『シモーヌ フランスに最も愛された政治家』エディット・ピアフ、グレース・ケリーに続き、オリヴィエ・ダアン監督が描く世紀の女性の物語
フランスには、2人の有名な〈シモーヌ・ヴェイユ〉がいる。どちらもユダヤ人女性で、一方は哲学者、また一方は政治家。そして本作は後者である政治家シモーヌ・ヴェイユの人生にフォーカスした映画である。
ある素晴らしい功績を称えた人物の人生を映画として再構成するというのは、勇気がいることなのかもしれない。とりわけフランス国内で今でも幅広い年代の支持を集める人気者となれば、なおさらである。
そのチャレンジに挑んだのが、監督オリヴィエ・ダアン。エディット・ピアフ、グレース・ケリーに続き、世紀の女性3部作のラストを飾るシモーヌ・ヴェイユという女性政治家の、数奇な運命とその高潔な魂を丁寧に描いた。そして本作のフランス年間興行成績は、国内映画でNo1に輝いた。
その手法を監督はこう語る。「年表のない、行ったり来たりする記憶こそが、この物語の要なのです。では、どのようにして物語の連続性を組めるでしょう。記憶には「感情の年表」のようなものがあり、それは事実の直線的な時間軸よりもずっと強いと私は考えています」。
この「感情の年表」を軸にストーリーを綴っていくことで、より映像によるアプローチを生かした心を揺さぶる描写が生まれ、シモーヌの人生の過酷さ、凄惨さによって培われた懐の深さや計り知れない崇高な愛を、静かにでも確かに「伝える」ことに成功している。政治への信念同様、この映像詩を通じて浮かび上がる彼女の愛は、世界のあらゆる凄絶さを飲み込んでいくようであり、それがまるで過去の小さな彼女自身を救うかのようでもあり、なんとも美しい。
オリヴィエ・ダアン 監督コメント
シモーヌが大事にしてきた「伝達」の重要性を映画で伝えたい
国や大陸全体の歴史と密接に絡み合ったシモーヌ・ヴェイユの人生をどのように語れるでしょうか。単純な政治的および歴史的説明ではない、物語の糸をどのように解きほぐせば良いでしょうか。
幼少期は、すべての始まり、すべてのものが構築されます。ここから始めることにしました。しかし、子供時代がすべてを教えてくれるわけではありません。人生経験も同様に基盤となります。年表のない、行ったり来たりする記憶こそが、この物語の要なのです。では、どのようにして物語の連続性を組めるでしょう。記憶には「感情の年表」のようなものがあり、それは事実の直線的な時間軸よりもずっと強いと私は考えています。記憶というのは自分の意思で整然と呼び出すことはできませんが、一見些細な出来事や歴史的な重要な出来事、それらの間につながりを描くことはできます。
映画の中でシモーヌは、自伝を書くために、自分の記憶を思い出し、疑問を持ち、過去の出来事をよりよく記録するために、頭の中に蘇らせます。しかし、記憶は首尾一貢して蘇ってくるものではありません。記憶というものは、必ずしもお行儀がいいとは限りません。南仏の庭で過ごした夏のタベ訊国の歴史における重要な日付よりも優先されることもあります。
重要だと思われる記憶を「思い出そう」とすると、さらにその奥、もっとプライベートな場所、理性よりも感情が勝る場所から、別の記憶が湧いてきます。詩の余地を残したこのアプロー チが、調本と映画全体の原動力となっています。シモーヌ・ヴェイユの人生を掘り下げると、彼女のこだわりやたゆまぬ努力の根底にあるのは、「伝達」であることが理解できました。私が作りたい映画も、まさにこの目的によって導かれているのです。
シモーヌ・ヴェイユが大切にしてきた伝達の重要性を、教育的になりすぎず、強く伝えていかなければなりません。言葉や絵で。音を通して。映画の冒頭と最後を飾るのは、シモーヌ・ヴェイユ自身の言葉、つまり彼女のスピーチからの抜粋です。彼女の演説が、今もなお非常に適切だと思えるのは、彼女が常に人類を中心に据えているからです。それこそが、彼女の強さなのです。人類は彼女の闘いであり、政治はその闘いを日常的に行うための手段でした。この映画は、その手段でもあります。
