『ファルコン・レイク』16ミリフィルムで繊細に綴る、思春期の少年少女の忘れられないひと夏の思い出
『ファルコン・レイク』は、バンド・ネシネ(フランスの漫画)作家バスティン・ヴェヴェスの『年上のひと』を原作にしている。
原作はフランス・ブルターニュのビーチを舞台にしているが、監督・脚本のシャルロット・ル・ボンは、舞台を監督が子供の頃からよく知っていたカナダ・モントリオールの北西にあるローランティッド地域の湖を舞台にした。
映画レビューサイトのFilmarks(フィルマークス)の運営会社の株式会社つみきが、映画レーベル「SUNDAE(サンデー)」を設立。本作は提供作品の第一弾となる。
Filmarksのレビューにはこう書かれている。
「自分の感情もうまく説明できない、言語化できない心のうちに渦巻くものが映像ににじみ出ていて、16mmフィルムの映像と相まってともてエモい。不穏な空気が途切れないので、説明が難しいけど青春映画なのかな?」
「海」から「湖」へと設定を変えたことが、14歳を迎える少年と16歳の少女のひと夏の物語をスイートな思い出だけでない要素を加えることになった。
途絶えることのない心臓の鼓動のような波に生を感じる海、静寂な時にはどこか死を感じる森の中の湖。
劇中16歳の少女クロエが語る
「どこにもなじめない、一生独りぼっち、それが一番の恐怖」
もうすぐ14歳の少年バスティアンは答える
「独りじゃない 幽霊がいる」
映画を観終わったあと、この二人の会話がずっと胸に残る映画だ。
シャルロット・ル・ボン 監督インタビュー
――本作はバスティアン・ヴィヴェスのバンドデシネ『年上のひと』をもとにしていますが、 この作品を知ったきっかけを教えてください。
私の友人である俳優、プロデューサーのジャリル・レスペールが原作本をプレゼントしてくれたの。「この作品は君にびったりだと思うし、もし気に入ったら、君の初長編映画として共同製作を手伝うよ」と。まさに彼の言う通りだった。非常に繊細でさりげない物語で、映画化へのポテンシャルが大いにあることは明らかだったの。でも最初は原作者本人でさえ、映画化する提案に驚いていたわ。彼はこの物語は、映像で表現できないと思っていたから。私にとっての真の課題は、物語を自分のものにするために個人的な作品にすることだった。
脚本家のフランソワ・ショケとの共同作業のおかげで、物語に満足のいく新たなアイデンティティを与えることに成功したわ。この作品は原作を大まかに脚色したものなの。
――原作の舞台は海沿いのブルターニュですが、映画ではカナダ・ケベック州の湖畔が舞台となっていますね。
私は、子供の頃からモントリオールの北西にあるローランティッド地域の風景や地域をよく知っているの。舞台として選んだのには、私自身が安心するという理由だけでなく、フランス人の主人公に試線を与えるためにも、慣れ親しんだロケーションが必要だったから。主人公が異質で慣れない場所に立ち向かい、孤立感をつのらせ真の感情的な目覚めが起こるというアイデアが気に入ったの。ぼつんと建った木造住宅や、湖、森のような場所でね。このシンブルな物語構想は、ティーンエイジャーのクロエとバスティアンを含む、ロマンチックな休暇の真っ只中にいる数名の旅行客によって進められていくの。
――撮影時期を真夏にしたのは何故ですか?
ケベック州、特にローランティッド地域の夏は、魔法がかったみたいな雰囲気なの。何ヶ月もの凍えるような冬の寒さの後に訪れる夏の暑さは、精神と肉体を解き放ち、自然に雄大な美しさをもたらす。私たちはそんな夏を思う存分楽しむけれど、長続きしないという感覚も伴うの。だって秋が待ち伏せしていて、過酷な寒さはいずれ戻ってくるわけだから。私は、こうした自然、そしてそのありったけの美しさは、同時に悩みにもなり得るということを表現したかった。
湖の水は素晴らしいけど、それは暗く、時に生温かい。私はいつも湖で泳ぐことは、楽しさと恐怖の両方の体験だと思っていたの。水の中ではしゃぐ喜びは、いつもうっすらと感じる不安と共にある。湖の一番底に何があるのか、わかることはない。そんな気持ちは酎えがたい不安にもなり得る。「デジャウ」という忌まわしい感覚に陥る度に感じる驚きなんだと思う。これが『ファルコン・レイク』の主題なの。底で何が起こっているのかわからないけど、体験したことがあるような感覚を持つのよ。
――バスティアンとクロエを演じる俳優はどのように選んだのですか?
