『花腐し』芥川賞を受賞した同名小説をベースに“ピンク映画へのレクイエム”を織り混ぜて大胆に脚色した濃密な愛の物語

『花腐し』芥川賞を受賞した同名小説をベースに“ピンク映画へのレクイエム”を織り混ぜて大胆に脚色した濃密な愛の物語

2023-11-09 10:30:00

春されば卯の花腐し我が越えし 妹が垣間は荒れにけるかも

本作のタイトル“花腐し”(はなくたし)とは、『万葉集』のこの歌に登場する五月雨を表す言葉。きれいに咲いた卯木(うつぎ)の花をも腐らせてしまう、じっとり降りしきる雨を表している。

本作は、芥川賞を受賞した松浦寿輝の同名小説の実写化である。ふたりの男とひとりの女が織りなす切なく哀しい愛の物語だ。

監督を務めるのは、第93回キネマ旬報ベスト・テンの1位となった『火口のふたり』の荒井晴彦監督。『Wの悲劇』から、最近では『あちらにいる鬼』や『福田村事件』まで脚本家として幅広く活躍してきた彼の、4作目の監督作品となる。本作では、原作にはなかった“ピンク映画へのレクイエム”という独自のモチーフを織り混ぜた、大胆な脚色にチャレンジしている。

その大胆さを原作者・松浦寿輝はこう語る。「小説『花腐し』が、荒井晴彦の手と眼と感性によって、原作をはるかに越えた荒々しいリリシズムが漲る映画『花腐し』へと転生する。ただただ、唖然とするほかはない。降りしきる雨のなか、廃屋めいたアパートへ帰ってきた男二人が、玄関前の路上でへたりこむシーンのデスペレートな徒労感に、やるせない共感の吐息を洩らしつつ、時代も国も個人も、これから黒々とした終焉のトンネルへ入ってゆくのだと密かに思う」。

主人公の栩谷には綾野剛、伊関には『火口のふたり』で主演を務めた柄本佑、ヒロイン祥子には、ゲスの極み乙女のドラマーとしても活躍する、『愛なのに』のさとうほなみ。

舞台は、タバコ、カラオケスナック、薄暗い路地、昭和初期の洋風建築……今では街角から姿を消しつつあるものばかりの、昭和の残り香に包まれた街。そこは、情熱や夢、その裏にある葛藤、剥き出しの欲望、迸る火花、そして退廃、昭和を象徴する時代のエートスに満ち満ちている。

昭和を知らないZ世代に、この映画はどう響くのだろうか? 特に濃厚な性描写については、快、不快を含め、意見の分かれるところかもしれない。ただいずれにしても、ピンク映画に対するオマージュが込められているのは間違いなく、それは監督の足跡であり、トレードマークであり、作家性と言えるものである。

「原作をはるかに越えた荒々しいリリシズム」を、ぜひ劇場で体感していただきたい。

 

荒井晴彦 監督



荒井晴彦
監督・脚本
1947年1月26日生まれ、東京都出身。
若松プロダクションの助監督を経て、1977年、日活ロマンポルノ『新宿乱れ街 いくまで待って』(曽根中生監督)で脚本家デビュー。キネマ旬報脚本賞を『Wの悲劇』(84/澤井信一郎監督)、『リボルバー』(88/藤田敏八監督)、『ヴァイブレータ』(2003/廣木隆一監督)、『大鹿村騒動記』(11/阪本順治監督)、『共喰い』(13/青山真治監督)で受賞。橋本忍に並んで最多受賞となる。その他、『赫い髪の女』(79/神代辰巳監督)、『神様のくれた赤ん坊』(79/前田陽一監督)、『遠雷』(81/根岸吉太郎監督)、『キャバレー日記』(82/根岸吉太郎監督)、『ダブルベッド』(83/藤田敏八監督)など。企画・共同脚本を手がけた『福田村事件』(森達也監督)が23年9月公開。97年に『身も心も』を初監督し、『この国の空』(15)、第93回キネマ旬報ベスト・テン第1位に輝いた『火口のふたり』(19)に続き、本作が監督4作目となる。

 

ストーリー

廃れつつあるピンク映画業界で生きる監督の栩谷は、もう5年も映画を撮れずにいた。梅雨のある日、栩谷は大家からアパート住人に対する立ち退き交渉を頼まれる。その男・伊関はかつて脚本家を目指していた。栩谷と伊関は会話を重ねるうちに、自分たちが過去に本気で愛した女が同じ女優・祥子であることに気づく。3人がしがみついてきた映画への夢が崩れはじめる中、それぞれの人生が交錯していく。



『花腐し』予告編


公式サイト

 

2023年11月10日(金) テアトル新宿、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー

 

Cast
綾野 剛 柄本 佑 さとうほなみ 
吉岡睦雄、川瀬陽太、MINAMO、Nia、マキタスポーツ、山崎ハコ、赤座美代子/奥田瑛二

Staff
監督:荒井晴彦
原作:松浦寿輝『花腐し』(講談社文庫)
脚本:荒井晴彦 中野太

2023年/日本/137分/ビスタサイズ/モノクロ・カラー/5.1ch/デジタル

製作:東映ビデオ、バップ、アークエンタテインメント 制作プロダクション:アークエンタテインメント 配給:東映ビデオ R18+
©2023「花腐し」製作委員会