『ファッション・リイマジン』2017年に始まったサステナブル・ファッションブランド立ち上げの冒険

『ファッション・リイマジン』2017年に始まったサステナブル・ファッションブランド立ち上げの冒険

2023-09-20 19:05:00

『ファッション・リイマジン』は、映画の役割は感情的なところからアクションに変えていくところだと言うベッキー・ハトナー監督が撮ったドキュメンタリーだ。

サステナブル、エシカルなどの言葉が様々なところで言われる現在だが、本作は2017年から始まる映画だ。17年4月、英国ファッション協議会とVOGUEは、その年の英国最優秀新人デザイナーに、Mother of Pearl(以下、MOP)のクリエイティブ・ディレクター、エイミー・パウニーを選んだ。MOPは、現代アーティスト、ダミアン・ハーストの妻だったマイア・ノーマンが2002年に設立、アートとのコラボなどで注目されたファッション・ブランドだ。

新人賞に輝いたエイミーは賞金の10万ポンド(当時のレートで1440万円)で、このMOPを、自身の生き方のルーツにつながるサステナブルなブランドへと変えるNo Frillsコレクションを立ち上げることを決意する。

当時サステナブルというコンセプトのファッション・ブランドは「ピープルツリー」と「キャサリン・ハムネット」だけだったというエイミー・バウニー。やるからには徹底的にというエイミーは、「オーガニックで追跡可能な原材料」という命題を掲げる。さらに「最小限の水と化学物質」「社会的に責任を持ち動物福祉に努める」「最小限の地域で生産、低い炭素排出量」とサステナブルブランドのコンセプトを決めるのだった。

10万ポンドの賞金を旅の原資として、イギリスから地球の裏側のウルグアイに羊毛を探す旅に出るのはまさに冒険だ。

2017年から6年経った現在のMOPの公式サイトはこちらで見ることができる。

生産地、製造過程に拘ったMOPの服は395ポンド(72,200円)という価格がついている。ただエイミー・バウニーのMOPは、洋服を売るだけでなく、「意識改革」をMOPに興味を持った人に薦める。それは、レンタルだったり、古着の購入だったり、リサイクルだったり、洋服の作り手と買い手の意識を変えるだけでサステナブルなサイクルを自分の手で生み出すことができることを教えてくれる。映画を観た後、ハトナー監督が言うファッションに関して「アクションに変えていく」を実践したくなるだろう。

 

ベッキー・ハトナー 監督インタビュー



サステナブルに取り組むコンサルティング会社fabricによるインタビュー

ベッキー・ハトナーです。皆さん、今日はお集まりいただき本当にありがとうございます。
カナダ出身ですが今はイギリスの南西の小さな街に住んでいます。
元々のキャリアは編集長としてファッション業界のプロモーションや、PRビデオの制作等をしていました。
この映画の制作をきっかけに今後のキャリアはサステナビリティに関するドキュメンタリー制作に注力していきたいと思っています。

――本作品を撮るきっかけ、エイミーとの出会いは?

2017年に撮り始めました。当時は元々はDUCK Productionに勤めていて、ブランドのプロモーションとして、キャンペーンやイベントの映像制作などを手がけていました。

その仕事の一環としてVOUGEのデザインファッションファンドを撮影していた時に、その年の受賞者であるエイミーと出会いました。その時は映画にする意図はなかったのですが。

たまたまその後にエイミーと食事をしたとき、優勝賞金でサステナビリティのラインを作りたいという話しを聞きました。

もともと私(ベッキー)自身も個人的ににサステナビリティに興味関心をもち始めていて、色々なサステナブルライフスタイルに貢献するような活動をし始めていたので、今後どうやって自分のスキルやキャリアに繋げていくか考えていたところでした。

なのでエイミーと出会った時に点と点が結ばれるような感覚で是非一緒にこのプロジェクトをやりましょうとなり映画制作が始まりました。


――エイミーはどこに惹かれたのか?