私は本当に彼らのことが大好きだけど、単に彼らが好きというのは理由にならないわね。ジョゼフ・アンジェルに関しては、ルイ・ガレル監督の『パリの恋人たち』に出演しているのを観たの。当時の彼はとても若く、10歳くらいだった.無名の子役だった彼を発見した後、彼の両親に1ヶ月間カナダで私と一緒に過ごさせて欲しいと鋭得しようと思った。納得してもらうまでは時間がかかったけど、偶然にも、ジョゼフは撮影中に14歳になっていたの。14歳という年齢は、行動と態度が矛盾するどころか、反発し始める、ためらいがちな時期の真っ只中。ジョゼフは体と感性を全て出し切って、このキャラクターを演じている。ティーンエイジャーとしての美しさに成熟した心の知能を吹き込んでいるわ。
クロエ役を探すのにはもっと時間がかかったわ。サラ・モンプチは、400人以上の応募があったオンラインキャスティングに参加していたの。私はすぐに彼女が理想的なクロエになるとわかった。繕った感じもなく、ある種の無頓着さがあって、自分の美しさに全く気づいていないの。彼女はキャスティング時、18歳だったにもかかわらず驚くような知恵と知性を持ち合わせていると感じたわ。その後、原作同名のセバスティアン・ピロット監督の映画「Maria Chapdelaine(原題)」で、彼女がマリア・シャプドレーヌ役を演じていたことを知ったわ。
――本作は16mmフィルムで撮影していますね。
デジタルで撮影すると映像全体のバランスが取れすぎて時に味気ない感じがするけど、フィルムはさりげなくもあっと言わせられる映像になる。さらにフィルムだとコストがかかるから、何度もテイクを重ねて撮り溜めた中から良いテイクを選ぶということができない。そのお陰で撮影現場にある種の規律が生まれ、フィルムを大事に使おうという意識に繋がったの。
――『ファルコン・レイク』を表す言葉を教えてください。
私が大好きな言葉の1つ「憂鬱ね。私が思春期の絶頂期で経験して以来、未だ纏わりつくこの憂鬱感は、私にとって安全な避難所であり、背中を押してくれるものでもあるの。憂鬱な気分は飼いならして自分の味方にしないと。悲しみに対抗するための一生の友達なのだから。
シャルロット・ル・ボン
CHARLOTTE LE BON
監督・脚本
1986年9月4日生まれ。カナダ出身の俳優・映画監督。フランスを拠点に活動し、俳優として第40回セザール賞助演女優賞にノミネートされた『イヴ・サンローラン』(14/ジャリル・レスベール監督)をはじめ、『ムード・インディゴ うたかたの日々』(13/ミシェル・ゴンドリー監督)、『ザ・ウォーク』(15/ロバート・ゼメキス監督)、『フレッシュ』 (22/ミミ・ケイヴ監督)など多数の作品に出演。
映画監督としては、脚本も手掛けた短編『ジュディット・ホテル』(18)でデピュー。初の長編監督作品となる『ファルコン・レイク』(22)は、第75回カンヌ国際映画祭を皮切りに数々の映画祭で上映され、第58回シカゴ国際映画祭をはじめ国内外の映画祭で新人監督賞を受賞するなど高い評価を受ける。第76回カンヌ国際映画祭では、新鋭監督ながら短編部門の審査員に抜擢された。また、絵画や写真などを手掛けるアーティストとしても活躍の場を広げている。
ストーリー
ある夏の日。もうすぐ14歳になるバスティアンは、両親と歳の離れた弟と一緒にフランスからカナダ・ケベックにある湖畔の避暑地へとやってくる。
2年ぶりに訪れる湖と森に囲まれたコテージ。母の友人ルイーズと娘のクロエと共に、この場所で数日間を一緒に過ごす。
久しぶりに再会したクロエは16歳になっていて、以前よりも大人びた雰囲気だ。桟橋に寝転んでいたクロエは服を脱ぎ捨てると、ひとり湖に飛び込む。
「湖の幽霊が怖い?」
泳ぎたがらないバスティアンをおどかすようにクロエが話す。
大人の目を盗んで飲むワイン、2人で出かけた夜のパーティー。
自分の知らない世界を歩む3つ年上のクロエに惹かれていくバスティアンは、帰りが迫るある夜、彼女を追って湖のほとりへ向かうが——。
『ファルコン・レイク』予告編
公式サイト
2023年8月25日(金) 渋谷シネクイント、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー
監督・脚本:シャルロット・ル・ボン
出演:ジョゼフ・アンジェル、サラ・モンプチ、モニア・ショクリ
原作:バスティアン・ヴィヴェス「年上のひと」(リイド社刊)
提供:SUNDAE 配給:パルコ 宣伝:SUNDAE
原題:Falcon Lake|2022年|カナダ、フランス|カラー|1.37:1|5.1ch|100分|PG-12|字幕翻訳:横井和子
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