『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』生前の肉声、名曲の数々、未公開映像などによって構成されたデヴィッド・ボウイ財団初の公式認定ドキュメンタリー
2016年1月10日に闘病の末この世を去った類まれなロック・スター、デヴィッド・ボウイ。音楽界に限らず、一人の表現者として世界中に与えた影響は計り知れない。彼のことを描いた映画は既にいくつか存在しているが、『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』はデヴィッド・ボウイ財団が始めて公式に認定したドキュメンタリーだ。
本作にはナレーションや関係者へのインタビューは一切ない。そして、日付や名前などの情報もほとんどみられない。これは本作を観て、内容を吸収する上で観客が余計な情報から解放されてほしいと監督が意図したためだ。ボウイの生前の肉声、40曲にもわたる名曲の数々、ライブパフォーマンスやボウイ自身が30年にわたり保管してきた未公開映像などによってのみ本作は構成されている。まさに“デヴィッド・ボウイづくし”であり、彼の人生や生き様を追体験できる作品となっている。
また、至る所に『メトロポリス』(1927)や『ラビッツ・ムーン』(1950)といった映画作品等の断片的な映像が差し込まれている。それらの映像について監督はインタビューで次のように語っている。
「彼が人生のどこかで影響、あるいはインスピレーションを受けた映画、哲学者、ライターのものだ。それらをこの映画のビジュアルな語彙として使いたかった」
今もなお影響を与え続けているデヴィッド・ボウイが、一体どんなものからインスピレーションを得ていたのか、ファンであれば非常に気になるポイントではないだろうか。
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『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』は、作品全体がデヴィッド・ボウイの要素を凝縮したMVと言っても過言ではない。音楽監督はボウイの長年の創作パートナーであったトニー・ヴィスコンティが務めているため、その他の演出も含め、もしかするとボウイ本人の理想に最も近い形で実現されたドキュメンタリーかもしれない。
本作は、劇場の大きなスクリーンで、五感をフル活用して全身で感じるべき作品だろう。
ブレット・モーゲン監督インタビュー
――本作はどのような経緯を経て生まれたのですか?
2015年ごろ、ノンフィクション、伝記物というジャンルを新しい形で探索したいと思うようになったんだ。僕は2007年にデヴィッド(・ボウイ)と会って、ハイブリッドなドキュメンタリーを一緒に作ることについて話した。その映画のためには40日ほど彼を撮影することが必要だったが、その段階で彼はもう半分引退していたので、話は先に進まなかった。その話し合いについて知っていた彼のマネージャーは、僕に、「デヴィッドはあなたがあのミーティングを持ってくれたことに感謝しています。でも、今はそれをやる時ではないと思っています」と電話をくれたよ。
デヴィッドがそのプロジェクトを見送った後、僕はデヴィッド・ボウイ財団に連絡をした。迫力ある劇場体験を与える、普通の伝記物ではないものを作ってみたいと思ったんだ。僕はキャリアにおいてずっと伝記物のノンフィクションを手がけてきた。『くたばれ!ハリウッド』や『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』などだ。それらの映画を作る時、僕はいつも「この映画で、本ではできないことをやるとしたら何だろうか?」と自分に問いかける。私はとても有名な人たちをテーマとして取り上げる。その人たちについて、私は、シネマティックな体験を与える形で映画を作りたい。必ずしもいつだったのかなど日時を重視するのではなく、それと並行して存在するものを意識しているんだ。
デヴィッドの遺言執行人は、デヴィッドは人生でほとんどのものを保存してきたが、それをどうすればいいのかわからない、普通のドキュメンタリーにはしたくないと思っていたと僕に言ってきたんだ。僕のアプローチであれば、デヴィッドは興味を持ってくれたのではないかと。だけど、その段階で自分がこの映画をどんな方向に持っていくのか、僕はまったく想像していなかった。その時はまだデヴィッドのインタビューを聴き始めていなかったからだ。僕が知っていたのは彼の音楽とアートだけだったんだ。
そうやって、テーマパークの乗り物のような迫力あるものを作るというコンセプトは、次第に、魂に訴えかける、人生について語るものへと変化していったんだ。この映画を作り始めた時、僕は心臓発作を起こし、1週間昏睡状態に陥った。偶然にもそんなことがあって、僕はその視点からリサーチを始めたんだよ。だから、歳を取ることや人はいつか死ぬこと、スピリチュアリティについてのデヴィッドの哲学に、僕はとても共感できた。僕の人生にはそれが欠けていたんだ。完成した映画には、自分の人生における過去5年間のスタンプが押されていると思う。デヴィッドは、20世紀の終わり頃をどんな歴史の本よりも明確に記した歴史家で、文化の人類学者だったと言っていい。デヴィッドの歴史にはもちろん事実、時期、情報があるが、僕は神話を言葉で語り伝えた昔のようなアプローチをした。この映画は、デヴィッドが人生をどう見つめてきたのかを語るものだ。
――今作は印象派的です。アニメーションやほかの映像もミックスされていますが、それらはどのように選んだのですか?
