『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』全く予測不能の展開が待ち受けている

『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』全く予測不能の展開が待ち受けている

2023-11-13 23:21:00

『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』は、次のキーワードにひっかかる人にお勧めの映画。

監督は、NETFLIX、ギレルモ・デル・トロ企画・製作総指揮の「ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋」(22)の1エピソードを手掛けるたアナ・リリ・アミリプール監督。

撮影は、アリ・アスター監督の『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』のポーランド出身の撮影監督パヴェウ・ポゴジェルスキ。

主役のモナ・リザは、イ・チャンドンの『バーニング 劇場版』の主役を演じたチョン・ジョンソ。

アミリプール監督とチョン・ジョンソはハウスミュージックが好きで映画の全編に流れている。

舞台はニューオリンズ。

そして、物語は、決して微笑まない少女モナ・リザが、12年もの間、精神病院に隔離されていたが、赤い満月の夜、突如“他人を操る”特殊能力に目覚めるところから始まる。

以上のキーワードに何かピンと来たら、映画館でいったいどこに向かうのかわからない、予測不能の展開に身を委ねてはいかがだろうか。

 

アナ・リリ・アミリプール 監督


©️Mayan Toledano

新たな“ヒーロー”を描きたいという想いから生まれた〈モナ・リザ〉

イラン系アメリカ人のアナ・リリ・アミリプール監督は、本作のアイディアが生まれた経緯に、自らの子供時代の経験が大きく影響していると語る。「アメリカで育った私は、よそ者であることを常に自覚していました。自分の本当の居場所はどこなのだろうと、いつも考えていて、そんな子供時代の私に力を与えてくれたのは、ファンタジー映画に登場するヒーローでした。彼らを見ると、自分の存在を理解してくれていると感じ、自由を求める気持ちがさらに強くなります。そんなヒーローを自分でも描きたいという欲求から、モナ・リザというパワフルで超自然的な能力を持つキャラクターが生まれました。彼女を描くことは、スーパーヒーローを創造するような感覚でしたね」

アミリプール監督は、モナ・リザにどんな能力を持たせようかと考えたとき、「どんな状況でも、他人の行動をコントロールすることができる」という力を思いついた。そうすれば、モナ・リザは恐怖を感じることなく、世界を自由に動きまわることができる。怪しい集団に近づいたとしても、間違って暗い路地裏に入ったとしても、いつでもどこでも想いのままに行動することができると考えたのだ。

共に過ごした1週間で絆を結んだ監督と主演女優

チョン・ジョンソの映画デビュー作『バーニング 劇場版』を観た時、彼女がモナ・リザだと直感したアミリプール監督は、ジョンソのエージェントに、オーディション用のテープの撮影を依頼した。モナ・リザというキャラクターは、終始むしゃむしゃと何かを食べているので、ジョンソが食事をするシーンを見たかったのだ。

その後、ジョンソはアミリプール監督に会うために、一人でしかも自費でロサンゼルスを訪れる。二人は映画を観たり、音楽を聴いたりしながら一週間を共に過ごした。アミリプール監督はそのときのことを、「音楽は、私たちが本当に繋がるきっかけを作ってくれました。彼女はハウスミュージックが好きで、私も彼女と同じくらい好きだったので、私たちはそのビートとリズムにのめり込んでいきました。上手く説明できないけれど、私たちが絆のような何かを感じるなかで、彼女がモナ・リザというキャラクターの探求心や切望するものを深く理解していると感じました。私は彼女の存在と直感を、完全に信頼するようになったのです」と振り返る。

監督の才能に惹かれて新境地に挑んだケイト・ハドソン

モナ・リザのパワーから恩恵を受けようとする、シングルマザーでポールダンサーのボニー・ベル役は、ケイト・ハドソンにオファーされた。スター街道を歩んできたハドソンにとって、チャレンジングな役柄だ。アミリプール監督はハドソンに依頼した理由について、「彼女のような俳優は得意な分野において、ある種のブランドを確立しています。その結果、他の役を演じる機会を与えられていません。しかし、私の経験上、そのなかでも何か変わったことに興味を持ち、『この役を演じたい』と思ってくれる人たちもいます。ケイト・ハドソンもそうでした」と説明する。

