『午前4時にパリの夜は明ける』シャルロット・ゲンズブール主演、家出少女との出会いや“深夜ラジオ”を通して家族の繋がりを再構築していく物語

『午前4時にパリの夜は明ける』シャルロット・ゲンズブール主演、家出少女との出会いや“深夜ラジオ”を通して家族の繋がりを再構築していく物語

2023-04-21 15:21:00

自由の風が吹き、政治だけでなく、芸術的にも転換点といえる時期だった80年代のパリ。「1981年5月10日」という「Changement et Espoir(変革と希望)」を掲げた社会党のミッテラン氏が大統領に当選した当時の場面から本作は幕を開ける。物語は、一つの家族が、家出少女との出会いや“深夜ラジオ”を通して家族の繋がりを再構築していく、というもの。80年代の空気感を纏いながらも、『午前4時にパリの夜は明ける』はいつの時代も愛される繊細かつ情感豊かなあたたかい人間ドラマに仕上がっている。

夫に愛想をつかされ、1人で子ども2人を養うことになった母エリザベートを演じるのは、世界の名だたる監督の作品に出演し、唯一無二の魅力を放つシャルロット・ゲンズブール。彼女の人生に大きな影響を与える“深夜ラジオ”のパーソナリティーはエマニュエル・ベアールが演じる。家出少女を演じた1999年生まれ24歳のノエ・アビタによる自然体な演技にも要注目だ。メガホンを握るのは、前作『アマンダと僕』がヴェネチア国際映画祭マジック・ランタン賞、東京国際映画祭グランプリ&最優秀脚本賞W受賞を果たしたパリ出身のミカエル・アース監督。本作は2022年のベルリン国際映画祭でワールドプレミアとして上映された。

エリザベートは、突然夫が去ったことで、子どもたちや将来に対する不安を拭えずにいた。そこで働き始めたのが、彼女が元々リスナーだった深夜ラジオ"夜の乗客"を放送するラジオ局「ラジオ・フランス」だった。エリザベートは決して器用な人間ではなかったが、同僚たちに支えられ、ついに自分を認められる場所を見つける。
そこで出会うのが家出少女、タルラ。エリザベートが少女を自宅へと招き入れた日から、少しずつ家庭内は変化していく。不安定な少女と向き合うことでエリザベートは何を思うのか。息子とタルラの恋の行方は。「変革と希望」を感じさせるラストへ向けて、彼らの人生は少しずつ動き出していく。

エリザベートが活力を取り戻したきっかけとなった「ラジオ・フランス」のスタジオ。タルラたちが忍び込んだ映画館で上映されていたエリック・ロメール『満月の夜』(84)。解像度を意図的に下げた柔らかい色調と、当時の空気感を感じさせる様々な要素によって80年代を演出しつつも、あくまでも現代の映画、普遍性のある物語として見事に昇華されている本作。まさに劇場のスクリーンで鑑賞するのに打ってつけの作品ではないだろうか。
エリザベートたち家族と、1人の少女が向かう行く末を、是非劇場で見届けてほしい。

 

ミカエル・アース監督インタビュー

──現代に根ざした『アマンダと僕』につづく今作では、観客を1980年代に深く没入させてくれますね。

80年代は私の子供時代でした。人は、祖国に形成されるのと同じように子供時代に形成されると言われます。私はその時代に飛び込み、あらゆる光景や音を再現したいと思いました。その感覚と色彩が私を作り、それが自分の中に存在しているのです。子供時代は幸せでしたが、芸術、特に音楽が印象的だったあの時代を、ティーンエイジャーとして体験することをずっと夢見ていました。この映画を撮ることで、その時代に生きていたかった年齢の視点で、当時を訪れることができました。

──1980年代を撮影するとは、どういったことでしたか?

どんなに厳密で豪華なものであっても、忠実に再現するだけでは、時代の感覚を捉えるには不十分です。私は、リストにチェックを入れるだけにはしたくはなかったのです。もっと感覚的にアプローチしました。もちろん、時代の再現は、セットや装飾、衣装、音楽などに依存します。選挙の夜や、スタジオに建てられた家族のアパートなど、かなりの資源を必要とするシーンもありました。夜のラジオ番組など、80年代という時代に自然にマッチするものもありました。また、映画の中に織り込まれたアーカイブ映像は、現実の重みを映画の他の部分にもたらし、タイムトラベルに誘っているかのようです。

──撮影も80年代の色調で行っていますね。

撮影監督のセバスチャン・ブシュマンと私は、映像の粒子を操作するために、フィルターを使って画像を柔らかくし、デジタルカメラの優れた解像度を下げることで、私たちが抱くこの時代のイメージを再現しようとしました。重要なのは、(引用されたアーカイブ映像を含め)フォーマットの異なる映像を、リズムを崩すことなくまとめ、それらが互いにコミュニケーションを取りながら映画のトーンを定義していくようにすることです。観客は映像の接合点に気が付くかもしれませんが、何よりも、映画の流れに身を任せてほしいです。そしてそれらの連動によって、過去が浸透し続けている現在の光の中で過去を再訪し、(ノスタルジックな意味合いでなく)その時代を感じてもらえたらと思うのです。

