それでも人生は続く、ターニングポイントで自分を見つめ直す中年男の物語『逃げきれた夢』
本作は、映画デビューから45年、日本の映画・ドラマ界を支える名優・光石研の12年ぶりの映画単独主演作。光石自身の地元でもある北九州を舞台に、人生のターニングポイントを迎えた中年男・末永周平の可笑しくも切ない日常を描いた作品である。監督・脚本は、俳優としても活躍の場を広げる新鋭・二ノ宮隆太郎で、光石をイメージして書き上げたシナリオが2019年に「フィルメックス新人監督賞」グランプリを受賞し、二ノ宮監督自ら映画化することで、興業映画デビューの切符を手に入れた。
また本作は、本年度のカンヌ国際映画祭ACID部門への正式出品も果たした。ACID部門は、監督週間と批評家週間に並ぶカンヌ映画祭の3つの並行部門の一つであり、1993年に芸術的な作品を支援するために映画作家たちが創設した「インディペンデント映画普及協会(ACID)」が独自に立ち上げ、作品選定・運営を行っている。30年の歴史を持つこの部門では、毎年世界の先鋭的な9作品を紹介しており、今年は、約600作の応募作品から『逃げきれた夢』が正式出品作の一つに選出され、日本で2本目という快挙を遂げた。選定理由には、「非常に深みのある作品」「演出、そしてシーンの構築が素晴らしい。儚さを受け入れなければならないが、そこに飛び込むと逸品が待っている」と高く評価する言葉が並んでいる。
カンヌ国際映画祭ACID部門・二ノ宮隆太郎監督インタビュー
( 設定より、フランス語字幕から日本語字幕を選択可 )
ACID部門の二ノ宮隆太郎監督インタビューでは、俳優でもある二ノ宮監督が、今回4本目となる本作にて、同じ芸能事務所の大先輩である名優・光石研と一緒に仕事をすることで、どのような影響や変化があったのかと問われると、「やはり、大尊敬している先輩で、昔からよく知っています。彼は、本当に全てを持っているので、自分の書いた台本を一語一句読み取ってくれました。自分が想像している以上のものを映画に吹き込んでくださいました」と安心して撮影に挑めたと答えている。作品のテーマや英題の『DREAMING IN BETWEEN』については、「自分が大切にしているのは、ドラマチックなことだけではなくて、フィクションとドキュメンタリー的要素とのバランスでした」と、光石の人生を取材して、アテ書きした本作の自伝的要素について言及し、「映画の題名の『夢』は、私たちが夜に見る夢と、私たちの目標となる夢の2つをとても大切なテーマとして取り上げました」とも語った。
劇中の後半に、主人公と元教え子との緊張感と切なさが交差する忘れ得ぬシーンを入れた理由については、「最後に言いたかったのは、何が起きても、それでも人生は続けていかなければならないことです」と、誰にでも訪れる人生のターニングポイントで立ち止まり、見つめ直し、向き合いながらじたばた生きる主人公の姿を通して、エールを送っていることや、中年男性の話であるが、教え子の若者と対峙することで「より彼の人生を描けると思ってそうしました」と説明した。
カンヌの印象や今後については、「カンヌでワールドプレミアを行うことができ、観客の反応を見れることは素晴らしいことです。日本では、6月に公開ですが、映画が色々な方に観られることを祈っています」「(今後の予定は)幾つかあります。今回、このような機会を得まして、また、皆さまにお会いできるように頑張りたいです」と抱負を述べた。
二ノ宮隆太郎監督コメント
福岡県北九州市の黒崎の街を、光石研さんと歩かせていただいたのがこの映画の始まりでした。 そこは光石研さんが生まれ育った街で、過ごされた時間への想いが、この映画に詰まっています。 北九州オールロケの作品です。撮影時には地元の皆様に本当に支えていただきました。 尊敬するキャスト、スタッフの皆さんとご一緒できましたこと、そして素晴らしい環境で上映できることに感謝しかないです。
二ノ宮隆太郎プロフィール
1986年8月18日生まれ。神奈川県出身。2012年、初の長編作品『魅力の人間』が第34回ぴあフィルムフェスティバルで準グランプリを受賞し、海外映画祭でも好評を博す。 2017年、監督、主演を務めた長編第二作『枝葉のこと』が第70回ロカルノ国際映画祭の長編部門に日本映画から唯一選出される。 2019年、長編第三作『お嬢ちゃん』が公開。同年、2019フィルメックス新人監督賞グランプリを受賞。『逃げきれた夢』の製作が決定する。本作が商業映画デビュー作となる。 映画監督、脚本家、俳優として活動する。
ストーリー
北九州で定時制高校の教頭を務める末永周平(光石研)。ある日、元教え子の南(吉本実憂)が働く定食屋で、周平は支払いをせず無言で立ち去ってしまう。記憶が薄れていく症状によって、これまでのように生きられなくなってしまったようだ。待てよ、「これまで」って、そんなに素晴らしい日々だったか? 妻の彰子(坂井真紀)との仲は冷え切り、一人娘の由真(工藤遥)は、父親よりスマホ相手の方が楽しそうだ。旧友の石田(松重豊)との時間も、ちっとも大切にしていない。「これから」のために、「これまで」を見つめ直していく周平だが――。
『逃げきれた夢』予告編
公式サイト
新宿武蔵野館、シアター・イメージフォーラム、アップリンク京都 ほかにて全国公開中。
『逃げきれた夢』
監督・脚本:二ノ宮隆太郎
出演:光石研、吉本実憂、工藤遥、杏花
岡本麗、光石禎弘、坂井真紀、松重豊
製作総指揮:木下直哉
プロデューサー:國實瑞惠、関友彦、鈴木徳至、谷川由希子
撮影:四宮秀俊/照明:高井大樹/録音:古谷正志/美術:福島奈央花
装飾:遠藤善人/衣装:宮本まさ江/ヘアメイク:吉村英里
編集:長瀬万里/音楽:曽我部恵一/助監督:平波亘
制作担当:飯塚香織/企画:鈍牛倶楽部
製作:木下グループ
配給:キノフィルムズ
制作プロダクション:コギトワークス
映倫G DCP/カラー/スタンダード/モノラル/96分
©2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