『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)』"現在"に執着し続け、”現在”を見つめ続けた映画監督
ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)』は、昨年の79回ベネチア国際映画祭の「ベネチア・クラシック・ドキュメンタリー部門で上映され話題となった作品。
ゴダールの人生と映画を1時間45分の作品にするという普通の映画監督なら考えもしないことをやってのけたのは、シリル・ルティ監督。俳優やアーティストをテーマにしたドキュメンタリー作品を発表しており、フランスのシャンソン歌手、バルバラやジャン=ピエール・メルヴィル監督 、俳優・歌手のモーリス・シュヴァリエなどのドキュメンタリーを手掛けている。
本作は『勝手にしやがれ』(60)から『ゴダールの映画史』(88-98)までの作品を引用し、ゴダールの本作での言葉の引用は、冒頭「長い間、私は配給システムと無縁だったので君たちの思っているところにもう私はいない」で始まり「たとえ希望が叶わなくても我々は希望を持ち続ける」で終わる。
ルティ監督は、ゴダール本人、俳優、関係者などの言葉を巧みに編集しまとめ上げた本作について「映画と人生は融合し、最後には映画についても語ることになるのです」と語る。
古くからゴダールを知るドミニク・パイーニ(アンスティチュ・フランセ 映画主任/映画批評)は、ゴダールについてこう語る。
「ゴダールは私に思考する、感じる方法を与えてくれた人でした。映画が物語を語る機械と成り果ててしまったことをゴダールは深く悲しんでいました。ゴダールはまず物語をしっかりと構築し、脚本に書きますが、それを実際に映画にすることで壊していきます。ゴダールの映画の物語だけを分かったように語ることは間違いで、そこに彼の"詩"を見ないといけません。そしてゴダールの偉大さはつねに"現在"に執着し続けたところ、”現在”を見つめ続けたことだと思います」
ジャン=リュック・ゴダール
映画監督
1930年12月3日、フランス、パリ生まれ。映画批評家として出発し、数本の短編を撮ったのち、『勝手にしやがれ』(60)で長編デビュー。「映画の革命」と呼ばれ、世界の映画界に衝撃を与える。60年代はアンナ・カリーナとの蜜月から生まれた『女は女である』
(61)、『女と男のいる舗道』(62)、『はなればなれに』(64)など、「カリーナ時代」と呼ばれる作品群を発表。65年にはヌーヴェル・ヴァーグの最高傑作と評される『気狂いピエロ』、67年に『中国女』を製作するが、五月革命以降は『ウイークエンド』(67)を最後に商業映画との決別を表明し、『ワン・プラス・ワン』(68)、『東風』(70)など作風はより前衛的で政治色の強いものになる。77年にスイス、レマン湖畔のロールに拠点を移し、『勝手に逃げろ/人生』(80)で商業映画に復帰。『パッション』(82)、『右側に気をつけろ』(87)をはじめとする劇映画のほかに実験的なビデオ作品も数多く製作した。その後は『ゴダールの映画史』(88-98)の製作に没頭。21世紀に入っても、『アワーミュージック』(04)、『ゴダール・ソシアリスム』(10)、3D映画『さらば、愛の言葉よ』(14)、『イメージの本』(18)などを発表するが、2022年9月13日にスイスにて91歳で逝去した。
シリル・ルティ 監督コメント
自分を信じる一人の芸術家の探求
ゴダールに対するモチベーションが湧き上がったのは、彼がすべてを承認しているためです。彼は他の映画作家を自由にさせ、果敢に挑戦させ、習慣に歯向かわせるのです。この映画を作ることは、他の誰よりも自分の芸術を本当に信じている一人の芸術家を探求することでもあります。これほどまでのアイデア、映画、アーカイブの海を航海するために、私は謙虚であり続けながら、彼を知る人々の声を伝えるという道をたどりました。この映画は、彼の映画についてというよりも、彼自身についてのものですが、それがゴダールのことになると、映画と人生は融合し、最後には映画についても語ることになるのです……。
シリル・ルティ
脚本・監督・編集
フランスの映像・音響専門の高等教育機関、ラ・フェミス(国立高等映像音響芸術学校)で映像編集を学び、卒業後は多数のドキュメンタリーや劇映画の編集に携わる。編集を手掛けた主な作品に『Mods』(02/セルジュ・ボゾン監督)、『椿姫ができるまで』(12/フィリップ・ベジア監督)、『1992年』(短編/16/アントニー・ドンク監督)など。2015年の『La nuit s’achève』は、第46回ヴィジョン・デュ・レール(ニヨン国際ドキュメンタリー映画祭)でRegard Neuf特別賞を受賞し、第21回Chéries-Chérisパリ国際LGBTQ+映画祭の審査員賞を受賞するなど、各国の映画祭で高く評価された。その後も俳優やアーティストをテーマにしたドキュメンタリー作品を発表しており、フランスのシャンソン歌手、バルバラやジャン=ピエール・メルヴィル監督、俳優・歌手のモーリス・シュヴァリエなどのドキュメンタリーを手掛けている。本作『ジャン=リュック・ゴダール 反逆のシネアスト映画作家』は、2022年の第79回ヴェネツィア国際映画祭ヴェネツィア・クラシック・ドキュメンタリー部門にて上映された。
ストーリー
1950年代末から60年代のフランス映画界で革新的な映画運動、「ヌーヴェル・ヴァーグ」を先導し、常に独自のスタイルを開拓・探究しながら最前線を駆け抜けたシネマの巨人にして鬼才、ジャン=リュック・ゴダール。自ら選択した安楽死だと伝えられた衝撃の死から1年。いま改めて振り返る20世紀映画界の伝説であり永遠の反逆児、ゴダールの人生とは?その伝説の陰に隠された、一人の「人間」としてのゴダールの知られざる素顔に迫る最新ドキュメンタリー。
登場作品
気狂いピエロ (c)1962 STUDIOCANAL SOCIETE NOUVELLE DE CINEMATOGRAPHIE DINO DE LAURENTIS CINEMATOGRAPHICA, S.P.A. (ROME). ALL RIGHTS RESERVED.
女と男のいる舗道 (c)1962.LES FILMS DE LA PLEIADE.Paris
勝手にしやがれ (c)1960 STUDIOCANAL ー Societe Nouvelle de Cinematographie ー ALL RIGHTS RESERVED.
中国女
彼女について私が知っている二、三の事柄
『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家』予告編
公式サイト
2023年9月22日(金) 新宿シネマカリテ、シネスイッチ銀座、ユーロスペース、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー
監督:シリル・ルティ
出演:マーシャ・メリル、ティエリー・ジュス、アラン・ベルガラ、マリナ・ヴラディ、ロマン・グーピル、ダヴィッド・ファルー、ジュリー・デルピー、ダニエル・コーン=ベンディット、ジェラール・マルタン、ナタリー・バイ、ハンナ・シグラ、ドミニク・パイーニ
2022年/フランス/フランス語/105分/カラー・モノクロ/1.78 : 1/5.1ch
原題:Godard seul le cinéma 英題:Godard Cinema
字幕:齋藤敦子 後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
提供:シネゴドー、ミモザフィルムズ 配給:ミモザフィルムズ
©10.7 productions/ARTE France/INA – 2022