『丘の上の本屋さん』イタリア中部の美しい街を舞台に、“本”を通して老人と少年が交流する心あたたまる物語

『丘の上の本屋さん』イタリア中部の美しい街を舞台に、“本”を通して老人と少年が交流する心あたたまる物語

2023-03-02 10:00:00

本作は、純粋に本を読むことの豊かさ、次々と新たな世界に没入してゆくあの喜びや、現実世界とリンクした時の胸の高鳴りを分かち合える、世界中の本好きのための映画である。

舞台はイタリア中部に位置するアブルッツォ州テーラモ県のチヴィテッラ・デル・トロントにある丘の上の小さな古書店。“イタリアの最も美しい村”のひとつに数えられる、歴史ある石造りの街並みの美しさは桁違いで、なによりもまず、映像の美しさに見惚れてしまう。

古書店の店主リベロは、店先で買えないまま本を眺めていたブルキナファソの移民の少年エシエンに声を掛け、コミック、児童文学、小説、専門書まで次々と店の本を貸し与えてゆく。これまで数々の名作に登場してきた、そして本作でも描かれている「老人と少年」のモチーフは、この街の古書店にぴったりだ。

また、リベロとエシエンの交流を軸として、古書店に集まる個性的な人々との日常を綴ったサイドストーリーがスパイスを添える。リベロが、カフェから道ゆく人を眺めるように、古書店に集まる人々を定点観測する様がいかにもヨーロッパらしく、たまたま手にした名もなき女性の日記に書かれた物語が、メインの物語に併走し、店主リベロの人生と呼応してゆく仕掛けも印象的だ。特別にしつらえられた発禁本の棚を眺めながら、今や著名な教育本が、発禁本となっていた時代があったことを知るのも面白い。

監督を務めるのは、脚本家、作家でもあり、本作でなぞなぞ好きの男役として出演もしているイタリア・ローマ出身のクラウディオ・ロッシ・マッシミ。本作は、2021年にアテネ国際月間芸術映画祭の名誉賞、ヴェスヴィオ国際映画祭の主演男優賞、アンダー・ザ・スターズ国際映画祭の最優秀作品賞をはじめ多くの賞に輝いた。

古書店の店主リベロ役には「フォードvsフェラーリ」「我が名はヴェンデッタ」で知られるレモ・ジローネ。少年エシエン役には、本作が映画初出演のディディー・ローレンツ・チュンブ。隣のカフェのウエイターニコラ役に『シチリア!シチリア!』(09)や『ローマでアモーレ』(12)のコッラード・フォルトゥーナ。『親愛なる日記』(93)や『アンネの追憶』(09)に出演する俳優、劇作家のモーニ・オヴァディアも、客の1人として特別出演している。

また、製作にはユニセフ・イタリアがパートナーとして参加している。エシエンの母国ブルキナファソは、アフリカ大陸のサハラ砂漠の南に位置する小国で、マリやコートジボワールなど6ヵ国と隣接する内陸国。世界で最も貧しい国のひとつとされ、保健、栄養、衛生面の問題により、5歳未満時の死亡率は日本の44倍だという(日本ユニセフ協会HPより)。本作は、劣悪な環境下で暮らす子どもたちが、エシエンの後ろにまだまだ大勢いることを静かに訴えてもいる。

本との出会いに救われ導かれた経験をもっている。でも、日常の些末な雑務に追われるうち、いつの頃からか読書の純粋な喜びを忘れてしまった……そんな大人たちへ。この映画は、子供の頃に図書館で読んでワクワクした本のこと、学生時代に徹夜して読み耽った本のことを思い出させてくれる。そしてまた、必要に迫られて読むのではなく、純粋な好奇心でページをめくっていたあの頃の感覚を蘇らせ、今再び、本を通して味わう新たな発見の旅へと優しく背中を押してくれる。

 

ストーリー

イタリアの風光明媚な丘陵地帯を見下ろす丘の上の小さな古書店。
店主リベロは、ある日、店の外で本を眺める移民の少年エシエンに声を掛け、好奇心旺盛なエシエンを気に入ってコミックから長編大作まで次々と店の本を貸し与えていく。リベロが語る読書の素晴らしさに熱心に耳を傾けるエシエン。感想を語り合ううちに、いつしか2人は友情で結ばれていく……。

 

 

クラウディオ・ロッシ・マッシミ 監督インタビュー

――本作では脚本も手掛けていらっしゃいますが、どのようなきっかけで本作のアイデアが生まれたのでしょうか。さらに、本作はイタリア・ユニセフ協会との共同プロジェクトですが、どのような経緯で実現したのでしょうか。

現代では多くの映画が作られていますが、特殊効果を使ったり、もしくはバイオレンスの多い、そういう映画ばかりで、人間の優しさや自分以外の人に対する愛を語っているものが非常に少ないと思っていました。さらに昨今、イタリアでは外から来た人達を自分達とどうやって一体化していくかということについて問題を抱えていて、それに抵抗している人々がたくさんいる。世界に属するという意味では、みな平等なんだということを分かってくれる人がとても少ないんですね。そのため、この映画を通してその話題を語ろうと思いました。

それは文化と愛があることによって可能になると思っていて、その愛というのはこの映画の中で、リベロの、移民の子どもに対する愛によって表現されています。ユニセフと共同で取り組むことが必要だと思って、私たちのほうからユニセフにコンタクトしました。ユニセフはとても喜んでくれましたね。


