『ヴィレッジ』閉ざされた村の光と闇を描き、社会構造の歪みを見事に炙り出すサスペンス・エンタテインメント
同調圧力、格差社会、貧困——。閉鎖的なムラ社会の光と闇を通して社会構造の歪みを炙り出し、現代日本の縮図を描いた、受け継がれるものたちの抗えない運命の物語。これは、日本の伝統的な村社会の物語であり、“私たちの”物語である。
監督を務めるのは、『デイアンドナイト』『余命10年』などを手掛ける藤井道人。藤井のオリジナル脚本で映画化された本作は、故・河村光庸プロデューサーの遺作のひとつであると同時に、彼の遺志と遺伝子を受け継ぎ『新聞記者』や『ヤクザと家族 The Family』などを手掛けたスタジオ・スターサンズの制作チームが結集して挑んだ渾身の一作だ。
主人公の優役を横浜流星、美咲役を黒木華が演じるほか、古田新太、中村獅童、一ノ瀬ワタル、奥平大兼、作間龍斗、杉本哲太らが共演。
撮影を務めるのは、フォトグラファー出⾝の川上智之。藤井監督とは短編映画制作プロジェクト『DIVOC12/名もなき⼀篇・アンナ』(21)、『MIRRORLIARFILMSSeason4/名もなき⼀篇・東京モラトリアム』(22)に続き本作が3本⽬となる。
隠蔽を繰り返す体質によって歪められ、鬱屈を溜めてきた村社会の、その深い闇を描き出す手法が見事だ。夢とうつつを彷徨うような「能」の演目を受け継がれるものの象徴とし、そこへ村に⽣きる⼈々の息づかいを重ねることで、日本的で神秘的なディストピアを生み出している。
抗えない運命と哀しみに満ちたこの種の物語に、深く共感し、リアルを感じる日本人は多いだろう。少なくともサスペンスというジャンルを超えた普遍的な物語を見ている感覚がある。それは、この世界との唯一のつながりである光を守るために闇に手を染める主人公の姿が、絶対善や絶対悪の存在しないこの世の構造そのものを写しているからなのかもしれないし、あるいはここに、日本人に通底する原風景が描かれているからなのかもしれない。
藤井道人 監督インタビュー
――脚本執筆にあたって、河村光庸プロデューサーからいくつかのお題があったそうですね。
「お⾯をかぶった⼈々の⾏列」というのはその⼀つですが、そこには今の⽇本⼈の間にはびこる同調圧⼒や事なかれ主義に、⼀⽯を投じたいという河村さんの想いがあったと思います。もう⼀つは「能」ですね。コロナを経て、エンターテインメントは世の中に必要なのかという問いに対して、芸能は不屈であるという⾃分たちなりのアンサーを返そうとしたときに、河村さんは⽇本最古の芸能である「能」を⽤いてきた。物語の核になる「邯鄲」という能の演⽬が決まってから、脚本の輪郭も固まっていきました。
――横浜流星さんとは旧知の仲ですが、藤井監督の映画では初主演になります。
ドラマ版の「新聞記者」で河村さんが流星に出会って、スターサンズの映画で彼をスターにしたいという想いは、前々から聞いていました。実は今回、流星には脚本の初期の段階から相談をしていて、優という⼈物には流星⾃⾝が俳優として感じている迷いや怖れも反映されています。今は祭り上げるだけ祭り上げられて、何か⼀つ間違えると、積み上げてきたものが⼀発で崩れてしまう時代。僕も『新聞記者』(19)以降、個⼈的には変わっていないのに、周りがどんどん変わっていく恐怖があった。僕らの抱くそうした負荷をいかに負わせるか、僕と流星がたくさん時間をかけて話し合った結果、優が⽣まれたと思います。
――お互いに駆け出しの頃から知る横浜さんの変化を、今回どのように感じましたか?
