『ワース 命の値段』このプロジェクトは被害者遺族の感情に寄り添い、敬意を示すことがかかせなかった

『ワース 命の値段』このプロジェクトは被害者遺族の感情に寄り添い、敬意を示すことがかかせなかった

2023-02-25 14:04:00

『ワース 命の値段』は、2001年9月11日に起きた同時多発テロによる被害者とその遺族への国家による補償を一任された弁護士チームの物語だ。

交通事故や病気の場合の保険の受け取りに関しては、相手が保険に入っていたり、自分自身が保険に加入していれば、それなりの計算式があり、当事者も事前にそれを了承しているだろう。しかし、同時多発テロの被害となると、前例がなく民間の飛行機会社が倒産しないようにと補償の基金を政府が作り、7000人と言われる被害者とその遺族に補償額を査定して分配することになる。

補償金を分配するルールは、いわば後出しジャンケンで基金の弁護士チームがルールを作るのだ。当事者たちはすぐには了承できなのは明白だ。

映画のモデルとなったケネス・ファインバーグ弁護士は当時を振り返りこう語る。

「9.11補償基金はテロ13日後に批准し、被害者は悲しむ、悼む時間がありませんでした。愛する人を失った遺族や、怪我を負った方々にとっては、お金よりも感情を吐き出す場が必要でした。このプロジェクトは被害者遺族の感情に寄り添い、敬意を示すことがかかせなかったんです」

映画では、個々のケースの補償の計算式の詳細が示されることはないが、事件後、まず遺族たちの感情の行き場がない状態で「命の値段」を提案し交渉を始めるのは至難だった。

遺族らの感情と対峙するには「命の値段」ではないことを、交渉を何度も重ね時間を費やしたファイバーグ弁護士は最終的に気付くことになる。
それは、遺族や被害者たちの話に耳を傾けることだった。

しかし、話を聞くだけでは残された遺族や健康被害を追った被害者たちの補償は賄われることはない。実際には米政府は補償の制度設計を何度も繰り返し、永久保証とも言える2090年まで保証期間を延長するのだった。

サラ・コランジェロ監督インタビュー


(画像左:サラ・コランジェロ監督)

──脚本を読んだとき

2018年に脚本を読んで、その時にはマイケル・キートンの主演も決まっていて、レジェントと一緒に仕事できるのはとても楽しみでした。脚本で惹かれたのは、9.11被害者補償基金の複雑な使命と、ケネス・ファインバーグ弁護士が直面するモラルの葛藤です。“命に値段をつける”ことは非人道的であり、哲学的な課題でもある。失われた命を取り戻すことはできなくても、失われた収入や生活を取り戻すことはできるかもしれない。悲劇により傷ついた何千もの家族の傷を癒やすことはできるかもしれない。損失をお金に算出する合理性と、無数の悲劇による心の傷がどのようにぶつかり合うかを監督として探りたいと思いました。

──映画化するうえでのリサーチ

ファインバーグの回想録『What Is Life Worth?』や出版されている被害者たちの物語を読んだりしました。脚本でどうしても入れたいと思ったのは、回想録に書かれていた不法移民の遺族と、同性カップルの相手が補償を受ける対象になるのか、というエピソードです。この二つのエピソードに心を動かされ、これはどうしても伝えたい物語だと脚本家のマックス・ボレンスタイン相談してストーリーに入れました。

──本作で表現したかったこと

ファインバーグと共同パートナーのカミール・バイロスが、どうすれば犠牲者たちを満足させられるのか、その過程でどのような心境になるのかを表現したかったのです。私にとって本作は、計算機のような男が人間的に変化していくまでの道のりを描いています。合理的な力に頼っていた人が思いやりの力と、柔軟性を身につけていく。彼は資本主義の構造の中で努力し、時にはそれを覆し、人間性を見出していく。この変化は監督としてもインスピレーションを受けました。

──マイケル・キートンとの仕事について

キートンはプロデューサーにも名乗り上げてくれ、作品についてリサーチしたり、脚本家と話し合うこともあった。一筋縄ではいかないキャラクターに挑戦し、素晴らしい演技をしてくれました。キートンとバイロス演じるエイミー・ライアンから学んだことは、マイクロマネジメントしないということです。二人の演技には驚かされることばかりで、彼らの直感に任せてやってもらうのがいいんだと学びました。

──映画に込めた思い

歴史の中には、日常生活が失われ、私たちが相互に結びついていることを実感する瞬間があります。9.11は、ほとんどのアメリカ人にとってそのような瞬間でした。本作は、人々が国を再建するために党派を超えて団結した瞬間を描いています。悲劇が起きると、全体の一部であると感じたい強い欲求がしばしば生じます。利他主義や協力は、パニックや個人主義に奇跡的に打ち勝つことができる。私たちがいかにお互いに結びついていたか、そして今もそうであるか、本作が思い出させてくれることを願っています。9.11の甚大な影響と、消防士から弁護士まで、政治家から配管工まで、力を合わせて世界を元に戻そうとした偉大な人々について、観客の皆さんが理解してくれることを願っています。

監督プロフィール

ニューヨークを拠点に活動する、作家兼監督。ブライン大学で歴史学の学士号を取得し、ニューヨーク大学大学院映画学科で修士号を取得。卒業制作の『リトル・アクシデント』は、2010年のサンダンス映画祭で世界初公開され、シアトル国際映画祭審査員賞、サンフランシスコ・ショート・フェスティバルなど数々の賞を受賞。2010年Filmmaker Magazine誌の 「インディペンデント映画の25人の新たな顔」 の一人に選ばれた。この短編映画から着想を得た長編デビュー作『リトル・アクシデント-闇に埋もれた真実-』(2014)は、エリザベス・パンクス、クロエ・セヴィニーが出演、インディペンデント・スピリット賞の最優秀脚本賞にノミネートされた。『キンダーガーテン・ティーチャー』(2018) では、サンダンス映画祭で監督賞を受賞。

 

ストーリー

2001年9月11日、アメリカで同時多発テロが発生した。未曾有の大惨事の余波が広がる同月22日、政府は、被害者と遺族を救済するための補償基金プログラムを立ち上げる。プログラムを束ねる特別管理人の重職に就いたのは、ワシントンD.C.の弁護士ケン・ファインバーグ(マイケル・キートン)。調停のプロを自認するファインバーグは、独自の計算式に則って補償金額を算出する方針を打ち出すが、彼が率いるチームはさまざまな事情を抱える被害者遺族の喪失感や悲しみに接するうちに、いくつもの矛盾にぶち当たる。被害者遺族の対象者のうち80%の賛同を得ることを目標とするチームの作業は停滞する一方、プログラム反対派の活動は勢いづいていく。プログラム申請の最終期限、2003年12月22日が刻一刻と迫るなか、苦境に立たされたファインバーグが下した大きな決断とは……。

 

予告編

 

公式サイト

2月23日(木・祝) TOHOシネマズ シャンテ、アップリンク吉祥寺ほか全国公開

監督:サラ・コランジェロ
脚本:マックス・ボレンスタイン
出演:マイケル・キートン、スタンリー・トゥッチ、エイミー・ライアン

2019年/アメリカ/英語/118分/シネスコ/カラー/5.1ch/原題:WORTH

日本語字幕:髙内朝子
提供:ギャガ、ロングライド 配給:ロングライド

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