――物語の舞台となる「チヴィテッラ・デル・トロント」の、丘の上から眺める美しい景色や歴史ある街並みは素晴らしいですね。ここを撮影地に選んだ理由について教えてください。

チヴィテッラ・デル・トロントのことは元から知っていて、映画のロケーションをどこにしようかと構想していた時に、すぐにこの場所が思い浮かびました。大都市ではない、アンティークな雰囲気のある小さな村がよかったんです。

リベロの本屋がある広場から見える風景が本当に素晴らしいところで、アペニン山脈で一番高い山として有名なグラン・サッソと、アドリア海の両方がそこから見渡すことができる。また、この広場のすぐそばに中世のお城があったり、リベロの本屋は元々、薪や農具などが収納されていた古い倉庫だったのですが、その建物自体もとてもアンティークなのが気に入ってこの場所を選びました。

――リベロがエシエンに貸す本の数々は、「星の王子さま」など日本でも馴染み深い作品も多いのですが、どのような意図でこの本を選んだのでしょうか。監督自身が特に思い入れのある一冊があれば、ぜひ教えてください。映画に登場しない本でも構いません。

エシエンに渡される本は、イタリアでは一般的に子どもたちが育つ過程で読む本で、私が子どもの時にこの順番で読んだかというとちょっと覚えていないんですが、もちろん自分でも読んだ本です。私自身が住んでいたアパートには、両親の本が1万3千冊くらいあって、本が人生の基礎のような、そういう本との付き合いでした。そのため、周りと比べると本との出会いはより簡単なものだったと思います。

リベロがエシエンに紹介した本の中から大事な本を選ぶとすると、「星の王子さま」ですね。とても大事な役割を担っています。一方、私自身の成長に非常に大きな役割を果たした本というと、ガルシア=マルケスの「百年の孤独」がそれに当たると思います。この本は私の世代にとってとても重要な本だったんです。確かイタリア語では1968年に出版されましたが、登場人物たちの描かれ方もファンタジーに満ちたもので影響を受けました。

――これから映画を楽しみにしている日本の観客に一言メッセージをいただけますか。

みなさんがこの映画を見て、良いものだと評価してくださることを心から願っています。みなさんの国から遠いところの物語だと思ってご覧になるかもしれませんが、これは夢ではなく現実であり、本当にあることなんだという気持ちで見ていただけたら嬉しいです。それぞれ生きてきた人生は違うし、期待するものも違うでしょうから、いろいろな感想があって当たり前ですが、私は本作を通して人と人の間にある、本当に大事なことは何なのか、愛とは何なのかということを伝えたいと思います。

 

クラウディオ・ロッシ・マッシミ
Claudio Rossi Massimi
監督・脚本
1950年、イタリア、ローマ生まれ。脚本家、監督、作家。1978年から現在に至るまでRAIと協力し、ドキュメンタリーやバラエティ番組を制作。近年では、歴史文化ドキュメンタリー番組の監督、RaiUno、RaiTre、Rai Storiaで放送されている歴史・文化ドキュメンタリーの監督兼作家を務める。2000年からはIMAGO Filmの芸術監督として49本のドキュメンタリーを制作している。2016年には初の長編映画『La Sindrome di Antonio』を発表。第12回インペリア国際映画祭で最優秀作品賞を受賞し、N.I.C.E.モスクワ、サンクトペテルブルク国際映画祭に選出、アリアーノ映画祭では特別賞を受賞した。2017年、ローマ教皇フランシスコのドキュメンタリー映画『Papa Francesco, La Mia Idea di Arte』を監督。2018年と2019年には、キプロスで開催されたイタリアン・フィルム・デーズの芸術監督、バクーでのイタリア・アゼルバイジャン国際映画祭の芸術監督を務めた。

 

本作のBOOK LIST

◆リベロがエシエンに薦めた本

「ミッキーマウス」Mickey Mouse
※イタリアでは「トッポリーノ」の名前で親しまれる。

「ピノッキオの冒険」Le avventure di Pinocchio(1883)
著:カルロ・コッローディ

「イソップ寓話集」Aἰσώπου μῦθοι/Aesop's Fables (紀元前6世紀) 
著:イソップ

「星の王子さま」 Le Petit Prince(1943)
著:アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ

「白鯨」Moby-Dick; or, The Whale(1851)
著:ハーマン・メルヴィル

etc.

◆発禁本棚

「デカメロン」Decameron(1348-53)
著:ジョヴァンニ・ボッカッチョ

「君主論」Il principe(1532)
著:ニッコロ・マキャヴェッリ

「天文対話」Dialogo sopra i due massimi sistemi del mondo(1632)
著:ガリレオ・ガリレイ

「純粋理性批判」Kritik der reinen Vernunft(1781)
著:イマヌエル・カント

etc.

◆その他登場する本

「ユリシーズ」 Ulysses(1922)
著:ジェイムズ・ジョイス

「われらが不満の冬」The Winter of Our Discontent(1961)
著:ジョン・スタインベック

etc.

『丘の上の本屋さん』予告編

 

公式サイト

 

2022年3月3日(金) 新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー

 

監督・脚本:クラウディオ・ロッシ・マッシミ
出演:レモ・ジローネ、コッラード・フォルトゥーナ、ディディー・ローレンツ・チュンブ、モーニ・オヴァディア

2021年/イタリア/イタリア語/84分/カラー/2.35 : 1/5.1ch

原題:II diritto alla felicità 字幕:山田香苗 
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館
提供:シネマライズ、ミモザフィルムズ 配給:ミモザフィルムズ

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