『THE FOOLS 愚か者たちの歌』⻑年に渡りアンダーグラウンド・シーンの帝王に君臨してきたロックバンドの奇跡の軌跡
1980年に結成して以来、アングラの帝王を貫き、孤⾼のロックバンドであり続けた〈THE FOOLS〉。名ギタリスト・川⽥良と、無⼆の存在感を放つボーカリスト・伊藤耕を中⼼に、ひたすら独自のロックを体現することに命を捧げた彼らは、多くのミュージシャンをはじめ、俳優、作家、演出家など数々の表現者にも影響を与えてきた。本作は〈THE FOOLS〉の80年代、90年代、そして21世紀と10 年の歳月をかけて彼らに密着した壮絶なドキュメンタリーである。
監督を務めるのは、キューバの⾳楽事情を活き活きと描いた『Cu-Bop』(15)の⾼橋慎⼀。10代の頃から追い続けた〈THE FOOLS〉に10年かけて密着、新旧メンバーやザ・クロマニヨンズの甲本ヒロト、JAGATARA の OTO や EBBY らにも取材を重ね、まさにメンバーの⼈⽣と並⾛しながら、メンバーの生と死に直面しながら、映像を紡いだ。
類い稀な音楽センスと技術に恵まれながら、メジャーデビューの道を歩むことがついになかった彼ら。それどころか、ドラッグによる度重なる逮捕やトラブル、相次ぐメンバーの病死、そして伊藤の獄中死……。彼らが崖っぷち人生を歩みながら命がけで残したものは、その壮絶な生き様から絞り出された迸るエネルギー、魂の声。
当時、『いか天』に代表されるような世間のバンドブームを横目に、ひたすら独自の表現活動を続けた彼らはこうして、パンクロックという枠組みで括ることのできないカリスマバンドとなっていった。そんな彼らを追いかけた本作もまた必然的に、音楽ドキュメンタリーという枠組みに収まらない比類なき映画となった。
魂の内奥深くから生まれ出てくる音が、人間の綻びや不器用さを丸ごと許容してくれる深い愛と優しさに満ちていることを、彼らはその全存在をもって教えてくれている。
いか天:TBSで放送された深夜番組「平成名物TV」の1コーナーで、正式名称は『三宅裕司のいかすバンド天国』。1989年2月11日に始まり、1990年12月29日に多くのバンドを輩出して幕を閉じた。この番組に出場したバンドの総数は846組。
ストーリー
2013年 1⽉、⼀⼈の男が横浜刑務所から出所してきた。男の名は伊藤耕、ロックバンド THE FOOLS のボーカリストだ。 THE FOOLSは 1980 年から活動する、アンダーグラウンド・シーンを代表する伝説的なバンド。伊藤耕、ギターの川⽥良を中⼼に、複数回のメンバーチェンジを経ながらも活動を続けてきた。
伊藤は 1986 年に⿇薬取締法違反で服役して以来、今回 7 度⽬の服役からの出所となる。バンドのメンバーは伊藤の逮捕・服役の度、時に反⽬し、時に寄り添いながら、彼の出所を待ち続けた。 今回の出所を待っていたのは、70 年代から活動を共にする盟友、ギタリストの川⽥と 89 年の加⼊以来バンドサウンドを⽀えるベーシストの福島誠⼆。出所して1 回⽬のリハーサルを⾏うためにスタジオに集まった4 ⼈は、伊藤の復帰ライブに向けて⽤意した楽曲の⾳合わせをはじめる。ライブを待ちきれぬ伊藤は本番さながらのテンションでシャウトする。
しかし、出所後の初ライブからわずか半年で伊藤が再逮捕。拘留・裁判中に川⽥が死去し、バンド存続の危機に⽴たされる。 2015 年、THE FOOLS は新たなメンバーを迎え、裁判中の伊藤と共にライブ活動を再開。上告が棄却され有罪が確定し、再収監が迫る中、ニューアルバムのレコーディングがスタートする。
レコーディングは伊藤が服役した後にも続けられ、彼が獄中にいる 2016 年 9⽉に 25 年ぶりのフルアルバムとして発表される。 2017 年 10 ⽉、伊藤が服役中の北海道・⽉形刑務所で獄死。出所を40⽇後に控えての死だった。東京・⾼円寺の葬儀場を埋め尽くしたロッカーたちに⾒送られ、遺体は出棺された。2019 年、伊藤耕の妻・ます⼦は「刑務所内での不当な扱いによって耕は亡くなった」として、国家賠償請求訴訟を開始、裁判は現在も続いている。
⾼橋慎⼀ 監督コメント
10代の頃、パンクロックと出会ったことで僕の⼈⽣は⼤きく変わった。
複雑な家庭環境に⽣まれ、勉強も駄⽬、スポーツも駄⽬、何をやっても⼈並み以下で半ば⼈⽣を投げていた無気⼒少年の胸に、パンクロックは天空からの雷鳴のごとく突き刺さった。鬱屈した実⼈⽣への怒りからだろう、当初僕はパンクの持つ暴⼒性、反社会性に激しく共鳴し、過激なステージングを標榜するバンドのライブに⾜繁く通った。1980 年代半ば、インディーズシーンが隆盛を迎え、都内のライブハウスでは数多くのロッカーたちが競うように、激烈な個性むき出しのステージを展開していた。