実際にこのようなかたちでドキュメンタリーをゼロから作るのはリスクも大きかったですが、エイミーが持っている何かに向かって突き進む精神にインスピレーションを受け、信じるしかないと思いました。

エイミーは育った環境(オフグリッドの生活)から、頑張ってロンドンに来てファッション業界に入り込んだのです。

彼女の実力と根性でファッション業界に入り、20代後半でMOPのクリエイティブディレクターとして活躍していたので、その努力と根性があるということは必ずこの大きなプロジェクトを成功させるという確信にも繋がり、そんなエイミーに共感し彼女の旅に引っ張られていったという背景がありました。

――No Frillsコレクション立上げ前後のファッション業界の変化

2017年ごろは、サステナビリティはまだニッチなトピックでサステナビリティのサの字もなかったので、映画についてピッチするときも理解を得るのに苦労しました。

No Frillsローンチの2018年ごろからは爆発的にサステナビリティへの意識が高まって、良いこととしては、ほとんどのメジャーなファッションブランドもサステナビリティの取り組みを始めたり、サステナビリティのコレクションを作ろうというような動きがありました。

ですがその半面、グリーンウォッシュ現象が頻繫になっているというのも聴くようになりました。消費者としてどれが正しいのか見極めるのが難しい状況です。食の業界だと法律の基準や、認可システムがありますが、ファッション業界は規定がまだないので消費者も判断するのが難しいのです。

ですが意識が高まることによって新しい業界だったりビジネスチャンスが出てきたので、セカンドハンド業界が活発になったり、循環型の服のマーケットも段々広がってきています。

最近読んだ統計で、セカンドハンドの業界がファストファッションより市場を拡大しているので期待をもてる業界なのかなと思っています。
若い世代からの反応が良く、服の交換等も増えていたり、アプリ(UKのデポップというアプリ)でヴィンテージの服を交換できるサービス等が出てきたりしています。


――イギリスでの映画公開の反響は?

リアクション事態は期待以上のものでした。撮影編集に5年くらいかかったので不安で仕方なかったですが。
イギリスでは合計50館くらいの規模で上映され、実際に劇場に出向いて直にお客さんの反応を見れた時は凄く嬉しかったです。
一番の映画の役割は、感情的な部分からアクションに変えていくところだと思っていて、実際に観客の反応から変化を感じることができました。

具体的には、今住んでる小さな街の映画館で上映された直後に、友人の結婚式に参列したときのことです。映画を見た3人の友だちが何を着るかについて考えてくれたことがあった。

1人はレンタル、もう一人は普段は安価なトレンド服をアプリなどで買っていたけど、持っているものでまかなったようです。3人目はお母さんからヴィンテージコートを借りていました。

映画が行動に移すきっかけになったことが嬉しいです。


――サステナブルな社会をつくるための映画制作の役割とは?

映画は環境問題に大きな役割があると思っています。ドキュメンタリーでもただ問題を映し出し、悲惨な現実を見せるだけでなく、実際にどうやって変えていくことができるのか、どうやってアクションを起こせるかという希望を持たせないと変化は起こらないと思っています。

ドキュメンタリーではない映画でも、プラスチックボトルの代わりにマイボトルやグラスを使用するなどして意識を変えることができるのではと思っています。

――監督の次の企画は?

いくつか新しいプロジェクトに取り組んでいます。全て環境に関するドキュメンタリーです。一番シェアしたいのは農業とサステナビリティのプロジェクトです。イギリスのど真ん中にある一番最初のオーガニック(無農薬)の農家と、彼らの戦いについて撮影しています。

――映画制作、サステナビリティ、人生についてのポリシー(信念)は?

信念で一番大事にしていることは、やさしさやコンパッション(思いやり)を持っている人に影響、インスピレーションを受けるので、自分も同じように思いやりを持って、人や自然との繋がりを忘れたくない、大切にしたいという想いから活動しています。

今の社会の課題の根底は、人と人、人ともの、人と自然などが離れてしまっている事だと感じるので、できるだけ自分も人間性(Humanity)と繋がっていることを大切にしたいと思っています。完璧主義ではなくて毎日の積み重ねなので永遠の課題として歩んでいます。

――映画制作の中でサステナブルを意識できることは?

撮影事態は大きなフットプリントがあると思うが、一番最初にこの映画の制作を始めた時に行ったのはオフィスで再エネルギーを取り入れたという事です。また、シングルユーズプラスチックを失くす、個包装のものを避ける、など身近なところではじめられることをオフィス内で共有しました。

飛行の二酸化炭素の排出は大きいので、撮影舞台はチームからは1~2名に絞りました。大きな撮影になる場合は、地元のクルーを雇用し、その地域の経済にも貢献しました。

排出された二酸化炭素は戻せないので、その分信頼できるカーボンオフセットの団体に寄付をしました。UVライトを利用してバクテリアを殺すことのできるウォーターボトルを持って行ったのでペットボトルは買わずにすみました。

後はスナックを持参したり、そういったちょっとしたことでフットプリントを減らすようにしました。

――ドキュメンタリーで見た通り最初にエイミーはビジネスモデルを変えていましたが、他にもそういった変化があったか?

