『鯨のレストラン』クジラは、地球上最大のジビエでどう美味しくいただくべきなのかを問いかける

『鯨のレストラン』クジラは、地球上最大のジビエでどう美味しくいただくべきなのかを問いかける

2023-09-01 11:07:00

『鯨のレストラン』は、哺乳類のクジラを殺して食べるなど可哀想だ。特に出産期のクジラを捕獲するのは許される行為ではない。とクジラを地上の哺乳類と同視したり、また擬人化して感情的に判断してしまう人たちこそ本作を観ると捕鯨の是非を考えるきっかけになるだろう。

捕鯨の是非を考えるには、前提として、科学的なデータ、生態のデータをベースに議論すべきだろう。映画の中では、捕鯨反対を主張し、日本が2019年に脱退した国際捕鯨委員会(IWC)は、委員会の中に設けられた「科学委員会」の提言に耳を傾けないという事実が紹介される。

八木監督によると「今作では、捕鯨基地での鯨の解体の様子や鯨料理の店が登場する。これまで、日本をターゲットにする反捕鯨団体の活動家を恐れ、撮影に協力してもらえなかったが、前作『ビハインド・ザ・コーヴ:捕鯨問題の謎に迫る』の成功で撮影許可が下りた。これまで神経質だった日本の捕鯨基地で鯨の解体と鯨のレストランを撮影した映画が初めて誕生となる」という。

『鯨のレストラン』では、元ワシントン条約事務局長ユージン・ラポワント氏、第二の国際捕鯨委員会(IWC)と言われる北大西洋海産哺乳動物委員会(NAMMCO)のジェネビエーヴ・デスポーテス氏、東京海洋大学名誉教授加藤秀弘氏などの専門家に取材し、神田のクジラ料理専門店「一乃谷」の大将谷光男氏、その客として映画監督の樋口真嗣氏などが登場し、鯨の生態、捕鯨、そして料理について語る。

ベジタリアンやヴィーガンの人に対しては、八木景子監督の『鯨のレストラン』というタイトルは、若干挑発的に感じるだろう。
八木監督はタイトルに込めた思いを「あなたは、どう反論できるだろうか。鯨を食べるということはSDGsだということを」と語る。

クジラは、地球上最大のジビエでどう美味しくいただくべきなのかを問いかける映画が『鯨のレストラン』だ。

八木景子 監督コメント


2016年5月カンヌ映画祭にてポール・ワトソンと面会


本作完成までの長い道のり

定年まで働こうと思っていたハリウッドメジャー映画であるパラマントピクチャーズが日本支社を撤退するモードとなり2011年3月に退社、海外旅行から日本へ帰ってきた当日が、東日本大震災が起こった[2011年3月11日]であった。帰国後、転職どころではない状況になり被害が大きく余震が続く石巻市にそのまま、ボランティアへと向かった。しかし、現地では想像を超えた被害の大きさに自分の無力さを感じ、「ボランティアは一時的なもの、何か骨太の産業で復興はできないのか」を考えながらボランティア活動をしていた。

その当時は石巻市が日本最大の捕鯨基地とは、知らなかった。

最初の作品となった2015年に発表した「Behind THE COVE」の製作は、2010年に米国アカデミー賞を受賞した「THE COVE」の反論映画として、世界中へ広まったが、八木自身、製作当初、「THE COVE」に関心が全くなかった。元々、2014年3月、日本が国際裁判でオーストラリアから「日本の調査捕鯨が商業捕鯨の隠れ蓑」として訴えられ、「日本が敗訴」との報道から、何か不思議な勘が働き、突然、多くの偶然が降り注いでできた作品なのである。八木自身「まるで、先人たちが私の体を使って一斉に降りてきるのではないか」としか考えられないような一つ一つが千載一遇のような奇跡的な出来事が次から次と起こり完成。不思議な製作プロセスと不思議な異次元体験をすることとなる。

映画が完成したものの、捕鯨問題の映画をどこの会社も取り扱ってくれる仲介会社がなかったため、自ら海外へ売りに行くこととなった。しかし、こうした壁がかえって功を奏し、日本政府が長年にわたり国際テロリストとして国際指名手配しているシーシェパードの創立者ポール・ワトソンに偶然にもマーケットに参加した八木がカンヌ映画祭で対面することとなった。

多くの偶然の1つに2014年、和歌山県太地町の撮影時に、宮城県石巻市が「日本最大の捕鯨基地」と知り驚愕したことである。この事実に触れクジラの産業のことをより広く伝えなければと強く決心した。

他方、捕鯨問題に関わってから、反捕鯨活動家だけでない、むしろ反捕鯨活動家の問題よりも、さらに大きい課題といえる、国内のクジラ産業の長年にわたる凝り固まった民間感覚とかけ離れた慣習、思想と仕組みを目の当たりにし、さらに違う壁にぶつかり理解に苦しむ状況に悩まされ続けた。何度も心を折られ、めげそうになり、クジラ問題から離れことを考えた時期もあった。「他にやる人がいない理由」が今更ながらに理解できた。それが故、これまでの奇跡的な偶然に目を向け縄文時代からのクジラの食文化を目の前で消えていくのを看過できず、一念発起し、「先人と共にクジラ産業を守るべき使命」として苦難を乗り越え『鯨のレストラン』を完成させた。

【クジラを巡る経緯】

1972年、アメリカ主導で「海洋哺乳類保護法」ができて以来、半世紀以上が経過、外国による圧力で、日本が縄文時代から縁起ものの食材として大切にしてきた代表的な食文化は全盛期から1%までに落ち込んでいる。

