『ウェルカム トゥ ダリ』奇想天外なダリワールド〈ダリランド〉へようこそ!天才画家サルバドール・ダリと妻ガラの驚愕の日常
シュルレアリスムの代表的作家と讃えられ、その名を世界に轟かせた20世紀の天才画家サルバドール・ダリ。本作では、ポップカルチャー全盛期を迎えた70年代のニューヨークと、故郷ポルト・リガトを舞台に、彼の奇想天外な人生と妻ガラとの関係、知られざる素顔が綴られる。
監督を務めるのは、『I SHOT ANDY WARHOL』『チャーリー・セズ/マンソンの女たち』のメアリー・ハロン。ダリに扮するのは、アカデミー賞に4度ノミネートされ、『ガンジー』でオスカーを手にしたベン・キングズレー。気性の激しい妻・ガラには『ローザ・ルクセンブルグ』でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞したドイツのバルバラ・スコヴァ。画廊に務める青年ジェームスには、本作が長編映画デビュー作となるクリストファー・ブライニー。
本作の素晴らしさは、ダリ本人とその人生が細密に描かれているというだけではない。それらが「ダリランドへ招かれた青年ジェームス」の視点で語られることにある。監督は「ダリとガラは魅力的だったが、その行動と関係性は、非常に浮世離れしていた。観客が共感できるように、若い青年ジェームスを置くことにした」と語っている。青年の視点が介入することで、私たち観客は映画の中で天才ダリに近づくことができるのだ。そして近くで見るからこそ、物事の表裏、艶やかで華やかな世界とその裏側にある芸術家の虚無と孤独、そして苦悩が浮き彫りになる。
本作は美術にも余念がない。絵画だけでなく、デザインされた口ひげや奇抜なスタイル、彼の強烈なキャラクターも、取り巻く人々が築いたダリランドも、並外れた美意識を反映した生活それ自体が、ダリの脳内を体現したダリの“作品”であったことがよくわかる。
天才と気狂いの境界を漂い、数々の奇抜で斬新な作品を生み出していくダリ。幼い頃、強い風が吹くと外に出て懸命に「風を指揮した」というダリ。「私は永遠に生きる。天才は死なない」「神々と肩を並べる方法は、一つしかない。神々のように残酷になることだ」など尊大な名言を残したダリ。
この摩訶不思議なダリという男の人生が、脳内風景が、一体どのようなものだったのか。本作はダリを間近で見ているような臨場感を与えてくれる。ダリが長年常宿にしていた高級ホテルのスイートに青年ジェームズが入ると同時に、私たちも躊躇なくダリの脳内〈ダリランド〉へ迷い込むのだ。
メアリー・ハロン 監督
70年代のモダンな生活をNYで謳歌していたダリとガラにフォーカス
サルバドール・ダリの映画を作らないかとオファーされた時、メアリー・ハロン監督は「『I SHOT ANDY WARHOL』で既に別のアイコンを取り上げていたから、同じことは繰り返したくなかった」と振り返る。しかし、夫で映画監督のジョン・C・ウォルシュから意外なアイディアを提案された。
ウォルシュが、こう説明する。「隠されていた彼の顔に迫り、誰もが共感できる部分を探すという主旨の作品だった。その中でも最も惹かれたのは、ダリの死に対する恐怖心だ。そして、驚くほど波乱に満ちたダリと妻のガラの結婚生活も非常に興味深かった。ガラという存在を掘り下げて描くことを思うと胸が躍ったね」
ダリとガラは魅力的だったが、その行動と関係性は、非常に浮世離れしていた。観客が共感できるように、ハロンとウォルシュは、若い青年ジェームスを置くことにした。憧れのダリから学ぶために、彼の世界に踏みこむ人物だ。ハロンは、「ダリとガラは伝説の夫婦だった。ガラは誰よりもダリのキャリアを後押ししたけれど、誰よりもダリのキャリアを壊した人でもある。その矛盾が非常に興味深かった」と説明する。
さらに二人が熱心に迫ったのは、1970年代にニューヨークで暮らしていたダリの姿だった。その頃のダリは、アリス・クーパーのようなアーティストと共に制作に励み、伝説のディスコクラブ、スタジオ54に出入りしていた。
ハロンは、70年代のニューヨークに特別な思い入れがあった。1975年に22歳で大学を卒業したハロンは、ニューヨークに引っ越したのだ。ちょうどパンクシーンが生まれた頃で、彼女は新たな扉を叩いた。ハロンは、「あれは私の人生の中でも特別な時期だった。そんな時代を彷彿とさせる映画を作りたいと思った」と語る。
メアリー・ハロン
監督
1953年、カナダ生まれ。インディペンデント映画史において、最も個性的な表現者の一人。1996年に『I SHOT ANDY WARHOL』で脚本家/監督デビューを果たし、インディペンデント・スピリット賞とロンドン映画批評家協会賞の作品賞にノミネートされる。続く『アメリカン・サイコ』(00)は公開当初は賛否両論を呼んだが、現在はカルト的な人気を誇る名作となっている。その後、『ベティ・ペイジ』(05)はベルリン国際映画祭とトロント国際映画祭で、『モスダイアリー』(11)はヴェネチア国際映画祭とトロント国際映画祭で、『チャーリー・セズ/マンソンの女たち』(18)はヴェネチア国際映画祭とトライベッカ映画祭でプレミア上映される。また、「ホミサイド/殺人捜査課」(97~98)、「OZ/オズ」(98)、「Lの世界」(04)、「シックス・フィート・アンダー」(05)、「ビッグ・ラブ」(06)、「ザ・フォロイング3-最終決戦-」(15)など、多くの人気TVシリーズで監督を務める。2018年にストックホルム国際映画祭特別功労賞を授与され、2019年にはヴェネチア国際映画祭の審査員を務める。
ストーリー
1974年、ニューヨーク。デュフレーヌ画廊で働き始めたジェームスは、個展を開くダリのアシスタントを務めることになる。憧れの芸術家ダリと妻のガラに気に入られたジェームスは、奇想天外なダリの世界へ招き入れられ有頂天になる。だが、個展は3週間後に迫っているのに、ダリはパーティー三昧の日々を送り、作品は1枚も仕上がっていない。すると突然、ガラが金のために描けとブチギレ、ダリはジェームスの目の前で傑作を完成させる。個展終了後もジェームスはダリのために働くことになり、ダリの故郷のポルト・リガトへ渡り、画家の原点に触れるという新たな感動に震えるが、そこにはさらに不思議で危うい〈ダリ・ランド〉が待ち受けていた──。
『ウェルカム トゥ ダリ』予告編
公式サイト
2023年9月1日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA、アップリンク京都、ほか全国順次ロードショー
監督:メアリー・ハロン
脚本:ジョン・C・ウォルシュ
出演:ベン・キングズレー バルバラ・スコヴァ クリストファー・ブライニー ルパート・グレイヴス
アレクサンダー・ベイヤー アンドレア・ペジック withスキ・ウォーターハウス andエズラ・ミラー
2022年|イギリス|英語|97分|カラー|ビスタ|5.1ch|PG12|原題:Daliland|字幕翻訳・渡邉貴子
提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ
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