──主人公のエリザベートは、高校生の息子と大学生の娘を持ち、夫に去られたばかりです。

エリザベートは、精神的にも物質的にも拠り所を失ってしまいます。映画の中では、以前から住んでいるアパートで暮らし続けながら、彼女は新しい日常の現実に直面します。切羽詰まった状況ではないが、夜も含めて2つの仕事をかけもちして、一人で生きていかねばならないのは大変なことです。お膳立てされたような道を進んできて、壁に突き当たったとき、何とか横道にそれて、自分を作り直すことができるような、道を切り開けるような人々に、私はいつも魅了され、心動かされてきました。その解放には、並外れた強さと寛大さ、そして自立が必要なように感じます。

──とはいえ、エリザベートは「スーパーウーマン」ではありませんね。

普通の枠にはまらないようなキャラクターを描きたかったんです。人生において、人が一面的であることはほとんどありません。エリザベートは、傷つきやすい一方で、断固としてしっかりしていて、明晰でありながらナイーブでもあります。彼女の子育てや仕事、愛、政治との関係が、マニフェストではなく、彼女の人生の平凡で現実的な側面から発展していくものであるように気を配りました。

──この映画はある歴史的な大事件で幕を開けます。1981年5月10日、フランソワ・ミッテランがフランス大統領に選出された場面です。

印象的な映像であり、すべての世代にとって決定的な瞬間でしたが、エリザベートがその出来事をどのように体験したかはわかりません。政治的なメッセージの不在は、私の子供時代に起因していると思います。あの有名な夜に私は6歳で、何か重要なことが起こっていると感じていました。左派の両親は喜んでいましたが、それはとても漠然としたもので、両親は政党に加入したことはありません。彼らの政治活動は、主に日常生活や世界や他の人々との関わりに浸透していました。それが私とエリザベートの、政治との関係を形成したのだと思います。彼女が2人の子どもに見せる愛情やタルラの受け入れ方、そして彼女が、愛と社会の絆をどうとらえているのか、彼女は日々表現しており、これ以上のアクティビズムはないと思います。

――決してドラマや葛藤を大げさにしないにもかかわらず、あなたの映画は静観するようなものではありませんね。

葛藤の不在にもかかわらず、映画を印象的で中毒性のあるものにするために、音楽性、トーン、リズムを見いだそうと挑戦しています。自分の人生観を反映した映画を作ろうと思っています。衝動、メロディ、詩、優美さ、高められた現実を映画に与えたいのです。私は、トリュフォーが「ボトルネック」と呼んだ、人生の空虚だと言われている段階を考慮した映画を作りたいのです。私は主題に支配されていないような映画が好きです。人生が映画の主題であって、映画が主題の人質にはなってはいけないと思うからです。

監督プロフィール

1975年/フランス・パリ生まれ。経済学を学んだのち、映画学校FEMISに入学。友人と数本の短編映画を製作した後、本格的に監督としての活動を開始。短編、中編を数本制作し、“Charell”(2006)がカンヌ国際映画祭批評家週間に選ばれる。25歳の若者たちが過ごす夏の数日間を描いた“Memory Lane”(2010)で長編デビューを果たし、ロカルノ国際映画祭でワルドプレミア上映された。その後、『サマーフィーリング』(2015)、『アマンダと僕』(2018)を手掛け、今作は長編4作目。前作『アマンダと僕』ではヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門マジック・ランタン賞受賞、東京国際映画祭でグランプリと脚本賞W受賞の快挙を成し遂げ、『午前4時にパリの夜は明ける』が第72回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に正式出品された。

 

ストーリー

1981年、パリ。結婚生活が終わりを迎え、ひとりで子供たちを養うことになったエリザベートは、深夜放送のラジオ番組の仕事に就くことに。そこで出会った少女、タルラは家出をして外で寝泊まりしているという。彼女を自宅へ招き入れたエリザベートは、ともに暮らすなかで自身の境遇を悲観していたこれまでを見つめ直していく。同時に、ティーンエイジャーの息子マチアスもまた、タルラの登場に心が揺らいでいて…。
訪れる様々な変化を乗り越え、成長していく家族の過ごした月日が、希望と変革のムード溢れる80年代のパリとともに優しく描かれる。

 

予告編

 

公式サイト

4月21日(金) シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、渋谷シネクイント、アップリンク京都ほか全国順次公開

監督・脚本:ミカエル・アース
出演:シャルロット・ゲンズブール、キト・レイヨン=リシュテル、ノエ・アビタ、メーガン・ノータム、エマニュエル・ベアール

2022年/フランス/111分/カラー/ビスタ/原題:LES PASSAGERS DE LA NUIT/R15+

配給:ビターズ・エンド

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