この映画に入っているそれらの映像はデヴィッドによるものではなく、彼が人生のどこかで影響、あるいはインスピレーションを受けた映画、哲学者、ライターのものだ。デビッドは文化にとても詳しく、彼の歌にもあちこちにそれらの引用がある。それらすべてを見つけて追いかけるのは大変だよ。ティーンエイジャーだった頃、僕はデヴィッドを通してウィリアム・バロウズや歌舞伎を発見した。僕はそれらをこの映画のビジュアルな語彙として使いたかった。
――それだけ長い時間を費やして彼を見つめてきた今、デヴィッド・ボウイはどんな人だったと思いますか?
その質問には答がたくさんある。だが、一番大きなのは、彼はすごく早い時期から人生とは限りがあり、貴重なものだと理解し、すべての瞬間を成長の機会に利用した人だということ。悟りの境地に達したいからではなく、毎日を満足のいくように過ごしたかったんだよ。彼は人生を冒険と見ていた。多くの人は、安全で、あまり変わりのない日常を好む。その心地良い日常では、できる体験に限りがある。
彼は人生と芸術にそんな姿勢でアプローチしただけでなく、すべての瞬間にしっかりと向き合った。そんな彼の姿勢に、僕は強いインスピレーションを受けたよ。デヴィッドのような優れたアーティストは、僕らが感じない波長を感じられるのだと思う。彼は未来派主義者だったのではなく、世界や環境について、自分が受け止めた瞬間に描写していたんだ。ほかの人たちよりずっと先に、彼はそれらの波長を感じていた。あらゆる意味で、僕らは今になってようやくボウイの時代に追いついたと言える。
監督プロフィール
ドキュメンタリーの分野で活動する映像作家。1968年、米ロサンゼルス生まれ。’99年に『On The Ropes』(原題)でアカデミー長編ドキュメンタリー賞にノミネートされ、注目を集めた。『ゴッドファーザー』などで知られる映画プロデューサー、ロバート・エヴァンスにスポットを当てた『くたばれ!ハリウッド』(2002)も好評を博す。ザ・ローリング・ストーンズを扱った『クロスファイアー・ハリケーン』(2012)では、『ムーンエイジ・デイドリーム』と同様に膨大なアーカイブから貴重な映像を選り抜き、彼らの1960~70年代の激動の歩みを時代背景とともに浮かび上がらせた。同じく音楽ドキュメンタリー『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』では90年代のカリスマとなったニルヴァーナの故カート・コバーンをクローズアップ。2017年のTV作品『ジェーン』ではエミー賞の監督賞を受賞している。
ストーリー
現代において最も影響力のあるアーティストにして“伝説のロック・スター” デヴィッド・ボウイの人生と才能に焦点を当てる『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』。30年にわたり人知れずボウイが保管していたアーカイブから選りすぐった未公開映像と「スターマン」「チェンジズ」「スペイス・オディティ」「月世界の白昼夢」など40曲にわたるボウイの名曲で構成する珠玉のドキュメンタリー映画。デヴィッド・ボウイとは一体何者だったのかー。観客はボウイの音楽、クリエイティブ、精神の旅路を追体験する。本作は全編にわたりデヴィッド・ボウイのモノローグで導かれ、デヴィッド・ボウイ財団唯一の公式認定ドキュメンタリー映画となっている。
予告編
公式サイト
3月24日(金) アップリンク吉祥寺ほかにてIMAX/Dolby Atmos同時公開
監督・脚本・編集・製作:ブレット・モーゲン
音楽:トニー・ヴィスコンティ
音響:ポール・マッセイ
出演:デヴィッド・ボウイ
2022年/ドイツ・アメリカ/英語/135分/カラー/スコープサイズ/原題:MOONAGE DAYDREAM
字幕:石田泰子 字幕監修:大鷹俊一
配給:パルコ、ユニバーサル映画 宣伝:スキップ
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