『天空のサマン』中国最後の王朝・清を築いた満洲族の失われゆく信仰〈サマン教〉の儀式と廃れゆく言語〈満州語〉を巡るドキュメンタリー

『天空のサマン』中国最後の王朝・清を築いた満洲族の失われゆく信仰〈サマン教〉の儀式と廃れゆく言語〈満州語〉を巡るドキュメンタリー

2023-07-19 17:55:00

中国東北地域に現存する最後のサマン(薩満)の儀式を巡る旅を通して、失われゆく〈満州シャーマニズム〉と失われゆく〈満州語〉を探究してゆくドキュメンタリー。

サマン(=シャーマン)とは「トランスや憑依状態になって、神、精霊、死霊と交流し、この過程において、予言、卜占、病気を治療するなどの役割を果たすことができる人のこと」だという。

監督を務めるのは、音楽家であり、本作の音楽・撮影・製作も同時に手がける金大偉。満洲族の中国人の父と日本人の母を持つ彼にとって、本作は前作『ロスト マンチュリア サマン』(2016)に引き続き、現存する満洲サマンたちの思想の記録であると同時に、自らのオリジンの探究でもあったのだろう。

「満洲の伝統文化を求めて、約9年間の時間を経て、様々な困難を乗り越えて、ついにこの映画が完成した。大きな視点から見れば、私の内面も大きく変化したのであろう。失われゆく満洲サマンの世界や失われゆく満洲語の世界において、もう二度と撮れない貴重な映像を撮影出来たことによって、自分の存在意味及び民族の存在意味と在り方が段々見えてくる」と語っている。

かつての人々は、天と地をつなぐサマンの儀式を通じて、宇宙、先祖、神々のエネルギーの臨在を確かに感じることができたに違いない。今ではこの伝統を継いでいける人がほんのわずかしか残っていないことを嘆きながらも、その祈りの儀式からは、見えない世界とのつながりを希求する人間の根源的な問いと祈り、魂の叫びが、遥かなる時を超えて伝わってくる。体の芯が疼くような太鼓のリズムに誘われ、観ている私たちの魂がそれに呼応してゆくようだ。それは深く眠っていた魂が呼び覚まされるような、また古い民族の記憶が蘇るような感覚でもある。本作は本物のサマンの肉声、言語、歌、踊り、祈り、儀式に触れることのできる、とにかく稀少な映画である。

 

金 大偉 監督コメント


満洲サマンの最後の祈りが見えてくる

本作品は、前作『ロスト マンチュリア サマン』(2016)に引き続き、現存する満洲サマンたちの思いや考え方について記録し、再び彼らが天神へ祈るために行った貴重な儀式の模様をカメラに収めることができました。その代々受け継がれてきた伝統儀式は、満洲族の魂や精神であり、自己再生へのアプローチであり、失われゆく文化を守るための意志でもあったに違いない……と思いました。私はできる限り、その儀式の流れを追って撮影し、その記録を映画に納めました。

失われゆく満洲シャーマニズムを辿る旅を通して、映画の制作全体を通して、作品の中に、私の思いだけではなく、参加した全ての人々の思いをも込められています。作品を制作すること自身は、一種の共同体の融合であり、調和と共存と共生の行為であり、多くの異文化を理解するための重要な手掛かりと言えるでしょう。

カオスと化した先の見えないこの時代に、満洲サマン文化だけではなく、ユーラシア大陸全体の視野からみれば、サマンの伝統文化が変容し、失われつつあります。それでも微かに、天と人間を繋ぐサマンの力が残っているようにも見えます。天空の光が煌めく中において、人々が幸福のため、天空の神々や先祖から啓示を受ける時に、満洲サマンの最後の祈りが見えてくる。あるいは、最後の魂の叫びが聞こえてくるのです。


満洲風の音楽と映像との融合

音楽と映像は、それぞれに独自の魅力があります。2つが合体すれば、相乗効果が出ます。

祈りへの満洲神歌をアカペラで録音して、そのパーツや断片の部分をコラージュにして、日本でその歌のイメージを崩さないように、リズムや楽器の音を合わせて再構成していく。こうして、伝統歌のエッセンスが生かしながら、現代風の音楽として新たな楽曲が生まれます。現代と過去、新しいものと古いものとの融合によって、いろんな形の音楽が出来、創作の本質が見えて来るのです。

そして、音楽と映像を融合し合うことが大切です。いかに2つの世界を上手く調和させ、統合していくことが、新しい結合の魅力を誕生させるキーポイントになるじゃないかと思います。作品作りは、フィールドワークがとても大事です。私は、映画や音楽を作る時、やはり現地での体験や調査、また現地の雰囲気及びその土地のエネルギーなどを受けて、自分がその中に溶け込むことが重要であると考えています。


