『浮かぶ』天狗の伝承が伝わるある町を舞台に、神隠しにあった妹をめぐる姉妹と少年の心の機微を描いた物語

『浮かぶ』天狗の伝承が伝わるある町を舞台に、神隠しにあった妹をめぐる姉妹と少年の心の機微を描いた物語

2023-02-02 10:30:00

天狗の神隠しにあった妹と、天狗に選ばれなかったことに対する複雑な感情を抱く妹思いの姉、それを見守る少年の心情が繊細に描かれた物語。天狗の伝承が伝わる土地という背景、長い沈黙とそれを破る短い台詞の連なりによって、どこかこの世ならざる磁場のようなものが形成され、独自の静謐な神話的世界観が作られてゆく。

監督は、早稲田大学映像制作実習にて制作した短編『ひとひら』がThe 5th Asia University Film Festival 審査員特別賞受賞した新進の若手、吉田奈津美。本作は、第15回田辺・弁慶映画祭コンペティション部門、第22回 TAMA NEW WAVE 「ある視点」部門に選出された。

主人公・結衣役を演じるのは『アイスと雨音』『蒲田前奏曲』で注目を集め、本作が長編映画の初主演となる田中なつ。結衣の妹・佳世役には『ソワレ』『ひらいて』などで知られ、本作では題字も担当した芋生悠。少年・進役を、本作が長編映画デビュー作となり、のちに『裸足で鳴らしてみせろ』で初主演を務めた諏訪珠理が演じる。

実在するある町を舞台に、ほぼオールロケで撮影された本作。多感で不器用な年頃の姉妹と少年の複雑な心の機微は、主に視線を通して丁寧に描かれてゆく。監督は、「視線を受ける側と送る側の相互理解の難しさに切り込んだ内容。現代社会において視線を受ける人々に対する周囲の見方が本当に正しいものであるのか、本作はこれまでになかった切り口から世の中へ問いかけている」と語る。

確かに、全体を通して台詞が極端に削ぎ落とされ、「沈黙」あるいは「語られていないこと」による饒舌さが際立っている。沈黙の画面を埋めるのは、台詞よりもむしろ音、そして視線。伝わってくる何か、隠れている何かを、想像力を駆使して感じとることの力強さ、そして意味深さを教えてくれる映画である。

 

ストーリー

かつて、木々が鬱蒼と生茂る大きな森に囲まれていた町。

そこには古くから伝わる天狗の神隠し伝説があった。

主人公の結衣は、町に残る最後の林が伐採されることをきっかけに、
十一年前、神聖な森だったその林で年子の妹である佳世が神隠しにあっていたことを思い出す。

「あの日、佳世の隣には私もいたのに、自分は選んでもらえなかった」

風に揺れる木々に誘われるかの様に、伐採前の林へと足を踏み入れていく結衣。

一方姉妹と幼馴染みの進は、そんな結衣の行動に苛立ちを見せるのだった。

 

 

吉田奈津美 監督

1996 年生まれ。2017 年度に早稲田大学の映像制作実習で、監督として映画『ひとひら』(30 分尺)を制作する。
- 映画『ひとひら』-
2018 年4 月第10 回沖縄国際映画祭U-25 部門入選
2018 年10 月Asia University Film Festival 審査員特別賞受賞

 

『浮かぶ』予告編

 

公式Twitter

 

2023年2月3日(金)〜10日(金) アップリンク吉祥寺にてロードショー

 

Cast
田中なつ、芋生悠、諏訪珠理、三坂知絵子、中原潤、小野孝弘、新津ちせ、竹下かおり、手嶋啓子、山岡竜弘、稀、高畑保弘

Staff
監督・脚本・編集:吉田奈津美
撮影:杉山綾 照明:林大智 録音:小川賢人、道上哲弘 
助監督:森雄大、町田梨華、羽蚋拓未、甲斐力哉 ヘアメイク:ほんだなお
配給・宣伝:MOEWE

2021年/日本/85分/DCP/カラー/アメリカンビスタ

(C)2021 MOEWE