最も影響力を及ぼしたのは、[愛護団体による脅し]であった。
不買運動など恐れ、誰もが避けてきた問題である。

【初の反論を世界に発信において】

2015年、八木景子監督による「Behind THE COVE」が世界中のメディアで報じられた。
反捕鯨活動家が世界中で反応し、国際集団ハッカーから映画館のサイトが落とされた。

しかし、八木は脅しに怯まず上映拡散を続けた。反捕鯨活動家にとって追い討ちをかけたのは、NETFLIXからの世界配信であった。「Behind THE COVE」の世界配信が始まると八木フィルムへ世界各地から「シーシェパードがクジラを獲る残虐な日本をやっつけるヒーローだと思っていたが逆だった」「アメージング。シーシェパードへ寄付をやめることにした」「日本人の声が初めて聞けてよかった」と、多くの応援メールが届いた。

NETFLIXの世界配信としては、「アニメと違い、日本のドキュメンタリー映画としては、初めての快挙だ」、とクジラの世界だけでなく映画業界でも騒然となっていた。

さらには、アメリカ(ニューヨーク、ロサンジェルス)での劇場上映も果たした。このことにより、米国のアカデミー賞の選考対象とさせ、日本の捕鯨を残虐に描きアカデミー賞を受賞した「コーヴ」を選んだ審査員に、反論映画を見せることにも成功した。

半世紀におよび、誰ひとりが手を出さなかった「政治的クジラ問題」に八木景子監督が作品をもって、あらゆる面から、切り込んでいった。大きな組織規模のプロジェクトを女性1人がやり遂げたことにより反捕鯨団体も南氷洋での攻撃性とは一転、手を出せないでいた。

新作『鯨のレストラン』においては、日本が長年蓄積され一般的に知られていない「クジラの研究データ」、および、今では輸出できなくなってしまった「クジラ食の魅力」について映像を通して世界へ伝え、理解を求めことを目標としている。

クジラは先人たちが「商売繁盛しますように」「こどもが大きくなりますように」と祀られてきた食材。皮肉にもGDPとクジラの生産数が比例している。

「日本は終わった」と昨今、経済状況から新聞や本、ネットで頻繁に見聞するようになった。

クジラの問題は、その最たるものであり、氷山の一角である。いずれ再び、日本のクジラを輸出できるような日本の外交力の復活により「日本は、まだ終わっていない」「日本は未来永劫続く」と日本全体が元気になってほしいと願いを込め『鯨のレストラン』を製作した。

 

八木景子
監督
東京生まれ。ハリウッド・メジャー映画会社の日本支社勤務後、「合同会社八木フィルム」を設立。
長年恐れられていた捕鯨の問題を扱った映画『ビハインド・ザ・コーヴ』は自費を投じ撮影/編集/監督をした。2015年に世界8大映画祭の一つであるモントリオール世界映画祭に選出された他、多くの映画祭で様々な賞を受賞。ワシントンポストをはじめニューヨークタイムズ、ロサンゼルスタイムズなど海外の数多くの大手メディアに取り上げられた。しかし、配給会社がつかず、さらに自ら借金と寄付を募り配給まで行った。日本のドキュメンタリー映画としては珍しく世界最大のユーザー数を持つNETFLIXから世界へ配信され大きな反響を呼んだ。

 

ストーリー

食糧不足は本当なのか?
昆虫食か? 人工肉か? 野生肉か?
人間はどこへ向かっていくのか?

全盛期の日本での消費量と比べて現在では1%までに衰退したクジラ産業。
そんな苦境な状況で「一乃谷」の大将、谷光男は、あえて「クジラ専門店」を運営している。

かつては、日本の高度成長期時代、日本人のタンパク源のトップがクジラだった。牛や豚、鳥よりもクジラが多く食されていた。クジラは今では輸入に依存しているが、「輸出」までしていた。

現在では「クジラ専門店」は、国内では手で数えるほど数件になってしまったが「一乃谷」は全国のクジラ店からも一目おかれ尊敬されている。

大将の谷が東北から上京して東京・神田に「一乃谷」として、お店を構えたのは、宮城県・石巻市で東日本大震災が起こる1年前の2010年のことであった。石巻市は、国内では最大の捕鯨基地である。

本作はクジラの料理としての魅力だけではなく、環境問題にも触れ、科学的な見地から現代におけるヴィーガンブームからの森林伐採を含め「タンパク源」のバランスの問題にも向き合う。自然資源のルールを決める国際会議と無縁の「クジラ専門店」の大将と、国際会議の主要人物の証言を記録したものである。

 

『鯨のレストラン』予告編


公式サイト

 

2023年9月2日(金) 新宿K's cinema

2023年9月15日(金) アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー

 

Cast
谷光男(鯨屋の大将)
鮎川捕鯨の皆様
ユージン・ラポワント(ワシント条約元事務局長)
ジュヌビエーヴ・デスポーテス(NAMMCO事務局長・科学者)
加藤秀弘(東京海洋大学名誉教授)
八木信行(東京大学教授)
樋口真嗣(「シン・ゴジラ」監督)

Staff
監督・プロデューサー:八木景子
撮影:猪本雅三
録音:伊藤裕規
編集協力:浜口文幸記念スタジオ

2023/日本/77分/ドキュメンタリー/HD/Color/16:9/英題: Whale Restaurant

配給:八木フィルム