「キャデラックが女性を妊娠させた史上初の映画」スパイク・リー審査委員長、第74回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞ジュリア・デュクルノー監督『TITANE/チタン』
驚愕の映画体験を強いる映画『TITANE/チタン』。監督のジュリア・デュクルノーは2016年のデビュー作『RAW〜少女のめざめ〜』でカンヌ国際映画祭批評家連盟賞を受賞し、二作目の『TITANE/チタン』で、パルムドールを受賞した。
女性監督のパルムドール受賞は、1993年に受賞したジェーン・カンピオン監督の『ピアノ・レッスン』に継いで二人目。授賞式では、スパイク・リー審査委員長がパルムドールの発表をフライングする一幕もあったためか、デュクルノー監督へのプレゼンターは、『氷の微笑』で一世を風靡し、カンヌ映画祭で「芸術文化勲章のコマンドール」に任命されたハリウッド女優シャロン・ストーンが行った。
カンヌ国際映画祭受賞レポート(ロイター通信)
ストーリー
幼い頃、交通事故により頭蓋骨にチタンプレートが埋め込まれたアレクシア。
彼女はそれ以来〈車〉に対し異常な執着心を抱き、危険な衝動に駆られるようになる。
自らの犯した罪により行き場を失った彼女はある日、消防士のヴァンサンと出会う。
10年前に息子が行方不明となり、今は独りで生きる彼の保護を受けることになり、ふたりは奇妙な共同生活を始める。
だが、彼女は自らの体にある重大な秘密を抱えていた ──
予告編
常にアウトサイダーであることが、新しい境地を切り開くこと
対談:シャロン・ストーン X ジュリア・デュクルノー (Indie Wire)
シャロン・ストーン:『チタン』についてたくさん聞きたいことがあります。
まず、この作品はパルムドールを受賞するに値する傑作です!ジュリア、あなたはいくつですか?
ジュリア・デュクルノー:1週間前に38歳になりました。
S.ストーン:お誕生日おめでとう。私は63歳です。
私は、自分の世代で最大の興行収入を上げた女性スターの一人であり、これまで誰よりも多くの興行収入を稼いできました。
でも、私が映画を監督しようとしたときには、スタジオからは最小の予算さえ与えてくれなくて、彼らに頼んだら私のことを笑い、ずっと笑い続けられました。
私が監督をしたいときにスタジオの彼らがしたことはとても厳しく、そして不愉快なものでした。
絵コンテだけでなく、1ショットずつ細かく脚本と音楽を提案し、私のプレゼンはベストだと言われましたが、女性が監督をするのは無理だと言われるのは、まるで私が冗談を言っているかのようです。
だから、若い女性監督がパルムドールを受賞したことは、私にとって特別なことでした。
女性についての前衛的な映画で、自分が生きている間に世界が変わり、女性が変わりつつあることを目の当たりにしたのですから本当に素晴らしいことです。
私たちの前にいた素晴らしい女性たち、アニエス・ヴァルダ監督(1928-2019『顔たちところどころ』)をはじめ、懸命に映画の世界で努力し、多くのことを成し遂げた女性たち、映画編集者だったセルマ・スクーンメイカー(1940年生まれ、『アビエイター』『ディパーテッド』)など映画の世界で何かを成し遂げた女性たちが、あなたが監督し、映画を作り、受賞することを可能にしてくれたのです。
文字通り産声を上げた赤ちゃんを見るような瞬間でした。
私はその歴史を手に立ち尽くし、その映画に立ち会えました。あなたには感謝しかありません。
ところで、質問なのですが『チタン』は、主人公が立ち上がるところから始まり、そして再び残忍な目に合います。
この繰り返される彼女の体験から映画を始めることにした理由をお聞かせください。
J.デュクルノー:私はフェミニストのステレオタイプである柔らかさ、礼儀正しさ、素晴らしい身体、そういったものをすべて覆すような非常に暴力的なキャラクターを作ることにしました。
私は自然に、その怒りを吐き出す必要があったのだと思います。
それが、私があのキャラクターに共感する唯一の方法だったと思います。
「彼女がやっていることを道徳的に支持する必要はないんだ。ただ、彼女が感じていることを感じる必要があるんだ。」
これは私が感じていることで、彼女は私の人生の中でたくさん人を殺すことになるだろうとわかっていました。
S.ストーン:炎も良かったです。消防士の設定は?
J.デュクルノー:ヴァンサンが空港に迎えに来たとき、最初から彼は、自分の息子ではないとわかっていた、というお話について、ちょっとだけ戻ります。
このヴァンサンというキャラクターは、実は私にとって、最初の頃は『めまい』(1958年、アルフレッド・ヒッチコック監督)の主人公のように自分のファンタジーを生きようとしている人物でした。
ヴァンサンにとって、彼女が誰だかは重要ではなく、目の前にいる人物を通して、彼の息子との幻想を掻き立て、その人物を自分の望む姿にしたいのです。
彼らの関係は、最初からウソでできていて、そのウソから発せられる暴力は、何があっても互いを必要としている…生き残るために、両方の生き残りだけのためなのです。
S.ストーン:私たちは彼らを選び、何かになるように想像します。そして、その人を受け入れ始めるのです。私の欲望から、実際にそうなってしまったのです。
この映画は男性がこの怒りをずっと受け入れなければならないようなものだと思います。そうでなければ、女性は女性の怒りだけを産み続けることになるのです。
J.デュクルノー:私にとってジェンダーは私とは関係のない社会的枠組みであり、自分自身が定義されるものではありません。
私はそのルールを守るつもりはありません。
キャラクターが車とセックスするシーンは、彼女の進化のために、また人間関係のために、非常に重要な引き金となるシーンです。
それは、私たちがキャラクターについてどう考えるか、彼女自身が人間性を保ちつつ、同時に彼女の体に広がる金属板が成長し始め、ますます非人間的になっていくという事実について決定するでしょう。
私は、このことをずっとそう思っていられるといいと思います。
でも、パルムドールを取った後は、自分がアウトサイダーのようで、これからもずっとアウトサイダーのように感じるのでしょう。
S.ストーン:常にアウトサイダーであることが、新しい境地を切り開くことになるのだと思います。
本編映像
『TITANE/チタン』
4月1日(金)新宿バルト9、アップリンク吉祥寺、アップリンク京都他全国ロードショー
監督・脚本:ジュリア・デュクルノー
出演:ヴァンサン・ランドン、アガト・ルセル、ギャランス・マリリエ、ライ・サラメ
フランス/108分
提供:ギャガ、ロングライド 配給:ギャガ
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