ハドソン本人は出演を決めた理由を、「アミリプール監督には、とてつもない才能があります。ボニー役なら貢献できると感じたから、この機会に彼女の作品に参加したいと思いました」と語る。

アミリプール監督はハドソンに、ボニーがどこから来て、どのようにチャーリーを産むことになったのかという経緯を伝え、二人はさらにボニーの人物像について何度も話し合いを重ねた。ハドソンは「私にとっての課題は、この役の深みを引き出すことでした。生きることだけで精一杯な女性の人間味を表現したいと思ったのです」と語る。

また、20代の頃に趣味でポールダンスを習っていたハドソンは、数回のレッスンで感覚が戻ったという。そのためダンスシーンを演じるのは待ち遠しかったが、本番直前に知らない人たちの前で踊ると考えると、初めての緊張が走った。そんなハドソンを助けてくれたのは、エキストラを務めた本物のダンサーたちだ。ハドソンは、「ガッツがあって、とても勇気がある人たちです。彼女たちには、すごく励まされました」と振り返る。

さらにハドソンは、ボニーの息子チャーリー役を演じたエヴァン・ウィッテンを、「とても優しい心の持ち主で、素晴らしい演技を披露しています。彼の人生と母親に対する怒りを、しっかり表現していました」と絶賛する。

重要な登場人物としてのニューオーリンズの街

ニューオーリンズの街は、本作の重要な登場人物の一人だ。かつて暮らしたことがあるアミリプール監督は、「すべてのアイディアは、ニューオーリンズという沼と、その上に浮かぶ“月”から生まれました。ニューオーリンズに降り立ったとき、何かピンと来ましたね。原始的で、クレイジーでカラフル、エレクトリックな場所です」と語る。

最も賑やかなバーボン・ストリートでも撮影したが、一帯を封鎖することはできなかった。たとえ撮影許可を得たとしても、酔っ払いの騒乱のなかで撮影することになる。アミリプール監督は、「私たちはどの方向に進めるかを考え、人々を避けるように撮影を行いました。でも、さすがに道行く人々も、松葉杖をつきながらバーボン・ストリートを歩く巡査役のクレイグ・ロビンソンには気づいていました。まさか映画を撮っているとは知らず、驚きながらも、スマートフォンで彼の姿を撮っていたのです」と振り返る。

広角レンズによるダークでミステリアスな歪んだ映像

ほとんどのシーンで、15ミリという非常に広角なレンズ(一部のシーンでは10ミリのレンズ)が使用された。アミリプール監督は、「ニューオーリンズの街に鬱蒼と生える巨大な恐竜のようなオークの木々や、2階部分に格子がある建築物を捉えるために、非常に広角なレンズが必要でした。レンズが広いということは、その映画のパレットが広いということです」と説明する。

アミリプール監督と撮影監督のパヴェウ・ポゴジェルスキは、テリー・ギリアム監督の『12モンキーズ』や『フィッシャー・キング』の映像を参考にしたという。どちらの映画も、精神的なパワーに焦点を当てた作品だ。広角レンズを使うと映像が少し歪むので、主人公が感じているのと同じような、ある種拡張された感覚で物事を感じ取ることができるという効果を生み出している。

すべての衣装とメイク、タトゥーにも深い意味のあるスタイリング

アミリプール監督のイメージするキャラクターを作り上げる過程で、衣装デザイナーのナタリー・オブライエンも大いに貢献した。特にボニー・ベルのファッションは、アミリプール監督のなかで具体的なアイテムが決まっていた。赤いショートパンツやメッシュのトップスなどがそれで、監督から示された写真を見たオブライエンが、さらにインパクトの強いスタイリングに仕立て上げた。また、ヘアスタイルやネイルデザインも綿密に構築され、ハドソンの演技プランも支えた。

さらに、すべてのタトゥーには、アミリプール監督が、なぜこれを選んだのかという具体的な理由があった。「俳優たちに、意味も理由もあるファッションを身につけてもらうことで、そのキャラクターが生まれます。その時点で初めて、そこに存在するとも言えるでしょう。私の作品では、視覚的にはっきりとキャラクターを表象する傾向があるけれど、今回はそれがより顕著でした」とアミリプール監督は説明する。

