『遠いところ』圧倒的なリアル、花瀬琴音演じるアオイは映画の中で生きている
『遠いところ』を「沖縄の問題」と捉えるか「沖縄の現実」と捉えるかで、映画を観る側の立ち位置は変わってくるだろう。また、現実とした場合「沖縄の現実」なのか「日本の現実」なのかと考えることにより、映画を観る側の映画との距離の違いが問われるだろう。
工藤監督は、当初ジャーナリストを主人公にした映画で沖縄の現実を目の当たりにしるというプロットを考えていたという。だが沖縄を実際に取材してにいくと女の子が監督自身とシンクロしてきたという。
「自分の母親もシングルマザーでしたし、自分の父は母のことも僕のことも殴ったりしていたので、ここにある話はすごく身近にあることだと思ったんです」と語る。
主人公アオイを演じたのは、本作が映画初主演となる花瀬琴音だ。ドキュメンタリーではなく、フィクション映画だが、アオイの映画の中の息遣いが、体温が、心拍が、感情があまりにもリアルに伝わってくる。花瀬琴音演じるアオイは映画の中で生きている。
観ている側がアオイに寄り添えば寄り添うほど、その現実に苦しくなる。ただ、救いはある。これは映画なので、観客の感情が堰を切りそうになる直前でスクリーンから音楽が聞こえてくるのだ。そこで、ああこれは映画という物語なのだと気づくことになる。ただ、自分は傍観者にはなりたくないという気持ちにもなるのだった。
チェコで開催された第56回カルロヴィヴァリ映画祭のコンペ部門で上映され、世界の高い評価を得た。
Rayマガジンは「巨匠ケン・ローチに対する日本のアンサーのようだ」と評した。
映画を勝る劣るで比較するのは野暮だが、そのアンサーは、確実にケン・ローチより、俳優をはじめ、あらゆる映画の面で『遠いところ』は上回っている。そのことを映画館のスクリーンで確かめてほしいと思う。
工藤将亮 監督コメント
これからアップリンクで映画を観てくださる皆さまへ
はじめまして「遠いところ」を監督しました工藤将亮です。
アップリンクは僕を育ててくれた映画館のひとつで、そこで上映できることはとても嬉しいです。
この映画はアオイと健吾17歳と2歳の小さな視点を通して、目を背けたくなるような過酷な現実や、残酷な人間の行いを描いています。そのような問題を解決できる術を持っているわけではありませんが「知ってもらうこと」で、解決の道のりにつながる一歩が開けるのでは、と思っています。本作を通して、彼女たちの存在を知り、関心を持っていただければ幸いです。
工藤将亮監督、來河侑希プロデューサー登壇!『遠いところ』名古屋舞台挨拶REPORT
工藤将亮
監督・脚本
1983年10月31日生まれ
京都府出身。森田芳光監督、石井岳龍監督、犬童一心監督、行定勲監督、山崎貴監督ら現代の日本映画界を代表する名監督達の右腕として、時代劇からSFファンタジーまで幅広いジャンルで研鑽を積む。初長編監督作「アイム・クレイジー」がインディーズ作品ながら、第22回富川国際ファンタスティック映画祭にてNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞する。コロナ禍でのステイホーム出来ない若者を描いた長編2作品目「未曾有」(21)がタリンブラックナイト国際映画祭Rebels with A Cause部門で正式上映され、本年の富川国際ファンタスティック映画祭でも再び公式招待を受けている。本作が長編第3作目となる。
ストーリー
沖縄県・コザ。
17歳のアオイは、夫のマサヤと幼い息子の健吾(ケンゴ)と3人で暮らし。
おばあに健吾を預け、生活のため友達の海音(ミオ)と朝までキャバクラで働くアオイだったが、建築現場で働いていた夫のマサヤは不満を漏らし仕事を辞め、アオイの収入だけの生活は益々苦しくなっていく。
マサヤは新たな仕事を探そうともせず、いつしかアオイへ暴力を振るうようになっていた。
そんな中、キャバクラにガサ入れが入り、アオイは店で働けなくなる。悪いことは重なり、マサヤが僅かな貯金を持ち出し、姿を消してしまう。仕方なく義母の由紀恵(ユキエ)の家で暮らし始め、昼間の仕事を探すアオイだったがうまくいかず、さらにマサヤが暴力事件を起こし逮捕されたと連絡が入り、多額の被害者への示談金が必要になる。切羽詰まったアオイは、キャバクラの店長からある仕事の誘いを受ける……
『遠いところ』予告編
公式サイト
2023年7月7日(金) テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋、ほか全国順次ロードショー
2023年7月14日(金) アップリンク京都
2023年7月21日(金) アップリンク吉祥寺
Cast
花瀬琴音
石田夢実、佐久間祥朗、長谷川月起/松岡依都美
小倉綾乃、NENE、奥平紫乃
髙橋雄祐、カトウシンスケ、中島歩、岩谷健司、岩永洋昭、米本学仁、浜田信也、尚玄、上地春奈、きゃんひとみ
早織、宇野祥平、池田成志、吉田妙子
Staff
監督・脚本:工藤将亮
エグゼクティブプロデューサー:古賀俊輔 プロデューサー:キタガワユウキ
アソシエイトプロデューサー:仲宗根久乃 キャスティング:五藤一泰
撮影:杉村高之 照明:野村直樹 サウンドデザイン:木原広滋、伊藤裕規 音楽:茂野雅道 美術:小林蘭
共同脚本:鈴木茉美 特機:菊地永純
ヘアメイクデザイン:倉田明美 特殊メイク・特殊刺青:下畑和秀 スタイリスト:浜辺みさき
助監督:藤原達昭 編集:陳詩婷、工藤将亮
配給統括増田英明宣伝プロデューサー:平下敦子 沖縄宣伝:玉城厚三
協賛:美桜組総合 葬祭那覇オールステイ OKINAWA CITY HOTEL ヒヤグン・ラナイ・リゾート ベストウェスタン沖縄恩納ビーチ
マハロレンタカー 那覇HVレンタルズ NIKITA 一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー 一般社団法人沖縄市観光物産振興協会
公益財団法人沖縄県文化振興会沖縄タイムス社琉球新報社琉球放送
主題歌:“Thanks” Performed by 唾奇
製作:Allen、ザフール 企画・制作プロダクション:Allen 制作協力:ザフール ワールドセールス:Alpha Violet
宣伝:満塁 国内配給:ラビットハウス
2022年/日本/カラー/ヨーロピアンビスタ/5.1ch/128分
©2022「遠いところ」フィルムパートナーズ