『aftersun/アフターサン』あの時の父と同じ歳になり、父の想いを再生する。誰の心にも在る、大切な人との大切な記憶の物語。

『aftersun/アフターサン』あの時の父と同じ歳になり、父の想いを再生する。誰の心にも在る、大切な人との大切な記憶の物語。

2023-05-25 00:00:00

11歳のソフィが父親とふたりきりで過ごした夏休みを、その20年後、父親と同じ年齢になった彼女の視点で綴られる本作は、2022年カンヌ映画祭・批評家週間で上映されるやいなや話題を呼び、A24が北米配給権を獲得。昨年末には、複数の海外メディアが「ベストムービー」に挙げるなど、本年度を代表する1本となる。父親を演じたポール・メスカルも本年度アカデミー賞主演男優賞の候補に名を連ねる。

脚本・監督は、瑞々しい感性で長編デビューを飾った、スコットランド出身のシャーロット・ウェルズ。製作陣には、バリー・ジェンキンス、アデル・ロマンスキー、エイミ ー・ジャクソンらが名を連ねる。生きづらさを抱えながらも、娘への深い愛情を見せる父親を繊細に演じたのは、ドラマ「ノ ーマル・ピープル」(2020)でブレイクしたポール・メスカル。思春期のソフィ役には、半年にわたるオーディションで800人の中から選ばれた新人フランキー・コリオ。20年後のソフィは役は、振付師であり、数々の賞を受賞した『Ma』(2015)の映像作家のセリア・ロールソン・ホールが演じた。

本作は、かつての父親と同じ年齢になったソフィの視点を通して、宝もののような思い出を振り返るというフィクションでありながら、同時に、1987年生まれのウェルズ監督のパーソナルな自叙伝の要素も多く盛り込まれている。全編に散りばめられた家庭用小型ビデオカメラ「miniDV」、ポラロイドといった90年代のアイテムやファッションの数々は、観る者たちの記憶を刺激するだろう。そして、物語を彩るクイーン&デヴィッド・ボウイ、ブラー、R.E.M、Chumbawambaなどのヒットソングも、ローファイな夏休みにタイムトリップさせるファクターとなっている。

シャーロット・ウェルズ監督インタビュー

――この映画を作ったきっかけは?

私は、両親がかなり若い時にできた子供だったので、幼い頃、父親は、よく兄と間違えられていて。父は、ちっとも気にしてない様子でしたが、映画で描いたら、楽しい関係性になりそうだと常々思っていました。修了制作として、映画化できそうなアイデアをいろいろと考えていた頃、古いアルバムをめくって休暇の写真を眺めていたら、物語の種が育ち始めたのです。アイデアにじっくり取り組むことは、自分の思春期や両親、特に父との思い出を振り返るということでした。最初は、よくあるフィクションとして始まって、書きながら過去を振り返るというプロセスが、脚本に回顧的な視点を与え、次第にパーソナルでエモーショナルな自叙伝へと変わっていった気がします。

――なぜトルコでこの映画を撮ろうと?

10歳くらいの頃、父とトルコに2週間滞在したことがあって、脚本を書く間、その休暇の記憶が繰り返し浮かんできました。初めてのダイビング、古代遺跡との遭遇、泥風呂、ハマム、大空いっぱいに広がったパラグライダー。その時に感じた楽しさや驚きを物語に取り入れました。それは、カラムとソフィが共に過ごす時間には、不可欠な要素だなと。

――撮影監督グレゴリー・オークと一緒に考えたこの映画のスタイルについて聞かせてください。

もちろんフォーマットは重要ですが、物語の様々なシーンで、ふたりのキャラクターの関係をどう示すかも重要ですよね。 私にとっては、常にイメージが出発点なんです。ほんのわずかな視覚的選択と観察が、豊かな情感を映画にもたらしてくれるので、まず、具体的に海と太陽と空をイメージして、家族の休暇の写真を集めました。ハイコントラストで鮮やかな映像を再現したかったので。豊かな色彩がすごく「今」を感じさせて、「過去」を描く映画というアイデアとの対比がとても気に入ったんですよね。大人になったソフィのシーンは現在なので、カラリストがより現代的な雰囲気を提案してくれて、そういったニュアンスを発見するのも楽しい作業でした。

写真は、すべて全自動の35ミリカメラで撮影されたもので、「この映画を35ミリフィルムで撮る」と決断するうえで、影響を与えた要素の1つです。それと、家庭用小型ビデオカメラ。少なくとも、私たち世代の人々にとって、とても懐かしさを感じるものなんです。休暇の出来事に現実味が出るし、撮られているシーンがすごく平凡っていうアイデアも、休暇を撮った映像にありがちで気に入りました。

