『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』映画の中のパーティと同じく、騒ぎながら観るのが監督たちの意図する正しい鑑賞方法
『TALK TO ME /トーク・トゥ・ミー』は、オーストラリアの双子のユーチューバー、ダニー・フィリッポウとマイケル・フィリッポウによるホラー映画だ。
サンダンス映画祭で上映されると配給権の争奪合戦が起き、最終的に権利を獲得したのはA24。
友人に短編の動画を見せられ、そこから一気に脚本を書き長編映画に仕上げたというフィリッポウ兄弟は、編集中にもA24を意識し、インタビューでこう答えている。
「実は撮影中、ジョークでよく『A24っぽいよね』というような話をしていたんです。編集中も何かを選ぶ際に『A24だったらこの映像を長めに残すよね』とか言って。だから実際にA24が僕たちにプレゼンをしてくれたとき、本当にクレイジーな気持ちになりました」
TALK TO ME とは、日本でいえばこっくりさんだ。
パーティでの余興の一つとして、手の形をしたオブジェと握手をし「TALK TO ME」と唱えると目の前に霊が現れる。
さらに「LET'S YOU IN」とその霊を体の中に入れる言葉で誘いだすと、異次元の霊体験ができ、90秒以内に手を離し、蝋燭を消せば、そのセッションは終了するというルール。
監督たちが普段作るYouTubeより、視覚的な見せ場は手が込んでいる。プロダクションノートでは、制作過程をこう解説している。
「映画と登場人物たちに真実味を持たせる上で、霊に取り憑かれる場面は非常に重要だったため、VFXを駆使することになった。最初の憑依シーンでは、手を握る微妙な動きや瞳孔の開きでVFXが助演的役割を果たした。2回目の憑依シーン――ダニエルがジェイドの犬にキスをするシーン――では、手で操演できる犬の頭を作って、俳優の動きに合わせてぴったりと接触させた。また、同じセットで大量の実写プレートを撮影して、その後、犬を作り直して配置し、リアルな映像を作り出した」
本作は、劇場のスクリーンで多くの観客と一緒に、または映画の中のパーティと同じく、騒ぎながら観るのが監督たちの意図する正しい鑑賞方法だろう。
フィリップボウ監督のYoutubeチャンネル「RackaRacka」
ダニー・フィリッポウ 監督インタビュー
――監督デビュー作にホラー映画を選んだのはなぜですか?
自分が惚れ込んだ最初のジャンルがホラーでした。子供の頃、母は僕らが観ていいもの、いけないものに関してとても厳しくて、ホラーは一切観せてもらえなかったんです。だから「観てはいけないものを観ている」という感じがして、子供の頃の僕らにとって、ホラーはとてもスリリングで、思い入れもあり、大好きでした。大人になってから、ダークなテーマを掘り下げるときに、ホラーはとても楽しい方法であることに気づきました。説教臭さや、メッセージ性が強く鼻につくような感じをなくせるからです。劇場での体験という意味でも、すごく楽しいと思います。ホラー映画はみんなで観てこそ楽しいし、リアクションをするのが楽しい。そういうジェットコースターみたいな要素があるホラーがすごく好きなんです。
――本作を作る上で参考にした映画、インスパイアされた映画は?
脚本執筆時にインスピレーションを受けたのは、「イン・トリートメント」(08〜21)でした。セラピストのもとへ色んな患者がカウンセリングを受けに来る話なんですが、ちょっとしたシーンでも強いインパクトがあるんすが、それは人間関係がとてもリアルで、感情移入して見られるから。今作でも登場人物たちを、なるべくリアルに描きたいと考えていたんです。作品のトーンでインスパイアされたのは『ぼくのエリ 200歳の少女』(08)、ホラーがキャラクターに根差しているという意味では『エクソシスト』(73)。劇中で起きることが、やりすぎではなく終始リアルに感じられるんです。それからメランコリックなバイブスがとても好きなロシア映画の『父、帰る』(03)、ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』(03)も。ユーモラスなシーンの次の瞬間にはシリアスなシーンが来たりと、違ったトーンを行き来するのがすごいんです。人生ってそういうものですよね。ずっと一つの感情、トーンではない。『殺人の追憶』では見事にそれが表現されていて、同じようなことを僕らもこの作品でやりたいと思いました。
――本作の恐怖描写でこだわったポイントは?