彼は監督を信じてついて⾏くスタイルなので、どちらかというと、僕のほうが彼に対する要求は⾼いんです。今まで⾒たことがない横浜流星でないと意味がない。そんな中、流星のラストシーンを撮っていたときは、ちょっと泣きそうになりましたね。まさに⼀⽪剥けた流星が⾒られる映画になっていると思います。
――⿊⽊さんとは『余命10年』(22)に続いて2本⽬になりますね。
『余命10年』では、ヒロインの家族という役柄だったので、その距離感で撮影に参加してくださったと思います。でも今回は物語の当事者の役なので、現場でもしっかり中⼼にいてくれて、お芝居の話もたくさんできました。⿊⽊さんの役に対する⾃分の落とし込み⽅はすごく余⽩があるんですけど、より感情を打ち出したいときには監督の要望に沿って調整する器⽤さもありますし、相⼿の芝居を受けて返す芯の強さも持ち合わせていて、とにかく素晴らしかったです。
――村から出て⾏けなかった優と、村に帰ってきた美咲は、相⼿に⾃分を⾒るような関係になっていきます。
優が美咲と再会して上昇気流に乗っていくと同時に、美咲も村に希望を⾒出して⾃分を肯定しようと頑張るけれど、同じところでつまずいて追い詰められていく。そこで⼆⼈が合わせ鏡のようになります。今回は演出でも随所で鏡のアイテムをメタファーとして使いました。
――⼩さな村の中で繰り返されてきた慣習は、まさに社会の縮図とも⾔えます。
この映画には加害者がいないんです。全員がどこかで被害者だからこそ、他の誰かを傷つけてしまう。それはムラ社会の功罪だと思うんですけど、誰か⼀⼈が悪者ではないというところを、ちゃんと描きたかった。観終わってわからないことがあっても、わかることがすべてではないと伝えたいし、⼈や物事を断定してわかったような気になっていることが⼀番怖い。⽬の前で表現されているものが⾃分の写し鏡であるという原点に帰れた映画かなと思います。
藤井道⼈
監督・脚本
1986年8⽉14⽇⽣まれ、東京都出⾝。⽇本⼤学芸術学部映画学科卒業。⼤学卒業後、2010年に映像集団 「BABEL LABEL」を設⽴。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(14)でデビュー。以降『⻘の帰り道』 (18)、『デイアンドナイト』(19)など精⼒的に作品を発表。『新聞記者』(19)は⽇本アカデミー賞で最優秀 賞3部⾨含む、6部⾨受賞をはじめ、映画賞を多数受賞。以降、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20)、『ヤク ザと家族 The Family』(21)、「アバランチ」(21/CX)、「新聞記者」(22/Netflix)、『余命10年』(22)と話 題作が次々に公開。待機作に『最後まで⾏く』(5⽉19⽇公開)がある。
ストーリー
閉ざされた世界。閉ざされた心。
崩れゆく人生の中で見つけた、たった一つのきらめき。若者は運命に全てを懸けた。振り払えない闇を抱えながら―
夜霧が幻想的な、とある日本の集落・霞門村。
神秘的な「薪能」の儀式が行われている近くの山には、
巨大なゴミの最終処分場がそびえ立つ。
幼い頃より霞門村に住む片山優は、美しい村にとって異彩を放つこの施設で働いているが、母親が抱えた借金の支払いに追われ希望のない日々を送っている。
かつて父親がこの村で起こした事件の汚名を背負い、その罪を肩代わりするようにして生きてきた優には、人生の選択肢などなかった。
そんなある日、幼馴染の美咲が東京から戻ったことをきっかけに
物語は大きく動き出す――。
【能・演⽬「邯鄲 かんたん」のあらすじ】
唐の時代、⼈⽣に迷った⻘年・盧⽣ろせいは、仏道に悟りを求めて旅⽴つ。その道中に泊まった宿で、⼥主⼈に勧められた「邯鄲の枕」で寝ていると、皇帝の勅使が迎えに来て、盧⽣を宮殿に連れて⾏く。皇帝の位を譲り受けた盧⽣は、この世の栄華を謳歌し、あっという間に⽉⽇が経った。在位50年を祝う宴席で、不⽼⻑寿の仙薬と⾔われる酒に酔いしれた盧⽣が⽬を覚ますと、宿の⼥主⼈が起こしに来る。すべては束の間の儚い夢であった。
『ヴィレッジ』予告編
公式サイト
2023年4月21日(金) TOHOシネマズ日比谷、アップリンク吉祥寺にてロードショー
Cast
横浜流星
⿊⽊華 ⼀ノ瀬ワタル 奥平⼤兼 作間⿓⽃
淵上泰史 ⼾⽥昌宏 ⽮島健⼀/ 杉本哲太 ⻄⽥尚美 ⽊野花
中村獅童 古⽥新太
Staff
監督・脚本:藤井道⼈
⾳楽:岩代太郎
企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸
製作:堀内⼤⽰ 和⽥佳恵 ⽯垣裕之 伊達百合
企画プロデュース:椿宜和 野副亮⼦ 柳原雅美
プロデューサー:⾏実良 ⾓⽥道明 アソシエイトプロデューサー:⻑井⿓ ラインプロデューサー:吉⽥信⼀郎
撮影:川上智之 照明:上野甲⼦朗 録⾳:岡本⽴洋
美術:部⾕京⼦ スタイリスト:皆川美絵 ヘアメイク:橋本申⼆
編集:古川達⾺
CG プロデューサー/コンセプトデザイン:平野宏治
VFX スーパーバイザー:吹⾕健
シニアカラリスト:⽯⼭将弘
オンラインエディター:⻲⼭和寛
スーパーヴァイジングサウンドエディター:勝俣まさとし
リレコーディングミキサー:浜⽥洋輔
キャスティング:杉⼭⿇⾐ 助監督:逢坂元 制作担当:菱川直樹
能楽監修 NPO 法⼈ 七五:近衞忠⼤
能楽指導 シテ⽅喜多流:塩津哲⽣ 塩津圭介
協⼒:制作プロダクション:スターサンズ
制作協⼒:Lat-Lon 製作幹事:KADOKAWA 宣伝:KICCORIT
配給:KADOKAWA/スターサンズ 製作:「ヴィレッジ」製作委員会
©2023「ヴィレッジ」製作委員会