『ソフト/クワイエット』しずかで、やさしい「怪物」を1秒たりとも見逃すな!「異次元」の映像体験と「人間の恐怖」を暴く、驚愕のリアルタイム・スリラー。

『ソフト/クワイエット』しずかで、やさしい「怪物」を1秒たりとも見逃すな!「異次元」の映像体験と「人間の恐怖」を暴く、驚愕のリアルタイム・スリラー。

2023-05-18 00:00:00

ホラー&スリラー界のトップブランド、ブラムハウスが新たに放つ本作は、大胆な撮影手法とセンセーショナルなテーマを融合させた衝撃的な問題作である。92分の全編をワンショットで映像化し、アメリカで社会問題化しているヘイトクライム(憎悪犯罪)の狂気をえぐり出す。わずか4日間のリハーサルで撮られたとは信じがたい完成度を誇っている。

監督は、自らのオリジナル脚本を映画化し、長編デビューを飾ったベス・デ・アラウージョ。中国系の母、ブラジル人の父の間に生まれた有色人種であるアラウージョ監督は、「私は、憎悪犯罪をありのままに描き出し、観客が1秒たりとも気を抜けない映画を提供する」と、ヘイトクライムに対する自身の肌感覚を、繊細かつ思慮深く映画に反映させた。

主人公エミリーの自尊心の高さと精神的なもろさを見事に演じきったステファニー・エステスをはじめ、キャストは、ほぼ無名の俳優たちであるが、インディペンデント映画や舞台などの出演経験が豊富な実力派が揃い、どの町にもいそうな「危険な隣人」をリアルに体現している。監督デビュー作とは思えない卓越した演出力により、リアルな没入感と息づまる緊迫感に圧倒される体感型クライム・スリラーである。

ベス・デ・アラウージョ監督メッセージ

この映画の制作に取り掛かったとき、「なぜこの映画を作りたいと思ったのか」「なぜ白人至上主義の女性たちを題材に選んだのか」などの質問をよく受けました。私は、このテーマを避けることもできるし、そんな人たちなど存在しないと自分に言い聞かせることもできると思うのです。この映画に登場するような人からは、目を背けていたほうがむしろ安全です。彼女たちを無視することができれば、その存在を消すことができるかもしれないという錯覚に陥るのです。そういった考え方が、白人至上主義を支えています。私には、そのような考えは持てません。彼女たちは、毎日の生活において、私に脅威をもたらすからです。映画監督として私が下した決断は、すべて絶えず私にまとわりついている脅威がもたらした結果であり、そこには、本作のカメラがワンカットで追っている主人公も含まれます。

このテーマを選んだのは、観客から「安心」を奪うことも目的としています。この映画に登場する女性たちを観て、カメラで追うことを通して、彼女たちに立ち向かうと同時に、観客の皆さんにも、自分自身と向き合う機会を持っていただきたいのです。私はエンターテインメントを愛しており、映画を観て現実逃避することが大好きです。しかし、そのような映画の存在が歓迎されるのと同じくらいに、私たちに疑問を投げかける映画も歓迎されるべきだと思っています。

私が脚本を書き始めたのは、エイミー・クーパーのビデオ(セントラル・パークでバードウォッチングを楽しんでいた黒人男性に脅されたと嘘をついて、警察に通報した)が出回った日の翌日でした。私は、このビデオを見たとき、怒りが込み上げてきました。小学2年生の時に教わっていた教師を思い出しました。有色人種の生徒たち全員を一番レベルの低い読書グループに押し込んだり、目の前で私の両親をけなしたりしました。この教師のような女性たちは、教育や情報の制度の中に潜んでいます。私は、白人至上主義のイデオロギーのリサーチを行う中で、オルタナ右翼のイメージが意図的に変えられ、その思想を持つ多くの人々が、賢く洗練されたインフルエンサーとして、インスタグラムで多くのフォロワーを持っていることを知りました。 世界中にいるエイミー・クーパーと同類の女性たちは、ごく平凡で身近にいるような存在であるが故に、人々を惑わせる危険があるのです。

アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件の週に、この映画の資金調達を図ったところ、あっという間に資金を確保しました。3ヵ月の準備期間を経て、出演俳優たちには、劇を撮影するのだと伝えました。つまり、最初から最後までワンテイクで撮るということでした。こう決断したのは、この物語が伝統を破るよう意図したものだったからです。「典型的な植民地主義を描いた物語にはしたくない」という思いがありました。植民地主義が持つ憎しみを受け入れやすくした表現や、今なお続いている植民地主義者たちの犯罪行為を和らげ、赦免するために書かれた偽りのストーリーアークを映し出したくなかったからです。私は、憎悪犯罪をありのまま描き出し、観客が1秒たりとも気を抜くことができないような映画を作りだしました。そうでなければ、この映画は偽りということになります。