本作で描かれる恐怖描写は、とてもパーソナルなものなんです。映画に登場するライリーは、実際に僕らの近所に住んでいるライリーがモデルになっています。僕は、「ライリーを学校に送ってあげて」と彼の母親に頼まれるたびに、「もし事故を起こして彼を死なせてしまったらどうしよう」という不安に襲われていました。彼の死を僕の口から母親に告げなければならない。そういう不安や恐怖感がもともと自分の中にあって、それが映画でも表現されています。それから、うちの家系に心の病を抱えて自殺してしまった人がいるんですが、その病は遺伝的なものではないか、そして自分が暗い気持ちになるのはその遺伝が原因なんじゃないかと思ってしまうんです。だから、今作の脚本を書く作業は、僕にとってセラピー的な要素がありました。劇中のホラー描写はすべて、僕の個人的な“恐れ”に根差しているんです。
――北米配給がA24に決まったときはどう思われましたか?
そもそもサンダンス映画祭で選ばれたこと自体が奇跡だと思っています。特にジャンル映画は数も多いし、選ばれる可能性は0.5%だと言われていて、だからサンダンスから招待が来たときはすごくシュールな気分でした。映画祭にはキャストとクルーと全員で行って、プレミアの様子もYouTube用に撮影しました。色んな会社が配給権を争ってくれて、その中のひとつが、本当にクレイジーな話だけど、A24でした。実は撮影中、ジョークでよく「A24っぽいよね」というような話をしていたんです。編集中も何かを選ぶ際に「A24だったらこの映像を長めに残すよね」とか言って。だから実際にA24が僕たちにプレゼンをしてくれたとき、本当にクレイジーな気持ちになりました。彼らは一度ニューヨークに戻ったんだけど、他の配給会社からもオファーがあると知るや、またユタ(サンダンス)に戻って僕らに会いに来てくれて、どれだけこの映画をやりたいか、信じているか、好きかを話してくれました。そのとき泣いてしまったし、サンダンス映画祭での経験は、今までの人生で最もエモーショナルでした。文字通り僕らは、そこで夢を叶えたんです。最高の結果だったし、その様子を映像に残せたのもよかったです。
――撮影現場で霊的な現象は起きましたか?
例の“手”の文字を描いてくれたスタッフが、手を納品した直後に仕事を辞めてしまったんです。なぜ辞めてしまったのかは僕らも分からなくて、もしかしたら何かあったのかもしれませんね……(笑)。
――「手を握り『Talk to Me』と唱える」ことで降霊するというアイデアはどこから?
本作は、「孤独」や「人との繋がりを強要されること」について映画です。主人公のミアは、ジェイドたちの家族と無理やり関係を作ろうとし、一方で自分の家族との関係を拒絶している。人の持つ「悪徳」みたいなものを掘り下げてもいます。ミアの思考はヒビ割れていて、それは彼女の言動からも分かると思います。話しかけてほしい、孤独だから、誰でもいい、相手がほしい、そして肉体的に受け入れる――それが自分にとって良いか悪いかは関係なく。アルコール、ドラッグ、セックスといった何かに依存してしまうような状況です。一連の降霊は、ミアというキャラクターと、作品のテーマに深く結びついているのです。
また、脚本の第一稿から、“手”は何度も出てくるこの作品のモチーフ的な存在でした。「触れる」行為や「人との繋がり」とリンクしています。16歳のとき交通事故に遭い、目を怪我して病院に行ったんですが、とにかく身体の震えが止まらなくて。そんなとき、姉(妹?)が手を握ってくれたら震えが止まったんです。愛する人が触れてくれて、その力が、僕を辛い状況から救い出してくれました。この映画では、そういう人がいなかったらどうなるのかをホラーに落とし込みました。もし、孤独なのに周りに誰もいない状況が続いたら、何かと繋がりたい一心で、たとえ間違いだとわかっていてもすがりついてしまう。そしたらどうなってしまうか、というところから“手”のモチーフが生まれたんです。
――お二人はどのように役割分担したのでしょうか。衝突することはありましたか?
