『古の王子と3つの花』かつて「スタジオジブリ洋画第1回提供作品」として日本で紹介されたミッシェル・オスロ監督の新作
『古の王子と3つの花』は3つの物語からなる映画。それぞれ、舞台は、エジプト、フランス・オーヴェルニュ、トルコだ。
アニメーションの表現も3つとも異なり、1話の『ファラオ』はピラミッドに描かれた人の図のように、登場人物全員がずっと横顔で描かれ、2話の『美しき野生児』は切り絵のように人物がシルエットで描かれている。3話の『バラの王女と揚げ菓子の王子』は色彩豊かで美味しそうなアニメーションとなっている。
フランス人なら誰でも知っているほど有名というミッシェル・オスロ監督の作品は日本では、2003年に「スタジオジブリ洋画第1回提供作品」として『キクリと魔女』が日本公開されている。
それぞれ細工の違う手工芸品のような美しい御伽噺をスクリーンで楽しんでほしい。
ミッシェル・オスロ監督インタビュー
――バラエティに富み、かつ調和のとれた映画を作るために、この3つの物語をどのように選んだのでしょうか?
『ディリリとパリの時間旅行』の制作には6年かかりました(他の長編映画も同じです)。アニメーターの仕事が完了すると、私の脳は突然、他のこと、つまり新しい映画について考えることを許されたような気がしました。いろいろな意味で重い映画を作った後に、もっと軽やかなものを作りたいと思ったのです。それはオペラを聴いた後に小曲を聴くようなものです(小曲のほうがオペラよりも長く人々の心に残ることが多いように)。
私は数年前からアンリ・プーラが民話を語り直した「美しき野蛮人の物語」のメモをとっていました。この美しい物語をいつもより忠実に映画にしました。そしてモロッコの物語集にも目を通しました。ハンサムな揚げ菓子屋に興味を持った少女が出てくる話があって、全く異なる物語なのに「千夜一夜物語」を思い出したんです。それで、モリエールやモーツァルトのように「トルコ風」のファンタジーを作りたくなりました。時代考証に忠実ではない、エキゾチックな衣装を着た登場人物たちが繰り広げる「コメディー・バレエ」。イスタンブールの素晴らしい風景や衣装を生かすために、舞台をモロッコからイスタンブールに置き換えまし た。しかし、王子、王女、侍女たちは、トプカプ宮殿というより、トリアノン宮殿のイメージです。また、アナトリアという非日常的な場所で交易する様々な国の人々の声や、市場で商売をする商人たちの掛け声や叫び声にも配慮しました。
3つ目のお話は、人生に時々用意されているサプライズがきっかけです。ルーヴル美術館の館長から、あるプロジェクトでコラボレーションをしないかと誘われたのです。会話の中で、彼は「二つの土地のファラオ:ナパタ王家の叙事詩」という特別展を準備していることを話してくれたのです。私は、小学1年生ときからエジプト文明に魅せられていたこともあり、シナプス(神経細胞の接合部)に火がつきました。もうひとつは、私が幼少期の大半を過ごしたサハラ砂漠南地域のアフリカに関係していたということです。(『キリクと魔女』という作品を作ったことでそのつながりはさらに強くなりました)。
そこで、アニメーションを作ることを提案し、展覧会に関する資料をすべて取り寄せてもらいました。そこで私は美術館の展示がどのように準備されるのか、その舞台裏を見ることにもなりました。「夢の碑文」の翻訳を読みました。クシュ(スーダン北部)の王が、エジプト全土を征服する夢を見る話です。彼は目覚めたとき、この挑戦にいどむことを決意し成功します。クシュ人は決して残酷な民族ではなく、さらに許すという文化を持っています。この王朝の素晴らしい要素を強調しながら、彼の旅路をかなり忠実に脚本にしました。この物語をルーヴル美術館が了承し、映画制作費の一部を負担しました。私は、ルーヴル美術館のエジプト部門を率い、アフリカの王朝を専門とするヴァンサン・ロンドの協力を得て、物語を発展させました。彼とのコラボレーションは本当に楽しいものでした。その結果、この物語は3作の中で最も史実に忠実なものとなりました。そして、このテーマは私が生涯をかけて情熱を傾けていた分野だったおかげで、すでにとても良い下地が私の中に出来上がっていたのです。
――足場や建設現場を背景にしたストーリーテラーのアイデアは、どのように生まれたのですか?
