『Threads of Blue』緻密に張り巡らされた伏線や謎が見る者を翻弄するサイコ・スリラーだ
『Threads of Blue 』は、筒井真理子、佐藤玲、野々村宏伸など実力派のキャストを演出する宗野賢一監督作品。
宗野監督の経歴が、本作のテイストを形作っているといえるだろう。カルフォニア州のチャップマン大学で映画を専攻、2015年に初監督した作品が、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭に入選。その後『科捜研の女』などのテレビドラマの演出を務めている。
練られたプロット、巧みな演出、観客を引き込んでいくエンターテインメント性は、本作の宣伝コピーが言い表している。「緻密に張り巡らされた伏線や謎が見る者を翻弄するサイコ・スリラーだ」。
映画の冒頭6分余りは以下から見ることができる。
監督 宗野賢一 × 主演 佐藤玲 インタビュー
――主演の佐藤さんへのオファーのきっかけを教えてください。
宗野:佐藤さんの作品はいろいろ見ていて、毎回、違う人のように見える。けれど「やっぱり佐藤さんだよな」と、カメレオン的なイメージを持っていました。今回の作品のキャスティングの際には、佐藤さんとお仕事をされた方々からのおすすめもあってオファーしました。
佐藤:「私で良いんですか?」という気持ちはもちろんありましたが、作品の展開が好きでしたし、作品が持つエンタメ性にひかれてお受けしました。
――作品を見てまず気になったのが更衣室でのシーンです。同僚たちはなぜ冷ややかだったのでしょうか?
宗野:そこは佐藤さんともしっかり話し合った点ですね。
佐藤:そうですね。同僚たちは浩介(野村宏伸)をお父さんとは思っていなくて。お父さんは事故で亡くなっているから、車で送り迎えをしてくれているのは「彼氏なの?」「結構な年上の人だね」と思っているという背景があります。
宗野:「記憶が入れ替わっても、働いているところは一緒なんですね?」と、佐藤さんからも質問を受けました。裏設定としてすべての記憶を新しくするのではなく、接続部分というか接着剤のような役割をする記憶は残して、本人が疑問に思わないようにしているという。本編では説明していないので、ご覧になった方が考えるきっかけになればという意図でした。
――ほかに前半で注目しておくべきポイントはありますか?
宗野:いろいろありますが、例えばカット割りですね。冒頭、晃(荒田陽向)とお父さんが遊んでいるカット割りと、ラストで縁と晃がお父さんに襲われているときのカット割りがまったく同じなんです。靴下が襖に挟まっているのは脚本の時点から考えていた仕掛けで、縁はそれを覚えていたので自分の靴下を挟むんです。そして「前にもいたそこに隠れているだろう」というパターンを裏切る展開にしています。
佐藤:現場では、そうした一つひとつを確認しながら撮り進めていましたよね。「靴下、片方借ります」「はーい!」とかのやり取りがあって。とはいえ、私自身、台本は読んでいましたが、ホラーテイストな撮り方やライティング、見えない余白のようなものが、最終的にこう繋がっていくんだと試写を観て初めて納得できました。
――老婆が絵を描くシーンが印象的ですが、彼女の記憶がうまく整理できません。
宗野:そこは、スタッフもみんな解釈が違うんですよね。僕が台本を書いたときの思いは、縁の中に入っていた記憶が罰として話さない老婆の中に閉じ込められていて。それを必死に思い出すかのように描き出している。そして、縁という器の中には、また別の記憶が入れられたけれど、最後に一番いい笑顔を見せるんですよね。人は何が幸せか感じる判断基準さえ曖昧なものという疑問を投げかけたつもりです。
佐藤:私は、その記憶はアロハシャツを着た縁なのか事故前の縁なのか、あるいは両方のものか今でも分からないです。ただなんとなく、アロハシャツを着た縁の記憶があるようには感じていないですね。
宗野:そういう考えもありますよね。実際にお婆さんが描いている絵の服は、事故前のもの。それを絵に描くということは客観視しているわけで、記憶は曖昧で入り乱れているものだと思うので、いろいろな選択肢を考えられるほうが面白いと思います。
