『青いカフタンの仕立て屋』「愛を定義して一つの箱に入れようとはしない映画」トゥザニ監督

『青いカフタンの仕立て屋』「愛を定義して一つの箱に入れようとはしない映画」トゥザニ監督

2023-06-09 09:27:00

『青いカフタンの仕立て屋』は、同性愛が違法で、3ヶ月から3年の禁固刑というモロッコを舞台に、仕立て屋、その妻、そして仕立て屋の見習いという3人が描く愛のトライアングルの映画だ。

タイトルのカフタンは丈の長い民族衣装で、シルクサテン製のものは肌触りが良く、体を優しく包み込むように緩めに着衣する。登場人物3人の愛の表現は、シルクサテンのように優しく、カフタンを着る時に体のラインを隠すように自己の主張を抑え相手を思いやるのだった。

マリアム・トゥザニ監督はジャーナリストとドキュメンタリー映像作家だったのだが、劇映画を撮るきっかけになったのは父親の死だったという。

「父が亡くなった時、自然に最初の短編脚本を書きました。フィクションで表現したいと思ったからです。ただ湧き出てきたのです。そして『When They Slept』という映画を撮りました。祖父の死に付き添う少女と、死にゆく身体との関係などを描いた作品です」

最初の長編作品『モロッコ、彼女たちの朝』は、カサブランカの旧市街を舞台に、臨月の未婚女性というモロッコのタブーを取り上げた。本作を撮るきっかけをトゥザニ監督はこう語る。

「『モロッコ、彼女たちの朝』である男性に会ったのですが、彼が自分の人生について語らないことに感動したのです。彼は本当に私を感動させましたが、それは私の中にすでにあったものを、彼が蘇らせたからです。私はタンジェとモロッコの北部で育ちましたが、幼い頃に見た夫婦の中には、世間体を保つために結婚している人がいました。表立っては言わないけれども、夫がゲイだったのです。私が成長するにつれて、これらのことが私の心に刻まれ、私の中に入り込んできたのです。自分について語らない男性との出会いが、それらをもう一度鮮明に浮かび上がらせてくれたのです」

仕立て屋のハムが通うモロッコの公衆浴場「ハマム」は、日本の銭湯とサウナが合体したような空間で、さらにいくつもの個室もある。映画の中では男性同士の行為も行われる場所として描かれる。

「モロッコはとても複雑な国です。現代性と保守性が同居し、密室で行われる限りは受け入れられるものがたくさんあります。そして、同性愛もそのひとつです。それは悲しいことです。私は、陰に隠れなくていけないものなどないと思っているからです。そのために、人々は苦しんでいるのです。
私はただ、自分のキャラクターと一緒に、彼らの親密さの中にいて、彼らの中で何が起こっているのかを探りたかっただけなのです。私は、このコミュニティに声を与えたい。語られない物語を語りたいのです」

『青いカフタンの仕立て屋』は、さまざまな形の愛についての物語だ。

「私は、この映画で描かれる愛を定義して一つの箱に入れようとはしたくはありません。この3人の登場人物は、さまざまな方法でお互いを愛することを学んでいくのです」とトゥザニ監督は語る。

 

マリヤム・トゥザニ 監督インタビュー

 

――ハリムの職業をカフタンの仕立屋にした理由を教えてください。

カフタンは大人の女性の象徴で、少女時代の私にとって憧れでした。成人して初めて母から受け継いだカフタンをまとった時、これは次の世代へと物語を繋ぐ、貴重な品だと気づきました。1枚のカフタンが完成するまでに職人は数ヶ月を費やします。そうして完成したカフタンからは、着る人の心に職人の魂と完成までの物語が届くのです。この物語には手間暇かけて作られるカフタンがふさわしいと思いました。


 残念ながらモロッコではカフタン作りは衰退の一途を辿っています。技術の取得に長い時間がかかるのも原因のひとつでしょう。私が思うに、伝統工芸とは自分が何者かを教えてくれるDNAの一部であり、次世代に伝えるべき宝物です。速さが優先される現代社会ですが、私は伝統の手仕事を守る人々を見つめ、尊敬の念を作品で表現したかった。そんな理由から、本作の舞台を美容室からカフタンの仕立屋にしたのです。

――監督の作品では、言葉にならないもの、つまり視線、沈黙、ショットが重要な意味合いを持っているように感じます。

表情や視線から気持ちは伝わりますし、感情が常に言語化される必要もありません。私は言葉にしなくても感じ取れるような演出、画面に現れる言葉にならない瞬間が好きなんです。ですから私は、余計なもの、説明しすぎるものをそぎ落として演出するように心掛けています。ディテールが重要なのです。

――劇中のカフタン製作と作業シーンは、仕立て職人が担当しているのですか?