マイケルは脚本を一切書いていません。僕が書いたものを見せると、彼から「これは全然良くない」など、とても率直な感想が帰ってくる、そういう形で進めていきました。マイケルは正直に感想を言ってくれるので助けになりました。現場でも僕がメインで指示を出して、マイケルはキャストたちに話す前に僕に必ず確認をとってくれました。指示を出すのはどちらか一人のほうが良いと思っていたからです。ポスト・プロダクションには、特に音楽や音響デザインでマイケルもしっかりと関わっています。編集の段階では、僕、マイケル、編集者が仮編集したものがそれぞれあって、その中で一番良いものを選んでいきました。撮影現場での口論はまったくなく、なにか意見の相違があっても、メッセージやチャットでやり取りをして、スタッフやキャストには気づかれないように意識しました。ただ、編集室では兄弟喧嘩みたいなものはありました(笑)。むしろそこではしっかりと自分の意見を出していたんです。
――本作が長編初監督作品になりますが、映画というメディアの可能性をどう考えていますか? 若者には短い動画(YouTubeショートやTikTok)などが好まれる時代ですが、お二人にとって映画とはどういうものですか?
映画のポテンシャルは尽きないと思っています。今週も(取材は7月26日)『バービー』と『オッペンハイマー』の公開で盛り上がり、週末の興行成績も歴史的なものでした。「映画はいずれ死に絶える」と言う人もいるけど、こういう盛り上がりを見ていると、そうかな?と僕は思います。特にホラー映画は劇場でみんなでリアクションをしながら楽しむことができます。そういう社会的な経験や繋がりを、人々は求めていると思うんです。映画館に行きたい気持ちがなくなることはありません。だから個人的には、映画が死に絶えることはないと思います。僕自身がフィルムメイカーになりたいから、そうなってほしくて、言っているだけかもしれませんが。
ダニー・フィリッポウ/マイケル・フィリッポウ
Directed by Danny Philippou / Michael Philippou
監督
1992年11月13日生まれ、オーストラリア出身の双子。2013年に開設したYouTubeチャンネル「RackaRacka」は総再生数15億回以上、679万人の登録者数を誇る。2015年、同チャンネルは第6回ストリーミー賞ベスト・インターナショナルYouTubeチャンネルを受賞。2人は「Variety」誌の「Famechangers 2016」に選ばれ、2017年にはビジネス紙「オーストラリアン・ファイナンシャル・レヴュー」の「Cultural Power List」で5位にランクイン。オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞最優秀ウェブ番組賞ほか、数々の賞を受賞している。ジェニファー・ケント監督の『ババドック~暗闇の魔物~』(14)に撮影クルーとして参加。『Talk To Me』の続編『Talk 2 Me』でもメガホンをとるほか、世界的人気ゲーム『ストリートファイター』の実写化でも監督を務めることが決定している。
ストーリー
母を亡くした高校生のミアは、気晴らしに仲間とSNSで話題の「#90秒憑依チャレンジ」に参加してみる。
ミアたちはそのスリルと強烈な快感にのめり込み、チャレンジを繰り返していくが、仲間の1人にミアの母の霊が憑依し——。
『TALK TO ME』予告編
公式サイト
2023年12月22日(金) 丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー
Cast
ミア:ソフィー・ワイルド
ジェイド:アレクサンドラ・ジェンセン
ライリー:ジョー・バード
スー:ミランダ・オットー
Staff
監督・脚本 ダニー&マイケル・フィリッポウ
脚本 ダニー・フィリッポウ & ビル・ハインツマン
プロデュ―サー サマンサ・ジェニングズ&クリスティーナ・セイトン
撮影監督 アーロン・マクリスキー
プロダクション・デザイナー ベサニー・ライアン
衣装 アナ・ケイヒル
ヘアメイク レベッカ・ブラット
特殊メイク ポール・カッティ&ニック・ニコラウ / メイクアップ・エフェクト・グループ
編集 ジェフ・ラム
音響デザイン エマ・ボーティニョン
オリジナル音楽 コーネル・ウィルチェック
キャスティング ニッキー・バレット
原題:Talk to Me|95分|オーストラリア|カラー|シネスコ|5.1chデジタル|字幕翻訳:風間綾平|PG12
配給:ギャガ
© 2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia