『少女は卒業しない』直木賞作家・朝井リョウの連作短編小説を原作に、中川駿監督が映画化した瑞々しさあふれる少女の青春ストーリー

『少女は卒業しない』直木賞作家・朝井リョウの連作短編小説を原作に、中川駿監督が映画化した瑞々しさあふれる少女の青春ストーリー

2023-02-22 10:00:00

校舎の取り壊しを目前に控えたある高校を舞台に、少女たちをめぐって繰り広げられる「最後の卒業式」までの2日間を描いた、純度の高い青春群像劇。

現役の高校生や「卒業」がまだ新鮮な記憶に残る若者にとっては、温度差なく味わえる作品に違いない。でも、青春時代をもはやぼんやりとしか思い出せず、そこに別段美しい過去など見当たらない大人たちが、青春物語に心踊るような魅力が感じられず、こういった類の映画を素通りしてしまうのもよくわかる。

とはいえ例えば、原作の冒頭の一文、「伸ばした小指のつめはきっと、春のさきっぽにもうすぐ届く」といった瑞々しい感性にグッとくる人は、年齢問わず多いのでは? と思う。これが映像になるとしたら、どうなるのだろう? と。

そして、ほろ苦さや甘酸っぱさ、初々しさ、まっすぐ、刹那……これらの言葉によって喚起される「青春」のイメージを、自身の過去に見つけ出そうと記憶の断片を探りはじめる。おそらくこの映画には、あなたが高校生であっても、大人であっても、そんな心の動きを発動させる力がある。どこを切り取っても、さまざまなニュアンスの輝きを帯びた宝石のような青春が漂っていて、それがとても眩しいと同時に、リアル(普通にありそう)でもあるから。

原作は『桐島、部活やめるってよ』や『何者』など、これまでも数多くの作品が映像化された最年少の直木賞作家・朝井リョウによる、少女たちが迎える別れと旅立ちを描いた連作短編小説。本作は、原作小説の出版から10年の時を経て映画化されたものである。朝井リョウのデビュー作『桐島、部活やめるってよ』では、バレー部のキャプテン・桐島が部活を辞めたことによって広がっていく波紋を描いている。ある高校を舞台とし、異なる語り手がすこしずつ重なりあって進行していく物語形式は、本作とも共通している。

監督を務めるのは、高校生を主人公に描いた短編映画『カランコエの花』が国内映画祭で13冠を受賞し話題となった中川駿。商業長編映画デビューとなる本作で、原作の瑞々しさをそのままに群像劇へと構成を変えた。

料理部部長の主人公・山城まなみを演じるのは、『サマーフィルムにのって』『ちょっと思い出しただけ』『PLAN 75』などで知られ、本作で初主演を果たす河合優実。バスケ部の部長・後藤由貴役に「中学聖日記」の小野莉奈。軽音部の部長の神田杏子役は、『ヤクザと家族 The Family』で主人公の娘役で映画デビューした小宮山莉渚。図書室に通う作田詩織役を、ミスiD出身で、『かそけきサンカヨウ』の中井友望が演じる。その他、窪塚愛流、佐藤緋美、宇佐卓真、藤原季節などが共演。

この柑橘系の爽やかな風が重なり合って音楽を奏でるようなアンソロジーは、現役高校生はじめ若者の心にピュアな感情を蘇らせるだけでなく、何かに行き詰まりを感じている多くの悩める大人たちの心にも風穴を開けてくれるだろう。そして、色あせた日常にキラキラと輝く瞬間をもたらしてくれるはずだ。

 

ストーリー

今日、私はさよならする。

世界のすべてだった

この“学校”と、“恋”と。

廃校が決まり、校舎の取り壊しを目前に控えたとある地方高校、

“最後の卒業式”までの2日間。

別れの匂いに満ちた校舎で、

世界のすべてだった“恋”に

さよならを告げようとする4人の少女たち。

抗うことのできない別れを受け入れ、

それぞれが秘めた想いを形にする。

ある少女は進路の違いで離れ離れになる彼氏に。

ある少女は中学から片思いの同級生に。

ある少女は密かに想いを寄せる先生に。

しかし、卒業生代表の答辞を担当するまなみは、

どうしても伝えられない彼への“想い”を抱えていたーー。

 

 

中川駿 監督

監督・脚本
1987年5月13日、石川県生まれ東京都育ち。大学卒業後、イベント制作会社を経て独立。イベントディレクターとして活動する傍らで、ニューシネマワークショップにて映画制作を学ぶ。自らが脚本・編集・監督した短編『カランコエの花』(16)はレインボー・リール東京 ~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でグランプリを受賞したほか、国内の映画祭を席巻。現在でも多くの企業や教育機関研修等で教材として、LGBTQの理解促進に貢献している。その他、過去の監督作品は『time』(14)『尊く厳かな死』(14)『UNIFORM』(18)など。本作が初の長編作品となる。

 

原作者・朝井リョウ からのコメント

鑑賞後、心底、このチームに製作していただけてよかった、と思いました。良質な映画を観たあとにしか得られないあの独特の幸福感を胸に劇場を出ると、普段は社会人の顔をしている関係者陣が皆同じように目をトロンとさせていたので、だよね、超よかったよね! とタメ口で話しかけそうになりました。自著が原作の映画をこんなにも褒めてしまうのは、非常に巧みで適切な改変のおかげで、原作者というより一人の観客という距離感で映画に臨めたからです。オリジナルのシーンが尽く素晴らしいこと、この題材でターゲットを選ばない作品に仕上げていただいたこと――沢山の有り難さを噛み締めています。この映画から旅立っていくキャストの方々の未来まで、楽しみになりました。

作家
1989年、岐阜県生まれ。小説家。2009年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2013年『何者』で第148回直木賞、2014年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞、2021年『正欲』で第34回柴田錬三郎賞を受賞。2023年に『正欲』の映画が公開予定。

 

『少女は卒業しない』予告編

 

公式サイト

 

2023年2月23日(木・祝) 新宿シネマカリテ、渋谷シネクイント、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー

 

Cast

河合優実
小野莉奈 小宮山莉渚 中井友望
窪塚愛流 佐藤緋美 宇佐卓真 / 藤原季節

Staff

監督・脚本:中川駿
原作:朝井リョウ『少女は卒業しない』(集英社文庫刊)
主題歌:みゆな「夢でも」(A.S.A.B)
製作:藤本款 堤天心 佐竹一美
プロデューサー:宇田川寧 藤本款
音楽プロデューサー:杉田寿宏  アソシエイト・プロデューサー:松原希衣
音楽:佐藤望 撮影:伊藤弘典
照明:高橋拓 録音:鈴木健太郎
美術:宍戸美穂 編集:相良直一郎
衣裳:白石敦子 ヘアメイク:杉山裕美子 キャスティング:東平七奈 
助監督:中里洋一 制作担当:田口大地 ラインプロデューサー:島根淳
製作プロダクション:ダブ
製作:映画「少女は卒業しない」製作委員会(クロックワークス、U-NEXT、ダブ)
配給:クロックワークス

2023年|日本|120分|シネマスコープ|5.1ch|G
© 朝井リョウ/集英社・2023映画「少女は卒業しない」製作委員会