『熊は、いない』今まで通りの映画制作には、撮影許可が必要ですから、仕方なく家の中や車の中で撮るのです(パナヒ監督)

『熊は、いない』今まで通りの映画制作には、撮影許可が必要ですから、仕方なく家の中や車の中で撮るのです(パナヒ監督)

2023-09-13 14:48:00

『熊は、いない』の熊とは何の例えなのだろうか。

映画の中では、村の外にいる“熊=脅威”という意味で使われている地元の迷信だが、日本公開の予告編の最後に「本作完成後、パナヒは逮捕された」と大きく映されるのを見ると、熊は権力なのか、それとも体型から考えるとパナヒ自身のことなのか。

『熊は、いない』予告編

パナヒは、 2010 年 12 月、6 年の懲役刑と、20 年間の映画 制作を禁止宣告されるわけだが、その後も映画を撮り続けている。
予告編では逮捕されたと報じた配給会社から9月14日に編集部にメールが届いた。

「逮捕され、取材はおろか、メディアに出ること自体も政府から禁じられているパナヒ監督からのメッセージは、世界中が注目するであろう超貴重な映像です!」

映画は社会の鏡と言われるが、パナヒ監督の映画は、鏡というよりもスクリーンが透明ガラスになって、イラン社会を素通しで見せてくれる。

パナヒ監督の日本での通訳を務めてきた、ショーレ・ゴルパリアンさんはプレスシートにこう記している。

── 彼の最近の映画は、明らかに彼が置かれている現状が影響しているのです。彼は言いました。
「 今、カメラを構えると、一番シンプルだが見逃しがちなシーンを作ろうとするのです。 今まで通りの映画制作には、撮影許可が必要ですから、仕方なく家の中や車の中で撮るのです。この方法で映画を作るしかないんです」と。
彼は彼なりの創作の自由を手に入れ、自分の道を歩み続けています。特筆すべきは、パナヒが沈黙を拒む世界の映画作家の一人であるということです。今後とも、この社会に対する彼自身のビジョンが、彼の映画の主題となることでしょう── 。

 

ジャファル・パナヒ 監督コメント


イラン映画の歴史には検閲を押し返し、

この芸術の存続を確保するために奮闘してきた独立系の監督たちの存在が常にありました。

この道を歩む中で、映画製作を禁止される者や亡命を余儀なくされる者、孤立無援に陥る者もいました。

それでも、再び創造するという希望が、存在理由なのです。

いつ、どこで、どんな状況であっても、インディペンデントの映画監督は創作しているか、

考えているかのどちらかなのです。

ジャファル・パナヒ (ニューヨーク映画祭での上映時メッセージより)

ジャファル・パナヒ
監督・脚本
1960年 7 月 11 日生まれ。イラン・ミアネ出身の映画監督、脚本家、映画編集者。
高校卒業後2 年間の兵役を経て首都テヘランにある国立メディア大学で映画の製作や演出を学ぶ。その後、 TV 番組などで短編映画を制作した後、 1994 年にかねてよりファンだったアッバス・キアロスタミに連絡を入れ、その 2 日後に『オリーブの林をぬけて』の助監督という地位を得る。翌年、キアロスタミが脚本を務めた『白い風船』(95)で長編映画監督デビュー。第 48 回カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)を受賞する。同作は、カンヌで初めて受賞したイラン映画である。その後も、『鏡』(97)で第 50 回ロカルノ国際映画祭金豹賞、『チャドルと生きる』(00)で第 57 回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞、『オフサイド・ガールズ』(06)で第 56 回ベルリン国際映画祭銀熊賞ほか、数々の賞を獲得している。

イランで過ごす人々の生活に目を向けた人道的な視点が作品の特徴で、子どもや貧困層、女性の苦難に焦点を当てた作風で知られている。イランの女性に対する厳しい社会的抑圧をリアルに描いた『チャドルと生きる』、サッカーのイラン代表を応援したい女性たちがスタジアムへ潜り込もうと奮闘する(※イランでは女性がスタジアムでスポーツ観戦することが禁止されている)『オフサイド・ ガールズ』の2作でイラン政府と数年間対立。 2010 年 3 月に妻、娘、15人の友人と共に逮捕され、後にイラン政府に対するプロパガンダで起訴される。このイラン国内でのパナヒに対する刑罰に、世界中の映画製作者、映画団体、人権団体が猛抗議。しかし 2010 年12月、6年の懲役刑と、20 年間の映画制作を禁止宣告される。控訴の結果を待つ間に撮った、ビデオ日記の形で綴られるドキュメンタリー長編映画『これは映画ではない』(11)は、撮影データを入れた USB をケーキの中に忍ばせイランから運び出し、2011 年の第 64 回カンヌ国際映画祭でプレミア上映され絶賛された。引き続き、政府に映画制作を禁止されているはずだが、その後も精力的に撮り続けており、2013 年 2 月、第 63 回ベルリン国際映画 祭のコンペティション部門で盟友カンボジヤ・パルトヴィと共同監督で撮った『閉ざされたカーテン』(13)が上映され、銀熊(脚本)賞を受賞した。その他、『人生タクシー』(15)は、 2015 年 2 月に開催された第 65 回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門でプレミア上映され、映画祭の最優秀作品に贈られる金熊賞を受賞。『ある女優の不在』(18)は、第 71 回カンヌ国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞。母国イランでは上映できないが、海外の映画評論家や批評家らからは熱い支持を受け続けている。

 

ストーリー

国境付近にある小さな村からリモートで助監督レザに指示を出すパナヒ監督。
偽造パスポートを使って国外逃亡しようとしている男女の姿を
ドキュメンタリードラマ映画として撮影していたのだ。

さらに滞在先の村では、
古いしきたりにより愛し合うことが許されない恋人たちのトラブルに
監督自身が巻き込まれていく。
2組の愛し合う男女が迎える、想像を絶する運命とは......。

パナヒの目を通してイランの現状が浮き彫りになっていく。


『熊は、いない』本編映像 村のしきたり

 

公式サイト

2023年9月15日(金) 新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー

 

Cast
ジャファル・パナヒ ナセル・ハシェミ ヴァヒド・モバセリ
バクティアール・パンジェイ ミナ・カヴァニ ナルジェス・デララム レザ・ヘイダリ ジャワド・シヤヒ ユセフ・ソレイマニ アミル・ダワリ ダリヤ・アレイ
ラヒム・アッバシ シナン・ユスフオグル エーサン・アーマド・カンプール
イマン・バズヤール


Staff
監督・脚本・製作:ジャファル・パナヒ
撮影:アミン・ジャファリ
編集:アミル・エトミナーン
サウンドデザイン:モハマド・レザ・デルパック

2022/イラン/原題: خرس نیست/英題:NO BEARS/ペルシア語・アゼリー語・トルコ語/107分/カラー/ビスタ/5.1ch

日本語字幕:大西公子/字幕監修:ショーレ・ゴルパリアン
配給:アンプラグド

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