私たちがごくささやかですが、シモーヌ・ヴェイユに対して敬意を払えることは、彼女の人生を語る伝記映画を作ることでしょう。個人的な体験から生まれた彼女の言葉や考えと行動する粘り強さを受け継ぎながら、私たちはより良いもの、より有用なもの、より強力なものができると信じています。その個人的な体験は、しばしば悲劇に見舞われてきましたが、彼女は常に人間に対する揺るぎない信頼によって乗り越えました。暗いエピソードもありますが、この物語は常に希望と回復力に支配されていて、基本的に楽観的です。フェミニズム、正義、医療、ヨーロッパ、戦争、人権、記憶とその伝達、さらに親密なレベルでは、子育て、家族、夫婦といったテーマが含まれています。私たちの野望は、シモーヌ・ヴェイユの人生についてだけでなく、彼女の遺産についても、すべての人に語りかけるような大作映画を作ることです。
オリヴィエ・ダアン
Olivier Dahan
監督
1967年フランス生まれ。1991年にマルセイユ地中海美術大学を卒業。1988年から1997年にかけて7本の短編映画を撮影し、数多くのミュージックピデオを監督した。アルテTVコレクション「同時代の少年少女たち」の1章として制作された初監督作品「Freres(兄弟)』が、1994年ベルリン国際映画祭に選出され、1997年には初の長編映画「Deja mort(すでに死んでいる)」を監督。ブノワ・ マジメル、ロマン・ デュリスが出演し、今日でもカルト的な人気を誇っている。2001年には舞台化されていたシャルル・ ペローの童話「親指トムの奇妙な冒険」を映画化した『プセの冒険 真紅の魔法靴」が興行的に成功を収める。2002年 にイザベル・ ユペールが売春婦を演じた「いつか、きっと」を翌年には再びブノワ・マジメルとタッグを組み『クリムゾン・ リバー2 黙示録の天使たち」を監督。2006年に監督した「エデイット・ ピアフ 愛の讃歌」はアカデミー賞3部門にノミネートされ、主演のマリオン・ コテイヤールはアカデミー賞主演女優賞に輝き、世界中にその名を知られるようになった。その後、 2010年にはレネー・ ゼルウイガーとフォレスト・ ウイテカー出演の「My Own Love Song」で初のアメリカ映画を監督。2012年に監督したニコール・ キッドマン主演「グレース・ オブ・ モナコ 公妃の切り札』は2014年カンヌ映画祭のオープニング作品として上映された。
ストーリー
1974年パリ、カトリック人口が多数を占め更に男性議員ばかりのフランス国会で、シモーヌ・ヴェイユ(エルザ・ジルベルスタイン)はレイプによる悲劇や違法な中絶手術の危険性、若いシングルマザーの現状を提示して「喜んで中絶する女性はいません。中絶が悲劇だと確信するには、女性に聞けば十分です」と圧倒的反対意見をはねのけ、後に彼女の名前を冠してヴェイユ法と呼ばれる中絶法を勝ち取った。1979年には女性初の欧州議会議長に選出され、大半が男性である理事たちの猛反対の中で、「女性の権利委員会」の設置を実現。女性だけではなく、移民やエイズ患者、刑務所の囚人など弱き者たちの人権のために闘い、フランス人に最も敬愛された女性政治家。その信念を貫く不屈の意志は、かつてアウシュビッツ収容所に送られ、“死の行進”、両親と兄の死を経て、それでも生き抜いた壮絶な体験に培われたものだった--。
『シモーヌ』予告編
公式サイト
2023年7月28日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネ・リーブル池袋、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー
Staff
監督・脚本:オリヴィエ・ダアン『グレース・オブ・モナコ公妃の切り札』『エディット・ピアフ愛の讃歌』
撮影:マニュエル・ダコッセ『2重螺旋の恋人』
編集:リシャール・マリジ『エディット・ピアフ愛の譜歌』
衣装デザイン:ジジ・ルパージュ『グレース・オブ・モナコ公妃の切り札』
Cast
エルザ・ジルベルスタイン『パリ、嘘つきな恋』
レベッカ・マルデール『スザンヌ、16歳』
オリヴィエ・グルメ『ある子供』
エロディ・ブシェーズ『天使が見た夢』
2022年/フランス/フランス語/140分/カラー/シネスコサイズ
原題:Simone, le voyage du slecle
英題:Simone, a Woman of the Century
映倫:G/配給:アットエンタテインメント
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