ライブハウスに⾜繁く通ううちに、インディーズシーンには『パンク』の⼀⾔ではくくれない、多様な⾳楽性を持つバンドが数多く存在することを知った。諧謔精神を演劇的なステージに昇華させた「有頂天」率いいるナゴムレコードの⾯々、パンクを暴⼒性ではなく共感によって拡散した「ザ・ブルーハーツ」、インディーズの精神でワールドミュージックを表現した「JAGATARA」。彼らのステージに触れ、その⾳楽世界の豊かさに魅了されたが、中でも僕を強烈に引きつけたのが「THE FOOLS」だった。
「THE FOOLS」が奏でる⾳楽は、奇を衒わないロックだ。それもとびきり極上の。奇抜な⾐装も、過剰な演出も、豚の臓物を投げつけるような過激なステージングもない。普段着のまま舞台にたったメンバーは、圧倒的な技術と集中で、奇跡のような素晴らしいステージを何度も繰り広げた。かと思うと、どんな事情からかグダグダの演奏を聴かせる夜もあった。それどころか、ボーカリストの伊藤耕が遅刻して、ボーカル抜きでステージが始まる時もあった。
「THE FOOLS」のステージは、いつでも同じ演奏を提供するような、パッケージされた商品ではない。メンバーの⽣き⽅そのものを表現する、⼈⽣と地続きの舞台なのだ。彼らの圧倒的な演奏、その対極にある奔放さに魅了されライブハウスに⽇参する⽇々が続いたが、耕のドラッグ使⽤による逮捕と懲役により、活動が停⽌、フェードアウトしていった。
2007年、10数年ぶりに「THE FOOLS」が活動を再開したとき、僕はフォトグラファーとして彼らのステージを撮影し始めた。そして2012年からはカメラをビデオに持ち替え、ドキュメンタリー映画の製作に乗り出した。彼らの⾝に降りかかる騒動の数々を記録するには、写真ではなく映画でなければ表現しきれない、と感じたからだ。本作をご覧いただいた⽅には、納得いただけると思う。
10 年越しの撮影で、メンバー 4 ⼈の死に向き合うことになった。バンドは伊藤耕の獄中死により活動を停⽌するという悲劇的な結末を迎えるが、それでもなお、彼らが残した⾳楽、それを記録した映像の熱量が消えることはない。命がけのロックンロールから何かを感じてもらえたら、監督としてそれ以上望むものはない。
⾼橋慎⼀
監督・撮影
1997年より、雑誌・書籍・CD ジャケット等でフォトグラファーとして活動中。またライターとして、ジャズ、ワールドミュージック等の⾳楽分野から、旅⾏記、⼈物ルポまで、旺盛な執筆活動を展開している。 2015年にドキュメンタリー映画「Cu-Bup」を初監督。製作、撮影と⼀⼈三役をこなし、⽇本・キューバ・アメリカ合衆国のスタッフ、ミュージシャンが入り乱れる本作を完成させた。2015年2⽉には、⽶国・ロサンゼルスで⾏われた国際映画祭「PAN AFRICAN FILM FES」のオフィシャル・セレクション作品に選出され、キューバが舞台となる⾃主制作映画でありながら、国交断絶中の⽶国・ロサンゼルスでワールドプレミア上映が⾏われる快挙を達成。続く 6 ⽉には⽶国最⼤の映像団体AFI(アメリカン・フィルム・インスティトュート)がワシントンD.C.で主催する映画祭「D.C.Caribbean Film fes」でオープニング上映作品に選出された。⽇本では 2015 年 7 ⽉から渋⾕アップリンクで上映がスタート。その後、⾳楽ドキュメンタリー映画としては異例の約半年に及ぶロングラン上映を達成した。
『THE FOOLS 愚か者たちの歌』予告編
公式サイト
2023年1月13日(金) ヒューマントラストシネマ渋谷、ほか全国順次ロードショー
2023年2月 3日(金) アップリンク京都
伊藤耕 川⽥良 福島誠⼆
村上雅保 關⼝博史 若林⼀也 ⼤島⼀威
中嶋⼀徳 ⾼安正⽂ 栗原正明 庄内健
ラインプロデューサー:伊賀倉健⼆
編集:遠⼭慎⼆
ノベライズ:志⽥歩『THE FOOLS Mr.ロックンロールフリーダム』(東京キララ社)
監督・撮影 ⾼橋慎⼀(Cu-Bop)
2022年/⽇本/カラー/ステレオ/113分/ヴィスタサイズ
配給 マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム
©️2022 愚か者たちの歌