私たちが生きる時代のストーリーテリングと映画製作は、非常に危険な状態にあると思います。アメリカのインディペンデント映画は、もう何年も観客を甘やかしてきました。観客や視聴者を慰め、安心させることに集中する時代が続いているのです。ナチスや秘密結社KKKのメンバーが、自らの過ちに気付いたり、有色人種の主人公が、人種主義にあふれるこの世界で自らの重大な欠点を正したりという物語が中心です。もちろん慰めを与えたり、人生には希望があるということを観客に思い出させたりするような映画があることも重要です。しかし、人種差別や白人至上主義に関して容赦するよう促す映画や物語が支持されているのは、非常に残念なことです。そうした間違った物語は、ずっと前から人々の内側にあり、それが白人至上主義を支えてきたのです。

私は、観客の皆さんに安心感を与えたくはありません。この映画に登場する人々は、極悪人でも、どこかにいるであろう人種差別主義者でもありません。この映画で皆さんが目にするのは、恐ろしいことをする人間、つまり危険な人たちなのです。もしかしたら、その極悪人、あるいは極悪人の種、また白人至上主義の概念が、あなたにも私たち全員の中にも存在するのかもしれません。隣人、同僚、先生、友達、家族、そして私たちの内面にも確かに存在します。私たちは、その事実に向き合ってみて、初めて暴力がどうやって起こるのか、そして、憎しみがどのように募り、広がっていくのかを理解するのです。私は観客の皆さんが自らをどう認識しているのかに関わらず、皆さんがこの映画を自分自身として体験することを望んでいます。主人公エミリーの視点からではなく、公然の秘密を打ち明けられた者として、この映画を体験していただきたいのです。

私は自分の人生において、自分が人の目に映っていない、批判的な目で見られている、偏見を持たれている、憎まれていると感じる時、ぐっと我慢します。わざわざ騒ぎ立てるようなことはせず、水に流して、その影響を受けないようにするのです。しかし、これが自分の愛する人たちに起こった時には、全く反対の行動に出ます。大きな声で騒ぎ立て、怒りを露わにするのです。自分自身ではなく、他の人のために声を上げることのほうが、なぜこれほどまでに簡単なのでしょう?

周囲の人々から、人種差別に対して悲しんでいる私を慰めるために、「彼らの視点から物事を考えてみたらいいよ」「彼らが無知であることを気の毒に思えばいいよ」などと言われ続けてきました。私は、人種差別や白人至上主義を、ずっと彼らの視点から見てきたのです。私を憎む彼らに感情移入し、私の存在に対して彼らが感じる嫌悪感を理解するように努め、平和的な結論を見つけて前に進もうと頑張ってきました。そして、いい加減それに辟易しているのです。それは、ただ「存在」しているだけで、この世界において正当に評価されている白人からチャンスを奪っているということに喜びを見い出さないといけないような感じがして、非常に疲れます。

この映画は、「最も愛しているものが奪われないように、自分のために立ち上がれ」という私の教訓の物語です。自分を守ることは、自分が属するコミュニティや自分が愛する人を守ることにもなります。私にとっては、誰よりも自分の妹を意味しています。芸術家である私たちの仕事は、解決策を提供することではありません。私たちは、政策立案者ではありません。芸術家の仕事は、真実を見たまま、感じたまま伝えることなのです。

ベス・デ・アラウージョ監督プロフィール

サンフランシスコ生まれ。カリフォルニア大学バークレー校で社会学の学士号を取得し、American Film InstituteではMFAを取得した。いくつかの短編作品を制作後、本作で長編デビューを果たし、SXSW2022でプレミア上映されて、審査員特別賞にノミネートされるなど高い評価を得た。特に批評家から絶賛されている。2017年フィルムメイカー誌が選ぶ「インディペンデント映画界の新顔25人」に選出。母親は中国系アメリカ人で、父親はブラジル出身。ブラジルと米国の2つの国籍を有している。『ドント・ウォーリー・ ダーリン』(2022)、『エターナルズ』(2021)に出演したジェンマ・チャンを主演に迎えた新作『Josephine(原題)』を準備中である。

 

ストーリー

とある郊外の幼稚園に勤める教師エミリーが、「アーリア人団結をめざす娘たち」という白人至上主義のグループを結成する。教会の談話室で行われた第1回の会合に集まったのは、主催者のエミリーを含む6人の女性。多文化主義や多様性が重んじられる現代の風潮に反感を抱き、有色人種や移民を毛嫌いする6人は、日頃の不満や過激な思想を共有して大いに盛り上がる。やがて彼女たちは、エミリーの自宅で二次会を行うことにするが、途中立ち寄った食料品店でアジア系の姉妹との激しい口論が勃発。腹の虫が治まらないエミリーらは、悪戯半分で姉妹の家を荒らすことを計画する。しかし、それは取り返しのつかない理不尽でおぞましい犯罪の始まりだった……。

『ソフト/クワイエット』予告編

公式サイト

2023年5月19日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国公開 アップリンク吉祥寺アップリンク京都

 

『ソフト/クワイエット』
監督・脚本:ベス・デ・アラウージョ
出演:ステファニー・エステス、オリヴィア・ルッカルディ、エレノア・ピエンタ、メリッサ・パウロ、シシー・ リー、ジョン・ビーバース
2022年/アメリカ/英語/92分/16:9/5.1ch/原題:soft&quiet/G
日本語字幕:永井歌子
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
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