『ブルーバック あの海を見ていた』比類なき生態系を誇るオーストラリアの海が、未来へ繋ぐ大切なものを教えてくれる

『ブルーバック あの海を見ていた』比類なき生態系を誇るオーストラリアの海が、未来へ繋ぐ大切なものを教えてくれる

2023-12-26 10:24:00

海の映画というのは、どうしてこんなにも引き付けられるのだろう。こんなにも純粋に掛け値なく、感動するのだろう。母なる海、生命を生み出し、育む海、未知なる多様な海洋生物の棲家である海。この雄大な海に没入することで、海の美しいブルーに文字通り心が洗われていくよう……。何よりも海が母であり生命の源であることを、この映画はありありと表現している。環境保護のメッセージも、母と娘の絆を描いたストーリーに織り込まれ、すんなりと伝わる。

監督は、昨年公開のクライム・サスペンス『渇きと偽り』が記憶に新しいロバート・コノリー。本作は、ブッカー賞に2度ノミネートされた、オーストラリアの作家ティム・ウィントンの1997 年に出版されたベストセラー同名小説が映画化されたものだ。原作に魅了され、映画化を熱望してきた彼にとって、本作は待望のプロジェクトだったという。

主人公アビーを演じるのは、『アリス・イン・ワンダーランド』で脚光を浴びたのち 、ジム・ジャームッシュ、パク・チャヌク、デヴィッド・クローネンバーグ、ギレルモ・デル・トロといった名だたる監督の作品に次々と出演してきたミア・ワシコウスカ。母ドラに、『サイレントヒル』のラダ・ミッチェル。さらに 8 歳と 15 歳のアビーには、ふたりの新星、アリエル・ドノヒューとイルサ・フォグ。

世界最大の珊瑚礁地帯グレートバリアリーフをはじめ数々の自然遺産に恵まれたオーストラリアでの海辺の暮らし、手付かずの海辺に忍び寄る環境問題、利益と合理性を追求する人々との対立、海の世界の豊かさと、海を人魚のように泳ぎ回るダイバーの麗しさ、なにより、広大であらゆる生命を包み込む海そのものの美しさが凝縮されている。オーストラリア版『グラン・ブルー』だ。

何はともあれこのスケール感! 本作こそ劇場のスクリーンで観るべき映画であることは間違いない。

 

ロバート・コノリー 監督



ロバート・コノリー
監督・脚本
1967年生まれ、オーストラリア・シドニー出身。オーストラリアン・フィルム・テレビジョン・アンド・ラジオ・スクールにて映像制作を学ぶ。30年以上にわたる国際的なキャリアを持ち、オーストラリアを代表する映画監督の一人。監督作に、1975年、インドネシアが軍事侵攻した東ティモールで取材中に殺害された5人の豪ジャーナリストの真相を追った、オスカー・アイザック、アンソニー・ラパリア出演『Balibo』(09/東ティモールフェスタ2021にて上映)、サム・ワーシントン出演の大ヒット作『Paper Planes』(14)など。最近では、エリック・バナを主演に迎え、世界的ベストセラーとなったジェイン・ハーパーの同名原作(ハヤカワ文庫刊)を映画化した『渇きと偽り』(20)はオーストラリア映画史上、大ヒットを記録し、続編の『Force of Nature』でもメガホンをとる。他、国際エミー賞ノミネート作「The Slap」(11)や「Barracuda」(16)、マーク・ストロング主演「ディープ・ステート」(18)などの人気TVシリーズも多く手掛け、映画に限らず精力的に活動している。

 

ストーリー

若き海洋生物学者のアビー・ジャクソンは、母親ドラが脳卒中で倒れたとの知らせを受け、故郷である西オーストラリアの海辺の町ロングボート・ベイに帰ってくる。幸いにも症状は軽く退院したドラは、美しい海を一望できる高台の自宅に戻るが、言葉をまったく発しなくなっていた。そんなドラを世話するため、しばらく実家にとどまることにしたアビーの脳裏には、いつも母と一緒だった少女時代の記憶が蘇る……。

◆WESTERN BLUE GROPER
ウェスタン・ブルー・グローパー◆

西オーストラリア州のハウトマン・アブロルホス諸島からメルボルンまで、オーストラリア南部の水深5~65メートルの海域に生息するベラ科の一種でサンゴ礁に生息する最大の硬骨魚類。体長約1.7メートル、体重は約40キロにも達し、耳石とよばれる魚の耳の骨は平衡感覚をつかさどる組織で樹木の年輪のように輪紋(りんもん)が刻まれている。輪紋は1年に1本のため、これらを数えることで魚の年齢を推定することができ、グローパーの耳石に刻まれた輪紋を数えたところ、この種の魚は約70年も生きられることがわかっている。グローパーが人間を魅了するのは、その寿命の長さと、ダイバーと出会うととても人なつこく、好奇心旺盛なところといえるだろう。しかし、この行動が素潜りやスキューバダイビングで、銛や水中銃を用いて魚類を捕らえるスピアフィッシングの被害を受けやすくしていることも事実である。産まれた時は皆メスで体の色はグリーン。グローパーが属するベラ科は雌雄同体が一般的と言われ、全てではないが30~35歳頃に体の色がブルーとなりオスへ変化するケースがある。だいたい、オス1匹、メス1~2匹、幼魚数匹からなる小さな群れ、“ハーレム”の状態で生活することを好み、オスは常に群れの中で一番大きい。オスが群れからいなくなると(たとえば漁や捕食、老齢など)、群れの中のメスがオスへ変化し、いなくなったオスの代わりとなると言われている。オスがいなくなってから数時間以内に、群れの中で支配的なポジションにいたメスは男性的な振る舞いを始める。数日後、メスの体色はオスのものに変わり、約14日以内に性別は完全にオスに変わる。この変化の結果、他のメスはハーレムの社会的順位がひとつ上がり、一番下には新しいメスのための空席ができると言われている。

 



『ブルーバック あの海を見ていた』予告編


公式サイト

 

2023年12月29日(金) YEBISU GARDEN CINEMA、シネスイッチ銀座、アップリンク京都、ほか全国順次ロードショー

 

監督・脚本:ロバート・コノリー
原作・脚本協力:「ブルーバック」ティム・ウィントン 小竹由美子 訳 さ・え・ら書房刊
出演:ミア・ワシコウスカ、ラダ・ミッチェル、イルサ・フォグ、アリエル・ドノヒュー、リズ・アレクサンダー、エリック・バナ

2022年/オーストラリア/英語/スコープ/カラー/ 5.1ch 102 分 G

原題:BLUEBACK 日本語字幕:横井和子 後援:オーストラリア大使館
提供:キングレコード 配給:エスパース・サロウ

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