もっと総合的な戦略の観点から言えば、撮影に先立ち、グレゴリーが写真の記憶と視点について驚くほど丁寧で詳細な資料をまとめてくれました。そこには、手紙や写真、絵、異なる映画のシーンも含まれていて、 この映画には、そういった多様な視点が巧みに盛り込まれています。それを元に撮影リストを作るとき、グレゴリーといろんな視点の撮影方法について、かなり時間をかけて慎重に意見交換しました。一番クリエイティブな挑戦であり、興味深いプロセスだと思います。例えば、カラムの全身はあまり映らず、後ろ姿だったり、距離を置いて撮影されることが多い。そんな彼との距離感が、ある意味そうしたシーンが空想だと伝えるのを助けてくれると思いました。ソフィは、その場にいなくて、私たちに見えるのは、カラムだけなので。

――20年後のソフィが少し登場します。なぜそのシーンを入れようと思ったのですか?

真夜中に眠れないソフィがパートナーをベッドに残したまま起きるシーンは、直感的なものでした。元々のアイデアにはなかったと思います。私は、そういうシーンを信頼しがちで、レイヴ空間が出てくるのも同じような理由です。いろんなエンディングを考えるうちに、結局、1シーンを追加しました。カラムが撮った子供の頃のソフィのビデオを、大人のソフィが見ているシーンです。その理由は、成長したソフィが最後にテレビと向き合うことで、彼女が映画の包括的な視点となっていたということを伝えるためです。

 

シャーロット・ウェルズ監督・脚本プロフィール

1987年、スコットランドに生まれ。ニューヨークを拠点とするフィルムメーカー。
ロンドン大学キングスカレッジの古典学部で学んだ後、オックスフォード大学でMA(文学修士号)を取得。金融関係の仕事をしながら、ロンドンで映画スタッフのエージェンシーを友人と共に経営する。その後、ニューヨーク大学ティッシュ芸術学部でMFA(美術修士号) / MBA(経営学修士)を共に取得する大学院プログラムに入学。BAFTAニューヨークおよびロサンゼルスのメディア研究奨学金プログラムの支援を受け、3本の短編映画の脚本・監督を手がける。短編初監督作『Tuesday』(2016)は、エンカウンターズ短編映画祭でプレミア上映され、スコットランドBAFTAのニュータレント賞にノミネートを果たす。2作目『Laps』(2017)は、サンダンス映画祭で編集部門のショートフィルム特別審査員賞を受賞し、サウス・バイ・サウスウエスト映画祭の短編ナラティブ部門の審査員特別賞を受賞。修了制作『Blue Christmas』(2017)は、同年9月にTIFFでプレミア上映される。

2018年、「フィルムメーカー・マガジン」の「インディペンデント映画の新しい顔25人」に選ば れ、2020年のサンダンス・インスティテュートのスクリーンライター及びディレクター・ラボのフェローとなった。『aftersun/アフターサン』(2022)は、長編初監督作品である。

 

ストーリー

思春期真っ只中のソフィ(フランキー・コリオ)は、若き父・カラム(ポール・メスカル)とトルコのリゾート地にやってきた。まさしくターコイズ・ブルーの海を臨むまぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、親密な時間をともにする......。20年後、カラムと同じ年齢になったソフィ(セリア・ロールソン・ホール)は、ビデオテープの映像から記憶を手繰り寄せ、当時は知らなかった父の一面を見出してゆく。まぶしいほどの夏の光、うだる暑さと少しぎこちない会話、日焼け止めクリームの手触り、暗闇でゆらゆらと踊る父の後ろ姿。まばゆくてヒリヒリと焼きつける夏の感触が、今、あざやかによみがえる。

『aftersun/アフターサン』予告編

公式サイト

2023年5月26日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリー、アップリンク吉祥寺 、アップリンク京都 ほか全国公開中

 

『aftersun/アフターサン』
監督・脚本:シャーロット・ウェルズ(初長編監督作品)
出演:ポール・メスカル、フランキー・コリオ、セリア・ロールソン・ホール
プロデューサー:アデル・ロマンスキー、エイミー・ジャクソン、バリー・ジェンキンス、
マーク・セリアク
キャスティング・ディレクター:ルーシー・パーディー
プロダクションデザイナー:ビラー・トゥラン
衣装デザイナー:フランク・ギャラチャー
音楽:オリヴァー・コーツ
サウンドデザイナー:ヨヴァン・アイデル
編集:ブレア・マックレンドン
撮影監督:グレゴリー・オーク
製作総指揮:エヴァ・イエーツ、リジー・フランク、キーラン・ハニガン、ティム・ヘディントン、リア・ブーマン
原題:aftersun/2022年/イギリス・アメリカ/カラー/ビスタ/5.1ch/101分 字幕翻訳:松浦美奈
映倫:G
後援:ブリティッシュ・カウンシル
配給:ハピネットファントム・スタジオ

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