みなさまへのメッセージ

混沌とした現在社会において、この映画を通じて、自分のアイデンティティーを知り、自民族の文化の魂や精神を探求することができて、また様々な伝統文化への理解を深める上で非常に重要な体験ができたと思います。それぞれの固有の伝統文化を次世代に伝承するために、その重要性をみなさまに知っていただきたいと思います。

また全世界における「サマン文化」の復興をはかり、忘れられた人類の原点にある精神性をみなさまと共有し、一緒に考えていきたいと思います。ぜひ、多くの方にこの映画を観ていただけたら幸いです。
ありがとうございました。

 

金 大偉(きん・たいい)​
監督・音楽・撮影・製作
中国遼寧省生まれ。父は満洲族の中国人、母は日本人。来日後、独自の技法と多彩なイマジネーションによって音楽、映像、美術などの世界を統合的に表現。近年は様々な要素を融合した斬新な空間や作品を創出している。

音楽CD『Waterland』('97)、『新・中国紀行』('00)、『 龍・DRAGON 』('00)。また中国の納西族をテーマにした『TO MPA東巴』('03〜'07)シリーズ3枚を発売。『冨士祝祭〜冨士山組曲〜』('14)、『鎮魂組曲2 東アジア』('17)、 『マンチュリア サマン』('18)など23枚リリース。

映画監督作品は、『海霊の宮』('06)、『水郷紹興』('10)、『花の億土へ』('13)、『ロスト・マンチュリア・サマン』('16)、アート映像『シマフクロウとサケ』('21)など多数。また自身の表現世界や創作への思想などを まとめた著書『光と風のクリエ』('18)などがある。最新映画は、失われゆく満洲族の文化をテーマにした『天空のサマン』('23)。アイヌ文化と民族の共生をテーマにした『大地よ』('23)。

金大偉文化アートチャンネル
金大偉HP

 

ストーリー

天と人をつなぎ
霊性を重んじる伝統と文化が
今、滅びようとしている

中国史上最も広大な領土を誇った最後の王朝である清帝国。ベルトルッチ監督の映画『ラスト・エンペラー』では、絢爛豪華な宮廷文化が描かれ、強いイメージを残した。

この清帝国を築いたのが満洲族であり、現在の人口は約1.100万人。消滅の危機にある文化遺産の一つとも言われる満洲語をネイティブで話せる人は、もはや10数名となった。また彼らの信仰であるシャーマニズムの伝統、サマンの儀式や祭りも、限られた僅かな村に残るばかりとなった。そこでは、サマンたちが次世代へ繋ぐ祈りが行われている……

 

『天空のサマン』予告編


公式サイト

 

2023年7月21日(金) アップリンク吉祥寺、ほか全国ロードショー

2023年9月1日(金) アップリンク京都

 

監督・音楽・撮影・構成・製作:金 大偉

特別企画顧問:能澤壽彦
制作顧問:易穆察・乃昌 特別顧問:七沢賢治
撮影・写真:山本桃子 編集:菅井康博
英語翻訳:ブルース・アレン、 中国語翻訳:劉茜懿
満洲語翻訳:堅強 フランス語翻訳:カンタン・コリーヌ
音楽協力:韓萧寒、Hagi、岩崎裕和 他
ナレーション:金 大偉
宣伝美術:千葉健太郎

協賛:データム・グループ、一般財団法人和学研究助成財団 藤原書店、精神圏資料・能澤文庫、ティーセラピースタジオ芸術教育学研究所、NPO 法人ビ・ライト、ギャラリーカフェ アルル。 他
協力:ミディ レコード、関東学院大学 人間共生学部 共生デザイン学科、一般社団法人 TOURI ASSOCIATION、東放学園映画専門学校 プロモーション映像科、和器出版、ユング心理学研究会、TAII Project Music Collection 他
特別協力:藤原良雄、楠木賢道、宮脇淳子、鎌田東二、七沢久子、黒川五郎、承志、関治平、瓜勒佳氏一族、鍚克特哩氏一族 他
協賛:榊原正明、愛新覚羅ゆうはん、秋 薫里、村上依久子、井川輝江、高畠克子、川村紗智子
協力:大倉正之助、荻原眞子、切通理作、佐々木 愛、赤坂真理、大藏 博、久保智之、海老根秀之、簡 憲幸 他

制作:日本 2023 年/16:9/ハイビジョン、ステレオ/時間:118 分 (劇場上映版)/使用言語:満洲語・中国語/字幕:日本語・英語・中国語・フランス語

企画・制作・配給 : TAII Project
制作進行:『天空のサマン』映画制作実行委員会

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