世界を斬新な目で見ることができる冒険に満ちたおとぎ話

本作を完成させたアミリプール監督は、次のように語る。「私はモナ・リザを、ある意味で社会から切り離した存在にしたかったのです。彼女は社会の人々が全く理解できなかった人物で、彼女自身も社会を全く理解できなかった。だから彼女は見放され、適切にカテゴライズされず、とても長い間隔離されていた。私の映画に登場する最大の悪役は、社会の制度です。それがどのように私たちの行動を左右し、最終的にはお互いへの視点や、どこに自分の居場所を見つけるかに影響を与えるかを描き出しています。私は本作で、混沌とした現代社会の問題に立ち向かう主人公を表現しようと試みました」

その結果、アミリプール監督自身にも変化が訪れたという。「生まれたばかりの赤ん坊のようなキャラクターであるモナ・リザを、この世界に放すことによって、新鮮な目で世界を見ることができました。冒険や生活に飢え、好奇心旺盛なモナ・リザのように、素朴で無邪気に現実と関わることで、混沌の中に美を見出すこともできました。息が詰まるような歪んだ社会における、個人的な自由が何を意味するのかを模索する、冒険に満ちたおとぎ話になったのではないでしょうか。モナ・リザが、今までのヒーロー像に飽きた人たちにとっての新しいヒーローになることを願っています」

アナ・リリ・アミリプール
監督・脚本

長編映画監督デビュー作『ザ・ヴァンパイア 〜残酷な牙を持つ少女〜』は、2014年のサンダンス映画祭でプレミア上映され、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催されたNew Directors/New Filmsシリーズのオープニング作品に選ばれる。さらに、ドーヴィル・アメリカ映画祭、シッチェス・カタロニア国際映画祭でも受賞し、ゴッサム・アワードでは、主流とは一線を画す個性的な創作ヴィジョンと冒険性のあるスタイルを持つ新人映画監督に与えられるビンガム・レイ賞に輝く。長編映画監督2作目の『マッドタウン』(出演:スキ・ウォーターハウス、ジェイソン・モモア、キアヌ・リーヴス、ジム・キャリー)は、2016年のヴェネチア国際映画祭でプレミア上映され審査員特別賞を受賞。ザ・ハリウッド・リポーターに「暴力と夢幻が、魔法のように混ざり合っている」と絶賛される。
TVシリーズでは、「レギオン」(18)、J・J・エイブラムスとスティーヴン・キングが製作総指揮を担当した「キャッスルロック」(18)の1エピソード、「トワイライト・ゾーン」(19~20)の2エピソード、ケイト・ブランシェットがナレーションを担当した「Homemade/ホームメイド」(20)、ギレルモ・デル・トロ企画・製作総指揮の「ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋」(22)の1エピソードを手掛ける。そのほか、2018年にはKENZOとカレン・Oがコラボレーションし、水原希子が出演したショートフィルム「YO! MY SAINT」の監督も務めている。

 

ストーリー

赤い月の夜、カノジョは突然覚醒した
名前は〈モナ・リザ〉、
だけど決して微笑まない──

少女の名前は、モナ・リザ。だけど、決して微笑まない。12年もの間、精神病院に隔離されていたが、赤い満月の夜、突如“他人を操る”特殊能力に目覚める。自由と冒険を求めて施設から逃げ出したモナ・リザが辿り着いたのは、サイケデリックな音楽が鳴り響く、刺激と快楽の街ニューオーリンズ。そこでワケありすぎる人生を送ってきた様々な人々と出会ったモナ・リザは、自らのパワーを発揮し始める。いったい彼女は何者なのか。まるで月に導かれるように、モナ・リザが切り開く新たな世界とは──?


『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』予告編


公式サイト

 

2023年11月17日(金) ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、アップリンク京都、ほか全国順次ロードショー

 

監督・脚本:アナ・リリ・アミリプール
出演:ケイト・ハドソン、チョン・ジョンソ、クレイグ・ロビンソン、エド・スクライン、エヴァン・ウィッテン

2022年/アメリカ/英語/106分/カラー/ビスタ/5.1ch/原題:Mona Lisa and the Blood Moon/字幕翻訳:高山舞子/G

提供:木下グループ  配給:キノフィルムズ
© Institution of Production, LLC

狂気を描いたお勧め映画