『ひとりぼっちじゃない』ビジュアル・コンシャス、サウンド・コンシャスな伊藤ちひろ監督デビュー作
『ひとりぼっちじゃない』はビジュアル・コンシャス、サウンド・コンシャスな映画だ。
グリーンを基調に全ての画面が設計されている。濃いグリーンに合わせるならオレンジというのは一つの配色のセオリーだろう。本作の中盤でそのオレンジの塊が差し色として一瞬横切るシーンが美しい。
サウンドもカラーと同じく、そのシーンの世界を作り上げる重要な要素としてリアルな環境音ではなく登場人物の心情と、物語を感じさせる音として設計されている。
本作がデビュー作となる監督の伊藤ちひろは、美術・装飾スタッフとして映画界入りし、行定監督に見出され脚本を描き始め『世界の中心で、愛をさけぶ』に脚本家として大抜擢された。
本作は、彼女の美術と脚本という二つの才能が融合し結実した作品だ。物語としては、人付き合いが下手な歯医者とアロマの店を営むどこか秘密を抱えた恋人、そしてその恋人の友人という3人の登場人物からなる恋愛映画の骨格が透けて見えなくもないが、不穏と言っていいのか、異世界と言っていいのか、それは霧のようであり、小雨のようであり、春から梅雨へ変わる季節の変わり目のようでもあり、爽やかさとは程遠い湿度が高い感じで、とにかくへんな空気が画面を覆い尽くしていく。
監督は自らこの映画を評して「ある意味、この映画はホラーです」と言い切る。
そして、監督の感覚的な世界を演じた俳優を伊藤監督はこう評している。
「捉えどころのない漆黒の魅力を内包する馬場ふみかさん、鋭い視線で魅惑的な妖気が漂う河合優実さん、そして、わたしの曖昧なイメージを具現化し愛すべきキャラクターに創り上げてくれた井口理さんの存在に支えられてこの映画は誕生しました」
映画館でしか感じることのできない映画『ひとりぼっちじゃない』をぜひ体験してみてはどうだろうか。
伊藤ちひろ監督コメント
相手の真意を察することの難しさ、妄想は広がっていくけど、なかなか答えに辿り着けない、そういう経験をしたことのある方は多いはず。これが恋となれば、ひどく自分の感情がこじれていく。相手の表情や言葉にいくら注意を向けても心を丸ごと見透すなんて不可能だから、コミュニケーションの向き合い方にうまく折り合いをつけられないと苦しくなっていく。その感覚をそのまま映画にしようと思いました。
監督プロフィール
『Seventh Anniversary』(2003)で脚本デビュー。その後、『世界の中心で、愛をさけぶ』(2003)に大抜擢され、『春の雪』(2005)、『クローズド・ノート』(2007)など行定勲とタッグを組んでヒット作を発表する。その他の作品に、ヴェネチア国際映画祭コンペディションに選出された『スカイ・クロラ』(押井守監督)、『今度は愛妻家』、『真夜中の五分前』など。活躍は映画にとどまらず、神奈川県立芸術劇場(KAAT)のこけら落とし作品「金閣寺」(宮本亜門演出)の上演台本を手掛ける。近年では堀泉杏名義で『ナラタージュ』、『窮鼠はチーズの夢を見る』などがある。本作の原作である『ひとりぼっちじゃない』(KADOKAWA刊)は10年の歳月をかけて上梓、本作が劇場映画初監督作品となる。
ストーリー
人とうまくコミュニケーションのとれない、歯科医のススメが恋をしたのは、アロマ店を営む宮子。しかしながら宮子は、部屋に鍵をかけず、突如連絡が取れなくなったりする、つかみどころがない女性だった。それでも、彼女と抱き合っていると、ススメは自分を縛っている自意識から解放される気がしていた。自分でも理解できない自分を宮子は理解してくれている、ススメはそれがうれしかった。けれど、謎の多い宮子を前に、自分は彼女のことを理解できていない、と思い悩むススメ。
ある日、宮子の友達である蓉子が、ススメに宮子の身に起きた驚きの事実を告げる──。
予告編
公式サイト
3月10日(金) アップリンク吉祥寺ほか全国公開
監督・脚本:伊藤ちひろ
エグゼクティブプロデューサー:古賀俊輔、倉田奏補、吉村和文、吉永弥生
企画・プロデュース:行定勲
原作:伊藤ちひろ「ひとりぼっちじゃない」(KADOKAWA 刊)
2023年/日本/135分/PG12
宣伝:満塁
配給:パルコ
©2023「ひとりぼっちじゃない」製作委員会