習の場でも木幡さんはプロボクサーのキャリアを持つだけあって、基礎を素っ飛ばして即実地からというスムーズなものでした。
■役作りで10キロの減量を敢行
木幡:楠木創太は悲壮感を持ったストイックな人間なので、まずは鈴木監督から10キロ減量の指示が出ました。とはいえ僕は減量していない状態でも体脂肪10%もないので、一般の方が減量するのとはわけが違います。その時出演していた中国映画の撮影が延びてしまったことから、中国のジムで鍛えて食事制限もして6キロ減量。それもあって中国映画のクライマックスでは別人のように映っているかもしれません(笑)。帰国してからは園村さんらアクションチームと本当に喧嘩をしているような厳しい練習の日々を過ごし、そこからさらに4キロ落としました。まず、食事の絶対量を変えます。朝は食べずに昼と夜。だんだん量を減らして炭水化物も減らしていきます。最後の1ヶ月は1日1食にして、豆腐に納豆をかけて食べる。それにスープ春雨。この三種類を食べるというより摂取するという感じです。撮影中もほぼ同じなので2ヶ月間ぐらい同じもの食べることになりました。
園村:特に総合格闘技のグラウンド系は体力を消耗しますから、練習を重ねれば重ねるほど木幡さんがどんどん細くなってくるという(笑)。同じアクションであっても、見ていて面白い人とそうではない人がいます。ジャブ一つでお金を取れるか否か?その点、木幡さんには蓄積されたキャリアがありますから、拳と拳の戦いをやり続けた人にしか出せない凄みがありました。
■秘密裏に行われた実録ノックアウト事件
園村:プロボクサーの松本亮さん(第34代OPBF東洋太平洋スーパーフライ級王者)を相手にした冒頭のボクシングでのノックアウトシーン。そこで木幡さんは…本当に殴られています!
木幡:アクション監督の仕事とは、パンチやキックを当てないでいかに効果を生むかが勝負だと思うので、役者に「ガチで殴られてほしい」と言う方はいません。しかし僕としては、ノックアウトされたときの目がイッちゃってる芝居では絶対にできないと思っていました。ならばどうするか?ほかの俳優ができなくて僕が出来ることは?…そう考えたときにガチで殴ってもらって本当にノックダウンされることを思いついたんです。
園村:アクション場面での安全管理も僕らの役割の一つ。ハプニングが理由で撮影がストップするなんて本末転倒ですから、最初は当然止めようとしました。でも木幡さんの熱意というか、「それをやることで映画がガラッと変わるから!」という信念と覚悟があまりにも強くて。結果的に周囲に内緒でやってもらいました。
木幡:カメラマンの高木さんには詳しく説明せず「凄いスピードで倒れるから絶対に追ってね」と伝えただけ。いざ本番で思い切りパンチが入って僕が崩れ落ちたときはみんな騒然!すると園村さんが急いで駆け寄って来てこう言いました。「木幡さん…もう一回いいですか !?」と。さすがに「もう一回は勘弁して!」と思いました(笑)
園村:ちょっとカメラ映りがイマイチで…。せっかくガチでやってもらったにもかかわらず、それなりの映像が撮れたからOKにはしたくなかった。であればもう一度だけスミマセンと(笑)
■共演者も絶句!ハードコアな地下格闘技シーン
園村:楠木創太と対峙する敵の得意分野によって戦い自体の質が変わってくるので、最初の敵はボクシングにはないケリを中心にしたファイターにして、そのファイトスタイルに戸惑う創太という姿を押し出しました。二人目は一転してグラウンド系のファイター。それに対して創太はどのように戦いを挑むのか?創太は試合を重ねる中で蹴りや寝技への対策をしますが、ジムで習うような設定ではなかったので、格闘技ジムで習うドリル的な対処法は採用せず、彼の根性や本能のままでやったように見える動きを意識。なおかつ地味になりすぎず、見ていて滑稽ながらも熱くなるような絶妙なバランスを狙いました。
木幡:締め技からのエスケープ方法もテクニックではなく、力まかせに耳が赤くつぶれるような抜け方をしたりして、誰も気づかない細部ではあるけれど、それがあるのとないのとではリアリティに大きな差が出る。園村さんのアクション演出は非常にきめ細やかで、要求されることも非常に高い。中国映画界を含めてもここまで細部にこだわり、スキルの高いアクションを要求&実現していく人は初めてです。生っぽいバトルをやらせたら園村さんの右に出る者はいません。
園村:ボクシング映画や格闘系映画の撮影スタイルとしては、手持ちカメラで接写して細かくカットを割って編集のリズムで迫力を演出するパターンがあります。しかし今回は戦っている二人の空気感やフェイントを入れる時のリアルな間合いや息遣いを殺したくなかったので全身を映そうと。カメラで試合全体を捉えることで、あたかもリングサイドで試合を目撃しているかのような効果が生れたはずです。
木幡:一番近くで見ていた栁俊太郎君からは「本当に殴り合っているとしか思えない…」と言われました。地下格闘技シーンはバンテージを巻いているとはいえ、ほぼ素手。パンチが当たったら間違いなく怪我という状況下。そんな危険な中でも本気のスピードでやらせてくれたスタントマンの優秀さには頭が上がりません。
園村:いまだかつてないアクションシーンの連続だと思います。そもそも主演俳優から「ガチで当ててください!」と言われることなどないですから(笑)
■ハイキック!チョークスリーパー!からの失神!
