『屋根の上のバイオリン弾き物語』19世紀末のウクライナ地方に暮らすユダヤ人一家を描いた『屋根の上のバイオリン弾き』の製作秘話ドキュメンタリー

『屋根の上のバイオリン弾き物語』19世紀末のウクライナ地方に暮らすユダヤ人一家を描いた『屋根の上のバイオリン弾き』の製作秘話ドキュメンタリー

2023-03-30 08:16:00

1964年、ニューヨークのインペリアルシアターでの初上演を皮切りに、3242回のロングラン公演となったブロードウェイ・ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』。19世紀末のウクライナ地方に暮らすユダヤ人一家を描いた物語である。

その7年後の1971年、人気ミュージカルを映画として再構築し、帝政ロシア下のユダヤ人の生活をスクリーンに映し出したノーマン・ジュイソン監督(『夜の大捜査線』『ジーザス・クライスト・スーパースター』)。当時「ユダヤ人しか見に来ない」と評されながらも、この映画『屋根の上のバイオリン弾き』は大ヒットを収める。

監督は「この映画は冒険だった」と語る。「物心ついた時からユダヤ人になりたかった。故郷を追われたユダヤ人の歴史を映画に取り込み、この物語を誰もが見られるものにしたかった」とも。このような動機で、映画にしかできない表現を駆使し、大ヒットミュージカル作品の映画化に挑んだのだ。

そして撮影から50 年後の今、この名作にかかわる多くの関係者らの声によって、ジュイソン監督の奮闘ぶりや作品のバックストーリーが綴られたドキュメンタリーが完成した。これが、本作である。

本作の監督は、ダニエル・レイム。製作・編集も同時に務める。2022年に、アトランタ・ジューイッシュ映画祭最優秀ドキュメンタリー映画賞、ヒューストン・ジューイッシュ映画祭最優秀作品賞、リバーラン国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞などを次々と受賞した。

ロシアやウクライナを生活圏にしていた当時のユダヤ人たちが突如として国を追われ、アメリカへと渡った歴史は、決して過去のできごとではなく、今となってはウクライナの人々がまったく同じ思いをして過ごしている。

この連綿と続く私たち人類の大いなる課題と共に、この名作を彩る家族の絆、愛、伝統、父と娘、別れ……などの卑近な、そして永遠のテーマ。しかし、『屋根の上のバイオリン弾き』の魅力は、何より関係者らの迸る情熱の“幸運な出会い”にあったのだ、ということを本作は教えてくれる。ノーマン・ジュイソン監督と周囲の製作者との極めて緻密な計算と対話によって実現した壮大な製作秘話が、名作『屋根の上のバイオリン弾き』を何倍も面白く深く私たちの心に蘇らせてゆく。

かつて『屋根の上のバイオリン弾き』をミュージカルや映画で観たことのある人にとってはもちろん、ない人にとってもきっと、意味深く稀少な一作となるだろう。

 

『屋根の上のバイオリン弾き』【あらすじ】

テヴィエはウクライナ地方の小さな村アナテフカ(Anatevka)で酪農を営むユダヤ人男性。亭主関白を気取ってはいるがその実、妻には頭が上がらないお人好し。5人の娘に囲まれ、ユダヤ教の戒律を厳格に守ってつましくも幸せな毎日を送っていた。

テヴィエは娘たちの幸せを願いそれぞれに裕福な結婚相手を見つけようと骨を折る。年頃の娘たちも最大の関心事は自分たちの結婚だ。

ある日、長女のツァイテルと険悪な肉屋のラザールとの結婚話が舞い込むが、彼女にはすでに貧しい仕立屋のモーテルという恋人がいた。ユダヤの厳格な戒律と“しきたり”に倣い、両親の祝福が無ければ結婚は許されない。テヴィエは猛反対するが、2人は紆余曲折を経て結婚する。また、次女ホーデルは革命を夢見る学生闘士パーチックと恋仲になり、逮捕されたパーチックを追ってシベリアへ発ち、さらに三女は、ロシア青年フョートカとロシア正教会で結婚して駆け落ちしてしまう。一方、周りでは「ポグロム」(ユダヤ人排斥)が次第にエスカレートする。村全体の追放に至り、テヴィエたちは着の身着のまま住み慣れた村を追われることになる──。

《ミュージカル版》
脚本: ジョゼフ・スタイン (Joseph Stein)
作詞: シェルダン・ハーニック (Sheldon Harnick)
作曲: ジェリー・ボック (Jerry Bock)
製作: ハロルド・プリンス (Harold Prince)
演出・振付: ジェローム・ロビンズ (Jerome Robbins)

《映画版》
製作・公開:1971年
監督・製作:ノーマン・ジュイソン
脚本:ジョセフ・スタイン(英語版)
原作:ショーレム・アレイヘム(「牛乳屋テヴィエ」)
製作総指揮:グラハム・プレース
音楽:ジョン・ウィリアムズ|シェルダン・ハーニック|ジェリー・ボック
アカデミー賞3部門(撮影賞・音楽賞・音響賞)受賞、作品賞 主演男優賞 監督賞他6部門ノミネート
ゴールデン・グローブ賞作品賞(コメディ・ミュージカル)男優賞(コメディ・ミュージカル)受賞