独立した物語をつなげたかったわけではなく、観客には次の世界に入る前に、必ず仕切り直す時間が必要なので、各話の後にクレジットを入れることを考えていました。しかし、それはあまりよいものではありませんでした。私の芸術はストーリーを語ることなので、ストーリーテラー(男性または女性)を登場させ、観客が物語と物語の間に少し休憩を入れられるようにしようと考えたのです。
突然やってきたかのようなパンデミック、そして最初のロックダウンは、極端で人々を警戒させ国中が動けなくなり、誰もが待機するかのように生活するというものでした。これは、あの静寂と想像を絶する空虚に包まれた最初の週に私が描いた最初の絵です。仕事着に身を包んだ女性です。なぜなら誰もがまじめに仕事に取り組まないといけないからです。シックなスカーフを身につけてね。自分を解放し、若々しく、エネルギッシュで気まぐれで、普遍的な活力を生みだすのです。そのことに疑念の余地はありません。“戦争“が終われば 前よりもエネルギーが必要になるからです。そして、その風景は明らかに「復興」の現場と言えます。人々がいて、昼休み中です。彼らは開かれた文明の一翼を担っており、それは続いていくのです。
――3つの物語に共通するテーマは、親の権威に対する反抗であり正義を求めるということです。これは、子どもたちに「自分を信じなさい、自分を表現しなさい、自分らしくありなさい、何でも知っていると信じている大人は往々にして間違っているのだから」と言いたいのでしょうか?
わざとじゃないと言ったら信じて頂けますか? 全く異なる3つのお話を、接点なく作ったつもりです。それに、親を敵に回すつもりもなかったんですよ!? ここではっきりさせておきたいのは、私はとても良い父と良い母を持ったので、その点では何の恨みもないのです。
私の映画のヒーローたちは、不当な権力に反旗を翻しただけなのです。私は、人々に自由であること、有害なルールに屈服したり従ったりすることを拒否するよう勧めています。私は映画を作るとき、先入観を持たずにあちこちから情報を集めています。子供も大人も、私が彼らを驚かせ、納得させてくれることを私に期待しています。そのために、私は真実と誠実さを追求しています。
今、子供のころに私の映画を見たという若い人たちに会い、感謝されることがあります。これはすごいことです。しかも、一緒に働くアニメーターのほとんどが、こう言ってくれます。「私たちはあなたの映画で育ったから、ここにいるんですよ」と。私はよく観客と出会う場所に出向くのですが、あらゆる年齢層の観客が私に話しかけてきます。自分の作品が長年にわたってどんなインスピレーションを与えてきたかを知ることは、映画監督にとってとてつもないことです。私は幸せ者です。恵まれていると思います。
ミッシェル・オスロ
Michel Ocelot
監督
1943年10月27日コート・ダジュール生まれ。ギニアで幼少時代、アンジェで青年期を過ごす。最初はアンジェの美術学校で、のちに国立高等装飾美術学校で装飾芸術を学んだ。アニメーションは独学。プロとしての初の短編作品「3人の発明家たち」(1979)で BAFTA賞を受賞。以降自ら全ての作品のシナリオとイメージデザインを手がける。影絵を用いた『プリンス&プリンセス』など短編アニメーションやテレビアニメーションを多数制作し、セザール賞をはじめ多くの賞を受賞。また初の長編作品『キリクと魔女』では観客からも支持され興行的成功も収めた。1994年から2000年まで国際アニメーション映画協会の会長を務めた。2009年にはレジオン・ドヌール勲章をアニエス・ヴァルダ監督から授与され、2015年、ザグレブ国際アニメーション映画祭で特別功労賞を受賞した。2022年には高畑勲監督も2014年に受賞したアヌシー国際アニメーション映画祭の名誉賞を受賞した。
ストーリー
第1話 ファラオ
クシュ王国の王子はナサルサとの結婚を認めてもらうため、エジプト遠征の旅に出て、神々に祈り祝福されながら戦わずして国々を降伏させ、上下エジプトを統一、最初の黒人ファラオとなり、無事ナサルサと結ばれる。
©2022 Nord-Ouest Films-StudioO - Les Productions du Ch'timi - Musée du Louvre - Artémis Productions
第2話 美しき野生児
中世フランスの酷薄な城主に追いやられた王子は、地下牢の囚人を逃がした罪で森に追放されるが、数年後美しき野生児として城主に立ち向かい、お金持ちから富を盗み貧しい人々に分け与え囚人の娘と結ばれる。
©2022 Nord-Ouest Films-StudioO - Les Productions du Ch'timi - Musée du Louvre - Artémis Productions
第3話 バラの王女と揚げ菓子の王子
モロッコ王宮を追われた王子はバラの王女の国へと逃げ込み、雇われたお店の揚げ菓子を通じて国から出た事がない王女と出合い、2人は秘密の部屋で密会し、宮殿を抜け出し自分たちで生きていくことを決意する。
『古の王子と3つの花』予告編
公式サイト
2023年7月21日(金) YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー
監督・脚本:ミッシェル・オスロ (『ディリリとパリの時間旅行』『キリクと魔女』)
声の出演:オスカル・ルサージュ クレール・ ドゥ・ラリュドゥカン(コメディー・フランセーズ) アイサ・マイガ
2022年/フランス・ベルギー映画/カラー/1.89:1/5.1ch/83分
原題:Le Pharaon, le Sauvage et la Princesse 日本語字幕:橋本裕充
配給:チャイルド・フィルム 後援:フランス大使館 アンスティチュ・フランセ
©2022 Nord-Ouest Films-Studio O - Les Productions du Ch'timi - Musée du Louvre – Artémis Productions