映画でもあったように、MOPはコレクションを4シーズンから2シーズンに減らしました。これはとても大きなビジネスモデルの変化です。
どの業界でも一番の課題は大量生産していること。ファッション業界のこのビジネスモデルチェンジはエイミーが初めてだと思います。

アップサイクルや素材をサステナブルにするという取り組みは他のブランドでもみられますが、生産量を減らすという一番大きな問題に関してはまだ課題があります。

ヨーロッパやアメリカでは大量生産を減らす法律も出てくる可能性があります。それに伴い消費者の意識も変わるかもしれないという希望はあります。
(日本ではまだ法律改正までには至っていないと思う by fabric)

そもそも生産量を減らすというのは会社としてのボトムラインに確実に影響します。でもこのボトムラインを変えずに消費を減らすために、循環型思考を使うことによって新たなビジネスチャンスを作れる可能性があります。例えばレンタルモデル、アップサイクル、修繕サービスなど。今までの新しいものを売る、買うというビジネスモデルから新しい収入源を考えられる改革の時にいるのだと思います。


ベッキー・ハトナー
BECKY HUTNER
監督・プロデューサー
カナダ、トロント出身。ダック・プロダクションズでファッションやカルチャーの短編映画の制作に携わり、ナショナル・ギャラリーのためにアートにおけるジェンダー・ ギャップをテーマにしたシリーズ「Painting Her Story(原題)」などを制作。英国政府観光庁によるイギリスのクリエイティビティを讃えるキャンペーンのほか、 ロンドン・ファッション・ウィークの公式取材を17シーズンにわたって担当している。また、アメリカ脚本家協会の最優秀ドキュメンタリー脚本賞にノミネートさ れた「Being Canadian(原題)」(15)、バンクーバー国際映画祭などで賞を受賞している「Revolution(原題)」(12)といったドキュメンタリー映画の編集に もクレジットされている。長編映画デビュー作となる本作は、トライベッカ映画祭に正式出品され、バンクーバー国際映画祭では最もポピュラーな環境映画賞 を受賞したほか、グアム国際映画祭においても最優秀ドキュメンタリー映画賞、ベスト・フェスティバル賞などを受賞。

 

ストーリー

2017年4月、英国ファッション協議会とVOGUEによって、その年の英国最優秀新人デザイナーに選ばれたエイミー・パウニーは、賞金の10万ポンドで《Mother of Pearl》をサステナブルなブランドへと変えることを決意する。当時ファッション業界は大量消費の真っ只中で、サステナビリティはニッチなトピックだった。

原材料から製造過程まで、すべてにおいてサステナブルなコレクションは、「No Frills(飾りは要らない)」と名づけられる。コレクションの発表は、2018年9月のロンドン・ファッション・ウィーク。準備期間はわずか18ヶ月!

理想の原材料を求めて、ヨーロッパの裏側、ウルグアイ行き着いたエイミーと商品担当のクロエ。そこで、理想的な環境の羊毛業者に出会う。責任者のペドロの人柄と誠実さにすっかり魅了された二人は、ペドロの羊毛を扱う紡績工場探しに奔走する!

やっとペルーの会社が見つかり、デザインを始めるエイミー。しかし、発表まであと3ヶ月のところで、ペルーの会社が降りるという連絡が入る。クロエは必死に引き留めるが……果たして、無事にコレクションは発表できるのか?


『ファッション・リイマジン』予告編


公式サイト


2023年9月22日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺アップリンク京都、ほか全国順次ロードショー

 

出演:エイミー・パウニー、クロエ・マークス、ペドロ・オテギ
提供:サステナブル・フィルムズ、BFI ダック・ソサエティ・ファンド
製作:ダック・プロダクションズ
共同製作:セダー・クリーク・プロダクションズ、メットフィルム
監督・プロデューサー:ベッキー・ハトナー
編集:サム・ロジャース、ベッキー・ハトナー
音楽:フィル・フランス
撮影:ダニエル・ゴッツ
プロデューサー:リンジー・ロウ、アンドレア・ヴァン・ボーレン

2022 年/イギリス/英語/カラー/ヴィスタサイズ/ 1 時間40 分/日本語字幕:古田由紀子 原題:Fashion Reimagined

© 2022 Fashion Reimagined Ltd

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