*参考
Wikipedia「屋根の上のバイオリン弾き」
ミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」日生劇場公式サイト

 

 

ダニエル・レイム 監督コメント



私のドキュメンタリーは映画の歴史を記録するものであると同時に、映画に携わるアーティストたちのポートレートを通して、映画の芸術性、技術、魂を記録するものである。

1999年、アメリカン・フィルム・インスティテュートの最終学年に在籍していた時に、ノーマン・ジュイソン監督に出会った。当時、師であり美術監督であるロバート・F・ボイル(※①)のドキュメンタリーを撮り始めていたところだった。ボイルは『北北西に進路を取れ』(※②)を含む何本かで、アルフレッド・ヒッチコック監督と組み、ジュイソン監督とは『華麗なる賭け』(※③)や、『屋根の上のバイオリン弾き』などのメジャー作品で組んでいた。『屋根の上のバイオリン弾き』について私がボイルとジュイソンにインタビューしたのは、私の短編ドキュメンタリーがオスカー候補となった年だった。

映画『屋根の上のバイオリン弾き』は、ホロコーストを生き延びた祖父母に勧められて、子供の時に見た。ジュイソンの映画は、ボイルが手がけたプロダクション・デザインの視覚的な驚きやその根底にある緻密なリサーチとも相まって、祖父母が失い、地上からもすっかり消えてしまった故郷への窓を開いてくれた。

私は短編製作後も『屋根の上のバイオリン弾き』のキャストやスタッフに、更に深いインタビューを行い、その製作過程や裏側にあった出来事を追い続けた。2009年に主演トポルのインタビューを撮影。2016年に監督のノーマン・ジュイソン、2017年に作詞のシェルドン・ハーニック、2021年に音楽のジョン・ウィリアムズ、映画批評家のケネス・トゥラン、そして、テヴィエの娘たちを演じた3人の俳優へのインタビューを撮影した。

『屋根の上のバイオリン弾き物語』は何年もかけて撮った本物の愛のこもった作品である。ジュイソン監督の芸術性、共感力、ヒューマンな部分を伝えたかっただけではなく、監督が『屋根の上のバイオリン弾き』を撮る過程で辿った心と創造の旅を、ドキュメンタリーとして遺したかった。

※①ロバート・F・ボイル: Robert F. Boyle(1909年~2010年)米国のアートディレクター。『屋根の上のバイオリン弾き』でアカデミー賞候補に。
※②『北北西に進路を取れ』:原題North by Northwest/1959年/米国/ヒッチコック監督/ケーリー・グラント主演/1959年アカデミー賞最優秀脚本賞他ノミネート
※③『華麗なる賭け』:原題The Thomas Crown Affair/1968年/ノーマン・ジュイスン
スティーブ・マックィーン&フェイ・ダナウェイ出演/19671967年アカデミー賞最優秀主題歌賞他多数年アカデミー賞最優秀主題歌賞他多数受賞受賞

ダニエル・レイム
監督・製作・共同脚本・編集
ロサンゼルスのアメリカン・フィルム・インスティテュートに学ぶ。ハリウッドの黄金期を支えたアーティストに光を当てた"The Man on Lincoln's Nose"は、2001年アカデミー賞最優秀短編ドキュメンタリー映画賞にノミネート。2015年の『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』はカンヌ国際映画祭オフィシャル・セレクションでプレミア上映され、最優秀ドキュメンタリー作品に贈られるルイユ・ドール(金の眼賞)を受賞。劇場用の作品以外にも、クライテリオン・コレクションのオリジナル・ドキュメンタリーも28本手がけ、ジョン・カサヴェテス、バスター・キートン、アンドレイ・タルコフスキー、ケリー・ライカート等の重要な監督たちを取り上げている。2019年、長編ドキュメンタリー"Image Makers: The Adventures of America’s Pioneer Cinematographers"を製作・監督。

 

『屋根の上のバイオリン弾き物語』予告編


主人公テヴィエ役のトポルさん 晩年のインタビュー映像

 

公式サイト

 

2023年3月31日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー

 

監督・製作・編集:ダニエル・レイム
脚本:ダニエル・レイム/マイケル・スラゴウ
製作:サーシャ・バーマン
製作総指揮:マシュー・H・バーンスタイン
共同製作/ナレーション台本/リサーチ:マイケル・スラゴウ
撮影:シニサ・クキッチ
音楽:デヴィッド・レヴォルト

出演:ノーマン・ジュイソン/ロバート・ボイル/ジョン・ウィリアムズ/トポル
ナレーション:ジェフ・ゴールドブラム(『ジュラシック・パーク』『ザ・フライ』)
オリジナル・インタビュー:ダニエル・レイム

配給:パンドラ

2022年/米国/カラー/英語/88 分/原題:Fiddler’s Journey to the Big Screen

© 2022 Adama Films, LLC

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