『Not famous man ~流浪のうどん職人 ニューヨークへ行く~』“出張専門讃岐うどん職人”小野ウどんの生き様を見ることで、刺激的な日々の第一歩が踏み出せるかもしれない
“出張専門讃岐うどん職人”、小野ウどん。タイトルにもあるように、決して有名ではないのにも関わらず、なぜ彼の映画が撮られたのか。それは、小野ウどんの生き方・人生観にありそうだ。
元々コンサルの会社に新卒で就職した彼は、一年で仕事を辞め、路頭に迷っていた。やりたいことも一切なかったときに、「職人へのあこがれ」「麺類が好き」「日本が好き」というところから、心機一転「うどん職人」の道を目指すようになる。水天宮にある谷やなどうどんの名店やチェーンで修業を積んだ小野は、変化を求めて独立。そこから“出張専門讃岐うどん職人”の道が始まった。本作が撮影された2017年当時、家も店もお金もなく、車上で生活をしながら全国を転々としていた小野は、更なる変化を求め、単独で渡米しニューヨークでうどんパフォーマンスを行うというチャレンジへと突き進み始める。
彼の夢は、日本独自のうどんの文化を守り、うどん職人の価値を高めること。うどん職人はカッコよく、面白いものであると認知してもらい、次世代の担い手を増やしていく。今までの職人に対するお堅いイメージを変革するために、小野は「UDON is ROCK」の文言を掲げ、音楽と合わせてうどんを打つパフォーマンスに取り組むようになる。
一般的な感覚で言えば、彼は非常にリスキーな生き方をしている。いつ収入が途絶えてしまうか想像もつかなければ、夢も実現できるか分からない。安定とは程遠い生き方と言っていいだろう。しかし、小野は「留まることの方が不安」であり、「動くことでしか不安は拭えない」と語る。変化することや人生そのものに対して小野がポジティブでい続けられるのは、彼が一度人生のどん底を経験したからかもしれない。
似たような毎日の繰り返し、刺激のない日々に飽き飽きしている人も多いのではないだろうか。案ずるより産むが易し。『Not famous man ~流浪のうどん職人 ニューヨークへ行く~』を観ることで、刺激的な日々の第一歩が踏み出せるかもしれない。
本作を上映するアップリンク吉祥寺では、来場者全員に小野ウどん特製、手打ち生麺のプレゼントもあるため、是非実際に映画を観てうどんを味わってみてはいかがだろうか。
ハヤシテツタロウ監督インタビュー
──なぜ、小野ウどんさんを撮ろうと思ったのか?
思いつきはしても実行しない事の方が人生は多いけど、人が後悔するのって大体実行しなかった時で、何か挑戦して失敗してもやらなきゃよかったって思うことより、失敗したけどやってよかったって感じることの方が多いと思うんです。
小野くんはすぐ行動するので後悔が少ない生き方になっているなと。そういう風に生き続けることはできるのか?というのはみんな疑問に感じる部分だと思うし、それは実際にどれくらい大変なのか、僕も興味があって撮ってみようと思いました。
──このドキュメンタリーはどんな事を意識して撮り始めましたか?
当時、大手企業に勤めていて自殺してしまった若い女性がいて、良い大学を出て収入が良い会社に就職して、小野くんと歳も1つしか変わらない方だったんですけど、僕はその事件が自分の中でなんだかずっと引っかかっていました。
その方が仕事のストレスを苦に自殺してしまう現実と、状況は違えどブラック企業に勤めていた小野くんが『うどん職人になって家も金もないのに車上生活をして楽しく生きている』という現実の両方があることにまた引っかかったんです。
「金があればいいっていうもんでもない」なんてことは言われて久しいですが、じゃあなにがあればいいの?というところはこの映像を撮りながら意識した部分でした。
──作品としては軽くてポップな印象だが、意図した演出なのか?
めちゃくちゃ意図しました。この作品を観た友人からは「これはドキュメンタリー映画というより、エッセイ映画だね」と言われたりもしたんです。そういう軽くて笑えるドキュメンタリーがあったらいいのに、と前から思っていたこともあって、実験的にやってみたところもあります。
──この映画をどんな⼈に観てほしいか?
今の仕事を辞めて職人になったり、家を捨てて車上生活するということに踏み切るのは、当然現実的にはなかなか難しいですよね。でも彼はいったん今ある生活を捨てて「ちょっと違う世界に行ってみたい」と実行してみることで自分なりの自由と新しい経験みたいなものをちゃんと手に入れたと思います。
生活を現状維持したいのは人間の性だと思うんですが、家が無くて車の中で寝泊まりしても、別に楽しく生きていけるんだっていう感覚があるとなんか、どうでもよくなるじゃないですか。笑 現状維持に固執することがバカバカしくなってくるというか。
僕は小野くんはなにか特別な才能がある人間ではないと思っています。でも変化を恐れないでどんどん動くという点においては圧倒的です。その先には昨日までと違う新しい日常があるかもしれないし、それは誰にでも起こり得る特別な体験なんじゃないかと思っています。僕自身、このドキュメンタリーを撮影するということは新しい体験ができるかもしれないと期待してのことでした。
仕事や現状が膠着していて悩んでいる人がこのドキュメンタリーを観て気楽になったり「執着するの一回やめてうどんでも食うか」と思ってくれたら嬉しいですね。笑
ストーリー
2017年、都内某所にカーテンで中が見えない一台の車が停まっている。寝起きの顔で中から現れたのは、小野ウどん(当時27歳)。家も店も持たず、車上生活をしながら“出張専門讃岐うどん職人”として活動している。
音楽に合わせてうどんを打つパフォーマンスを携えて、依頼さえあれば日本中どこでも移動してうどんを打つ日々のなか、小野ウどんは新しい冒険に出たいと考える。「ニューヨークでうどんパフォーマンスをしたい。」クラ“うどん”ファンディングにて資金集めを開始すると、わずか4日間で目標金額を達成。
小野ウどんの日本での生活と、単身渡米したニューヨークでの10日間を収めた、波瀾万丈かと思いきや、そんなにエモい感じでもない日常系ドキュメンタリー。
予告編
公式サイト
3月31日(金)~4月6日(木) アップリンク吉祥寺にて公開
監督・撮影・編集:ハヤシテツタロウ
出演:小野ウどん
主題歌:『不安でも移動』シャムキャッツ
技術協力:cunel inc.
製作:ABANK inc.
2023年/日本/カラー/ステレオ/16:9/DCP
配給:株式会社アバンク
© HAYASHI TETSUTAROU & ABANK inc.