――他にも、何度か観ることで気づくことがありそうですね。締めくくりに、ご覧になる方へメッセージをお願いします。
宗野:観る前と後とでは、何かしら考え方が変わっているのではないかと思います。日常の視点がちょっと変わるような映画になっていると思います。
佐藤:自分が信じていることが記憶の改ざんから導かれていることがあるそうです。それを人為的に起こしている内容だと思います。ご覧になったあとに、ご自身の頭の中の整理をしたり、人の主観について考えみていただきたいです。
宗野賢一
脚本・監督・編集
1985年生まれ。
兵庫県出身。高校卒業後、アメリカに渡り、カリフォルニア州のチャップマン大学で映画制作を専攻。 人種差別問題を扱った卒業制作映画『There But Not There』(2010)がミシシッピ州のCrossroad Film Festival、ロードアイランド州のIvy Film Festival、サウスダコタ州のBlack Hills Film Festivalで公式上映され、好評を博す。Black Hills Film Festivalでは2010年度の最優秀学生映画のノミネート作品6本に選出される。2015年に自主制作映画『数多の波に埋もれる声』で長編映画監督デビューし、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 2016 のファンタスティック・オフシアター・コンペティショ ン部門に入選、公式上映される。
2020年に全国劇場公開された『フェイクプラスティックプラネット』は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019のファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門や「ブエノスアイレス・ロホサングレ映画祭2019」に正式出品され、「マドリード国際映画祭2019」では最優秀外国語映画主演女優賞を山谷花純が受賞するという快挙を遂げた。『科捜研の女』、『遺留捜査』、『刑事7人』など人気ドラマでも監督を務めるなど活躍の場を広げている。
佐藤 玲
主演
1992年7⽉10⽇⽣まれ、東京都出⾝。
お茶の⽔⼥⼦⼤学附属⾼等学校、⽇本⼤学芸術学部演劇学科卒業。蜷川幸雄演出の舞台「⽇の浦姫物語」(12年)で娘役に抜擢されデビュー。主な出演映画は『沈黙‐サイレンス‐』(2016)、『架空OL⽇記』(2020)、『チェリまほ THE MOVIE』(2022)、『死刑にいたる病』(2022)など。
ストーリー
とある薄暗いマンションの一室で、燃える車の絵を荒々しく描く謎の白髪の老婆…。ちょうどその頃、山道での交通事故で両親と弟を失うという悪夢から目を覚ましたエン ( 佐藤玲) は、不吉な予感に襲われる。なぜなら数日後に予定している家族旅行の行き先は避暑地の山であったからだ。エンは父親に旅行をやめさせようと説得を試みるも、聞く耳を持たない。そんな中、同じマンションの住人の百合子さんはエンに、夢で見た交通事故はもうすでに起こった出来事である、と告げる。いったいどういう意味なのか? もしそれが本当だとしたら、今エンの目の前にいる家族はいったい誰なのか? そして不吉な絵を描く老婆の正体は……?
『Threads of Blue』予告編
公式サイト
2023年10月20日(金) 池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー
監督・脚本・編集:宗野賢⼀
エグゼクティブプロデューサー:⾦延宏明 前⽥和紀
プロデューサー:安達ツトム
アソシエイトプロデューサー:佐藤美智⼦ 内⽥愼吾
⾳楽:⼩野川浩幸 ⾜⽴知謙
撮影:⼩針亮⾺
照明:⼤堀治樹
美術:富⽥⼤輔
録⾳:松野泉
ヘアメイク:⻘⽊理恵
スタイリスト:加藤しょう⼦
助監督:⽟⽊雄介
製作担当:⻄川浩介 ⾼原正浩
配給:シネメディア
Ⓒ2022threads of blue 製作委員会