木幡:とはいえケガ人はゼロです!ただし、僕は2回くらい失神しました。ハイキックをギリギリで避けようとし過ぎて反応が遅くなり、側頭部にゴン!チョークスリーパーで気絶もありました(笑)。
園村:本気のチョークスリーパーも木幡さんからの要望でした。自分の首と相手の腕の間に隙間が見えるのは嫌だと、相手役にしっかりと締めてほしいと…。
木幡:しっかり締めてもらわないと、顔の血管も浮き上がらないのでリアルに見えません。もちろん相手の方はプロのスタントマンですから、手加減はしてくれています。本当に絞められた3秒も持ちません 。
園村:どれくらいで失神していましたっけ?
木幡:えーと…2 秒だね(笑)
園村:あれには驚きました。急に木幡さんの動きが止まったと思ったら、次の瞬間に「あ、スミマセン!」と目覚めるという(笑)
木幡:アクションシーンを撮影するにあたり、僕はスタントの方々全員に「いつもとは全く違うと思ってもらって大丈夫です。本気で当ててもいいからその気持ちで来てほしい」とお願いしました。本気であればあるほど筋肉の躍動感や見え方も変わってくるからです。
園村:主演俳優がそこまでの気迫を持って臨んでくれるというのは、僕らアクション部としても嬉しいこと。テンションも一段と上がりました。
木幡:この映画のチームは全員狂っています!(笑)鈴木監督も10年ぶりの長編映画でテンションも高く、僕が工場で殴られる場面で「この人は大丈夫な人だから!」と相手役の俳優に言っていました。プロデューサーも万が一僕に何かあっても撮影が終わるように撮影スケジュールの最後に格闘技場面の撮影を組んでくれました。最狂チームのお陰でいまだかつてない映画が完成。ほんと“生きててよかった”です!
『生きててよかった』予告編
公式サイト
5月13日(金) 新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺、アップリンク京都ほか全国ロードショー
監督・脚本:鈴木太一
アクション監督:園村健介
出演:木幡竜、鎌滝恵利、今野浩喜、栁俊太郎、長井短、黒田大輔、渡辺紘文、永井マリア、木村知貴、松本亮、三元雅芸、銀粉蝶、火野正平
エンディングテーマ:betcover!! 『NOBORU』(cutting edge)
エグゼクティブプロデューサー小西啓介/プロデューサー半田健、筒井史子/アソシエイトプロデューサー杉本雄介
音楽:34423/撮影:高木風太/照明:秋山恵二郎/録音:岡本立洋/美術・装飾:中沢正英/持道具:三崎茉莉子/スタイリスト:田口慧/ヘアメイク:田鍋知佳/特殊メイク:吉井亮太郎
助監督:平波亘/製作担当:日出嶋伸哉/編集:宮崎歩、鈴木太一/スーパーヴァイジングサウンドエディター:伊藤晃
特別協力:大橋ボクシングジム/制作プロダクション:オフィスアッシュ、ハピネットファントム・スタジオ
企画製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ
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