『赦し』加害者も被害者遺族も囚われの身になった様を描く

『赦し』加害者も被害者遺族も囚われの身になった様を描く

2023-03-17 11:11:00

『赦し』は、インド出身、アニメーターの経験を経て、日本の田舎町を舞台にした2019年制作の『コントラ』でエストニアのタリン・ブラックナイト映画祭でグランプリ、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭の国内コンペティション長編部門で優秀作品賞を受賞し注目を集めた、日本在住のアンシュル・チョウハン監督作品だ。

高校生の時に同級生を殺した罪で懲役20年の刑に服している福田夏奈(松浦りょう)、彼女に娘を殺された父、克(尚玄)と母、澄子(MEGUMI)の3人からなる物語。当時の社会において、未成年の刑期が20年というのは長すぎるとして減刑を求める裁判が始まり、物語は動き出す。

タイトルの「赦し」に関して言えば、被害者の両親が加害者の夏奈をどう赦すかが焦点になるのだが、赦すという感情は自身の感情と向き合うことであり、赦すことは自身の感情の解放につながることは想像できる。逆に考えれば、赦さない限り自身は怒りや復讐という感情の囚われの身なのだ。

チョウハン監督は、その辺りをこう語る。「海外セールス用のトレーラーには”ひとつの殺人事件、牢獄に入った3人”というキャプションをつけていますが、これが本作の本質をよく表しています。つまり、7年前に起こった殺人事件で刑務所の檻の中に入れられたのは夏奈ひとりですが、被害者遺族の克と澄子も精神的な牢獄に閉じ込められている、ということです」

裁判シーンをはじめ3人の感情が激しく現れる様を、カメラは抑制したトーンで捉えていく。3人が囚われの身から解放されるのかは映画館で見届けてほしい。

アンシュル・チョウハン監督インタビュー

──本作の英語タイトルは「DECEMBER」、邦題は『赦し』です。それぞれの題名にこめられた意味を語ってください。

劇中では“12月”という季節を強調してるわけではないので、「DECEMBER」という題名を不思議がる人もいるかもしれません。しかし、この物語のすべての起源である殺人事件は12月に起こった。海外ではこのシンプルな題名がとてもキャッチーに響き、強い印象を与えられるだろうと思いました。邦題については配給、宣伝のチームと話し合って決めました。もちろん“赦し”は本作の重要なテーマですが、僕自身は人間が他者を赦すことは容易でないと考えています。例えば、激しくケンカをした相手に「ゆるすよ」と表面上は言葉で和解したとしても、心の中にずっとしこりが残り続けることはありえますよね。殺人ならなおさらでしょう。本作のラスト直前、克が廊下から法廷内の夏奈を覗き見るシーンがありますが、この描写にはひょっとすると彼はまだ復讐を諦めていないのかもしれない、というニュアンスをこめています。つまり僕は克が“赦した”というハッピーエンドを描きたかったのではなく、「人は人を赦せるのか」という問いの答えを観客の皆さんそれぞれに委ねたかったのです。

監督プロフィール

1986年北インド生まれ。 陸軍士官学校で訓練を受け、大学にて文学士を取得した後、 アニメーターとして2006年からパプリカスタジオ (現:テクニカラー・インド) にて働き始め、ニコロデオンの 『Farm Kids』 や 『Back at the Barnyard』、 国際的な受賞歴もある 『Delhi Safari 』などのプロジェクトに携わる。 また、 BBCテレビ 『Everything's Rosie』 においては、チームリードを務める。2011年に東京へと拠点を移し、最初に働いた株式会社ポリゴン・ピクチャーズでは、エミー賞を獲得したディズニーXD 『トロン:ライジング』 や 『超ロボット生命体トランスフォーマープライム』などに携わる。その後、 株式会社オー・エル・エムにてバンダイナムコ『パックワールド』の制作に関わり、 株式会社スクウェア・エニックスへ移ると、ファイナルファンタジーXV』 や 『キングズグレイブ:ファイナルファンタジーXV』、『キングダムハーツ3』そして『ガンツ:オー』、『ファイナルファンタジーVII リメイク』 など、 多岐主要プロジェクトに関わる。 アニメーターとして日本で働く傍ら、 自主制作への情熱も芽生えた彼は、2016年に Kowatanda Films (コワタンダ・フィルムズ)として活動を始め、これまでに短編映画3作と長編映画2作を完成させる。 中でも長編2作目となった 『コントラ』は、 国際的な認知度が高く、 ジャパン・カッツの大林賞受賞を含め、 世界各国の映画祭にて様々な受賞を遂げている。

ストーリー

かつて17歳の少女だった夏奈は、同級生の少女を殺害した。あれから7年、20年の刑を受けた夏奈に再審の機会が与えられ、釈放される可能性があると連絡を受けた被害者の父・克と、別れた元妻・澄子。二人はともに法廷に赴き裁判の経過を見守ることになるが・・・。
当時の裁判では殺害にいたる経緯を話すことなく、検察の請求のままに刑が確定した夏奈。再審請求は、被害者の親二人の心を大きく揺さぶっていく。7年が経っても決して薄れることのない彼女への怒りと憎しみは、周りを巻き込みながら大きく変転をしていくのだった。加害者の夏奈だけではなく、まるで囚人のように「娘を殺されたこと」への怒りから逃れることのできない、かつての親たち。
そこから人はどうやって一歩進んでいくのか?

 

予告編

 

公式サイト

3月18日(土) ユーロスペース、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
3月24日(金)よりアップリンク京都にて公開

監督・編集:アンシュル・チョウハン 
プロデューサー:山下貴裕、茂木美那、アンシュル・チョウハン
エグゼクティブ・プロデューサー:サイモン・クロウ、ランカスター文江
アソシエイト・プロデューサー:前田けゑ、澤繁実、岡田真一、木川良弘
脚本:ランド・コルター
撮影:ピーター・モエン・ジェンセン 音楽:香田悠真
出演:尚玄、MEGUMI、松浦りょう、生津徹、成海花音、藤森慎吾、真矢ミキ

2022年/日本/日本語/98分/カラー/2:1/5.1ch/原題(英語題):DECEMBER

助成:文化庁
製作プロダクション:KOWATANDA FILMS、YAMAN FILMS
配給:彩プロ

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