はい、職人のララアミさんに協力していただき、生地の裁断からカフタンの完成まですべての作業を撮影しました。影の主人公的存在の青いカフタンは、あの形になるまでとても時間がかかりました。まず、私が思い描いたペトロールブルーの生地が見つからなかったのです。あの色合いを求めて探し回り、パリの布地街、マルシェ・サンピエールで理想の生地を見つけたのです! 次は刺繍のデザインです。ストーリーに合うデザインが思い浮かばず、途方に暮れていたある日、ふと、大切にしまっていた母のカフタンを取り出してみました。その瞬間、私が探していた刺繍はこれだ! と気づいたのです。すぐにララアミさんに母のカフタンをお見せして、このデザインを再現してほしいと相談しました。

私もアトリエで作業風景を見学したり、手仕事の伝統を守ることについて職人から直接お話を聞かせてもらいました。ある職人は、「お金がもらえなくても、カフタン作りを続ける。自分にとってカフタンを作ることは空気のようなものなんだ」と、伝統を守る覚悟を語ってくれました。その彼が、弟子が途絶えて20年も経ってしまったと涙ぐむ姿は衝撃的でした。また、ある職人は、同僚が市場の卵売りに転職してしまったと、寂しそうに話してくれました。手仕事にこだわるカフタン職人は消えゆく存在です。私は本作に手仕事の美しさと、彼らへの敬意も織り込むと決めたのです。

――このような映画をモロッコで制作するのは勇気が必要ではありませんか。

表現しなくてはいけないこと、語るべきことがあるなら、勇気は関係ありません。欲望や愛は、タブーやスキャンダルの対象ではないのです。他の国々と同じように、モロッコも同性愛を禁ずる法律を廃止するために立ち上がらなくては。

――知的で繊細な本作は、特定の性的指向が非難される社会において、人々の見方に影響を与えることができるのでしょうか?

そうであってほしいと願っています。ハリムやユーセフの物語を通して異性愛者でない人々の存在を知り、理解を深めることで、人々の視線が変わるかもしれません。人々の視線が変われば、社会も変わり、法律も変わっていくでしょう。ハリムのような人々の声を伝えていくことが重要です。

これは、男女問わずに、ありのままの姿で人を愛する自由についての物語、真の愛についての映画なのです。

※本国プレスより

 

マリヤム・トゥザニ
MARYAM TOUZANI
監督・脚本
1980年、モロッコ・タンジェ生まれ。映画監督、脚本家、俳優。ロンドンの大学に進学するまで故郷であるタンジェで過ごす。初めて監督を務めた短編映画『When They Slept(英題)』(12)は、数多くの国際映画祭で上映され、17の賞を受賞。2015年、『アヤは海辺に行く』も同様に注目を集め、カイロ国際映画祭での観客賞をはじめ多くの賞を受賞した。夫であるナビール・アユーシュ監督の代表作『Much Loved(原題)』(15)では脚本と撮影に参加、『Razzia(原題)』(17)では脚本の共同執筆に加え主役を演じている。第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品された『Haut et fort(原題)』では共同脚本を務めた。『モロッコ、彼女たちの朝』(19)で長編監督デビュー。数々の映画祭で多くの賞を受賞し20カ国以上で公開された。長編2作目となる本作でも、前作に続き、アカデミー賞®国際長編映画部門モロッコ代表に選ばれた。さらに第76回カンヌ国際映画祭では、リューベン・オストルンド、ジュリア・デュクルノー、ポール・ダノらと共に審査員に名を連ねている。

 

ストーリー

海沿いの町、サレ。失われゆくモロッコの伝統を守る路地裏の小さな仕立て屋
自分らしく生きる勇気をくれた妻の深い愛に、感動の涙があふれ出す

父から受け継いだ仕立て屋で、極上のカフタンを制作する職人のハリム。昔ながらの手仕事にこだわる夫を支えるのは、接客担当の妻ミナだ。25年間連れ添った2人に子どもはいなかった。積み上がる注文をさばくために、2人はユーセフと名乗る若い男を助手に雇う。余命わずかなミナは、芸術家肌の夫を1人残すことが気がかりだったが、筋がよく、ハリムの美意識に共鳴するユーセフの登場に嫉妬心を抱いてしまう。湧き出る感情をなだめるように、ミナは夫に甘えるようになった。ミナ、ハリム、そしてユーセフ。3人の苦悩が語られるとき、真実の愛が芽生え、運命の糸で結ばれる。

ありのままの自分を許し、愛するストーリーの舞台となったのは、モロッコの首都ラバトと川1本隔てた古都、サレだ。コーランが響く旧市街には、新鮮なタンジェリンが並ぶ市場や大衆浴場(ハマム)、男たちがミントティーを楽しむカフェがあり、通路の上には大量の洗濯物がたなびくなど、素顔のモロッコがスケッチされる。また、愛する夫のためにミナが最後に作ったルフィサ(平たいパンの上に鶏肉と玉ねぎの煮込みを載せた特別なごちそう)や、食欲のないミナのためにユーセフが作った卵入りのタジン料理など、3人がほおばる愛情たっぷりの家庭料理も見逃せない。



『青いカフタンの仕立て屋』予告編

 

マリヤム・トゥザニ監督メッセージ

 

公式サイト

 

2023年6月16日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺アップリンク京都、ほか全国順次ロードショー

 

Cast
ミナ:ルブナ・アザバル
ハリム:サーレフ・バクリ
ユーセフ:アイユーブ・ミシウィ

Staff
監督:マリヤム・トゥザニ
脚本::マリヤム・トゥザニ/ナビール・アユーシュ
製作:ナビール・アユーシュ
共同製作:アミンヌ・ベンジュルン
撮影監督:ヴィルジニー・スルデージュ
撮影:アディル・アイユーブ
編集:ニコラ・ランプル
音響:ナシム・ムナビーヒ
衣装:ラフィカ・ベンマイモン
美術:エマニュエル・デ・メルメスター/ラシッド・ユーセフ

2022年/フランス、モロッコ、ベルギー、デンマーク /アラビア語/122分/ビスタ/カラー/5.1ch /英題:THE BLUE CAFTAN/字幕翻訳:原田りえ  

提供:WOWOW、ロングライド 配給:ロングライド 

© Les Films du Nouveau Monde - Ali n’ Productions - Velvet Films – Snowglobe

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